2006年 仙人の会2月例会発表


発表者:稲葉明子氏(早稲田大学社会科学総合学術院非常勤講師・早稲田大学坪内博士記念演劇博物館客員研究員)

日時:2月12日(日) 14:00−18:00頃まで

場所:法政大学 市ヶ谷キャンパス 大学院棟 (お堀の外側の校舎になります) 601号教室

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 JR中央線・地下鉄南北線飯田橋あるいは市ヶ谷下車、徒歩約10分
 交通機関については、こちらをご覧ください。
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発表題目 
非物質遺産研究の諸相−中国影戯調査の視点から

要旨
 白いスクリーンをピンと張り、扁平な操り人形を灯火で映し出す。中国各地に分布する「影戯」は、視覚・聴覚に効果的に訴えかける優れた媒体であった。工農兵を尊ぶ共産党政権は、全国の地方戯・曲芸(語り物)・歌謡や舞踏まで重視し網羅的な調査を行ったが、何故かこの影戯や木偶戯だけはどうも手薄である。それは、生活習俗との密着が迷信の評価と紙一重であったこと、卑俗な媒体と看做されたこと、要は身近すぎて目に入らなかったというのが現実かもしれない。目に入らぬから、消滅しつつあってもそれほど惜しまれていない。
 中国広州の重点大学である中山大学中国語言文学系は、教育部より「中国口頭和非物質遺産研究中心」として人文社会科学重点研究基地に指定された。中国の国文学科にあたる学科が、非物質、即ち口承やパフォーマンスといった無形の遺産に着目し、活動を開始したことになる。主任の康保成教授によれば、現在その主な対象は「影戯」だという。
 ところが、彼らが全国に教員・学生を派遣して調査活動を始めてみると、なかなか芸人に行き着くことができない。そこには民間芸能把握のために発達した文化行政が、かえって盲点を作り出している構造も見てとれる。そこで、発表者がこれまでの調査で遭遇した様々な事例を紹介し、「非物質遺産」研究の現状と展望を考えたい。