発表者:原尻 英樹氏(立命館大学教授)
日時:1月30日(土) 14:00〜18:00ごろ
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎5階352教室
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発表題目
武道における身体論研究の方法論:合気柔術と琉球古流空手を事例として
要旨
今回の発表内容は、二部構成になっている。最初の一部は、資料紹介等であり、二部が今回の発表のメインになっている。一部においては、(1)朝鮮を事例にとった東シナ海域研究のための基本的方法の紹介、(2)在日外国人研究の問題点、以上について30分ほどで発表し、質疑応答をする。
二部については、以下のようになっている。
「武道における身体論研究の方法論:合気柔術と琉球古流空手を事例として」
キーターム:近代的身体、前近代的身体、視覚、立体的、球体の動き、波動
今回の発表の前に、確認しておかなければならないことがある。それは人間の視覚についてであり、人間の視覚は三次元の空間を網膜という二次元の世界に写すことで成立っている。知覚心理学でいわれていることは、人間のもっている空間、つまり三次元の世界についての認識とは、三次元世界そのものではなく、人間が二次元的、平面的世界で再構成した、人間がつくりだした世界に基づいている。人間の視覚情報をもとにつくられた、一見すると三次元的世界にようにみえるものも、実際は、三次元世界そのものではなく、人間によって加工された世界になっているといえる。つまり、人間の視覚情報をそのまま客観的な情報として取り扱うことはできないのであり、我々人間の視覚には見えない三次元世界があることを認めなければならないのである。
後述するように、武道の基本原理は平面的な動きではなく、立体的な動きに基づいており、これは通常の視覚ではそのまま把握できる対象にはなっていない。しかしながら、我々が学問的分析を遂行するうえでは、視覚情報を使わざるを得ないのであって、これを一つの方便として活用する以外に適切な方法があるとは考えられない。この観点から、視覚情報の限界を知ったうえで、実は我々には感知できない立体的世界について考えていることを前もって知っておかなければならない。ここでは、これは何らかの立体的動きであり、そしてそれは大半の現代人にとっては、平面的に映るが、実はそのような動きそのものではないという、基本的覚悟が必要なのである。つまり、技そのもののについての認識ではなく、技を理解する糸口をつかむための認識が、今回の発表の目的になっている。
さて、私が制作したDVDをまず観ていただきたい。最初が、合気柔術による基本技とその応用である。次が、首里手と呼ばれている古流の空手の基本技である。DVDのなかでも解説しているが、丹田を中心としたところで、球体あるいは螺旋形の動きをおこし、その波動を自らの末端まで伝え、それを相手に伝えることで技にしていることがわかる。これは、腰のあたりのインナーマッスルを、関節をはさんで連結させ、そこで生じた波動を手の指等の末端に伝達させているとも言い換えることができる。この基本的動かし方は首里手でも同様であり、双方の基本原理になっているといえる。しかしながら、技が熟すれば熟するほど、動きは繊細となり、描かれる球体自体が小さくなっていく。ある段階以上になると、見た目ではどのように動いているかがわからなくなり、単に、演武者の腰のあたりが重くみえるだけになってしまう。
これらの事例を身体論研究の方法のレベルから考えると、まず、通常の体育理論、スポーツ理論といった近代的身体を前提とした身体論は、ここでは通用しない。例えば、身体の移動の方法は、倒木法と呼ばれる、自然の重力に逆らわずに、それを利用してエネルギーをそれほど使わずに、無拍子(反動をつけずに)で動くやり方になっており、しかも足の着地は足裏全体でおこなっており、これも近代的歩き方にはない方法になっている。
研究方法の第一前提は、操作的に近代的身体と前近代的身体を分けることである。現代の日本における身体はほぼ近代的身体になっているが、農業等の第一次産業従事者の一部にはまだこの身体が自然な形で継承されている面があり、操作的に分ける理由はそこにある。次に、前述のように近代的な視覚情報によっては前近代の技を理解できないのであるから、研究者自らが技の修得をする必要がある。この学習過程のなかで、どのような原理が働いているかを、当初は特定の技言語を介して学び、そしてそれを普遍言語に翻訳すればどのような表現になるかを考察しなければならないといえる。もちろん、その際には先行研究等も参照するが、自らが技を修練し、修得していったというフィールドデータが最も重要だと考えられる。それから、別の武道(文化的に考えた場合何らかの連続性があることが予測される対象)を同様に学び、原理上の比較を試みる。比較をすることによって、技の原理の広がりが確認でき、また、より普遍的なレベルでその原理が分析可能になるといえる。
発表においてはこれまでの代表的な身体論研究における研究方法についても、今回の事例に基づいて具体的に論じ、これまでの研究の問題点とその克服方法についても考察する。また、具体的な身体レベルではあまり論じられてこなかった東シナ海域全体の、武術、武道、芸能における身体操作法の連続性についても論じる。
参考文献:原尻英樹2008『心身一如の身体づくり:武道、そして和する“合気”、その原理・歴史・教育』勉誠出版
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