2014年 仙人の会10月例会


仙人の会、アジア人類学研究会 共催
 「東アジアの戦争観光とナショナリズム:日本・中国・ベトナムの比較を通して」


日時:10月4日(土)14:00-

場所:亜細亜大学総合研究棟(6号館)2階第8会議室
 現地へのアクセスについては、こちらをご覧ください。
   交通アクセス(Copyright (c) Asia University)
※会場がこれまでと異なっていますので、ご注意ください。

プログラム

14:00-14:10 趣旨説明

14:10-14:40 報告1

 高山陽子(亜細亜大学)「土産物の中の毛沢東:中国の紅色旅游とナショナリズム」

14:40-15:10 報告2

 山口睦(亜細亜大学)「エンターテイメントとナショナリズム:ゼロ戦映画を中心に」

15:30-16:00 報告3

 大塚直樹(亜細亜大学)「ホーおじさんと観光:ベトナム・ナショナリズムの一側面」

16:10-16:20 コメント 岡本亮輔(聖心女子大学)

16:20-17:30 総合討論

報告要旨

報告1「土産物の中の毛沢東:中国の紅色旅游とナショナリズム」(高山)

 紅色旅游は、中国共産党ゆかりの場所を訪れる観光である。毛沢東の故郷である韶山、革命根拠地が置かれた井岡山や延安などには、毛沢東や朱徳らが住んだ家屋が復元され、様々な記念館が建てられている。そこでは、毛沢東像や毛沢東バッジや宣伝画のレプリカなどが土産物屋で売られる。共産党指導者の肖像や文化大革命期に作られた宣伝画は観光資源となり、毛沢東像の商品化が進む一方で、毛沢東像の品質管理が進められ、北京と上海で行われたアンディ・ウォーホル展では毛沢東の肖像の展示が禁止された。こうした背景を踏まえ、本発表では土産物のモチーフとなる毛沢東像を取り上げ、観光とナショナリズムについて考察する。

報告2「エンターテイメントとナショナリズム:ゼロ戦映画を中心に」(山口)

 2013年は、日本社会において「零戦」が戦後、何度目かのブームを迎えた年であった。零戦の設計士堀越二郎を題材にした宮崎駿監督による『風立ちぬ』が7月に公開され、百田尚樹原作の『永遠の0』が12月に公開された。識者によって「右傾エンタメ」とも称された『永遠の0』は、文庫版の出版部数が300万部を突破、映画の観客動員数は700万人を超えた。映画の撮影で使用された零戦の復元機は、宇佐市平和資料館に買い取られ、2013年6月の開館から見学者は3か月で1万人を超えたという。現在国内において、復元機、レプリカを含めて12機の零戦が保存、展示されている。こういった現象を前に、次のような疑問がわいてくる。なぜ、戦後70年を前に旧海軍の戦闘機である零戦が人気なのか、なぜ零戦を引き揚げるのか、なぜ零戦を復元するのか、そして、なぜ人々は零戦を見に行くのか。零戦は何を象徴しているであろうか。  本発表では、これらの疑問を検討するために、戦後の日本社会で零戦を巡るエンターテイメント、零戦の回収、復元、展示活動などを分析する。また、鹿児島県の鹿屋航空基地史料館、万世特攻平和記念館、知覧特攻平和会館を事例として零戦展示と地域社会の関係性について考察する。

報告3「ホーおじさんと観光:ベトナム・ナショナリズムの一側面」(大塚)
 本発表では、ベトナム建国の父とも呼ばれるホーチミンについて、ホーチミン博物館(ホーチミン市館)の展示や参観者の実践を通じて、彼のカリスマ性の特徴を解明し、そのキャラが土産物のなかでどのように表現されているのかを明らかにすることを目的とする。
 発表ではまずホーチミンが死去した後のベトナム社会における同氏の位置づけを紹介する。次に、ホーチミン博物館の展示内容を紹介しつつ、公式見解としてホーチミンの位置づけと、参観者(主としてベトナム人)の行動からみるホーチミンの存在意義を考察する。最後に、こうしたホーチミンが観光の現場(お土産物売り場)でどのように流用されているかを明らかにする。
 以上から、故ホーチミンが現在のベトナム社会のなかで、神聖性と大衆性をあわせ持った存在として位置づけされること、そうした特徴がホーおじさんグッズの土産物の種類やディスプレイにも反映されていること明らかにしようと試みる。