○エチオピアの珈琲道

 ”もの食う人びと”(辺見 庸  角川文庫)は飽食の国の人間に”食べること”そして”生きること”の意味を問いかける一冊である。胸がしめつけられるエピソードの数々の中で、以下に引用するエチオピアのコーヒーの入れ方を見つけた時まさに一息いれることができた。

 ”(食堂の女店主は)まず裏庭で紅と黄色の花を摘み、それらを茶器を置いた木台に敷きつめ、花弁に線香を刺して、伽羅に似た香りで土間をみたした。自らは紫の地に金の刺繍の布を頭にかぶり正装し、木台を前に座して、深呼吸。炭火の上に鉄板を載せ、コーヒー豆に少し水を加えて煎りはじめる。焦げてきた豆を盆に載せ眼前に捧げ持ってきて”よろしいでしょうか”と目で問う。手のひらで煙かき寄せ”よろしいのでは”とうなずけば、臼と杵とで、豆をついたりグラインドしたり。(中略)粉になったのを細口の素焼きの壺で煮立ててから、手を洗い、数滴を茶器に注いで味見。”

 そうして納得がいくと客に”バターにするか塩にするか”を聞いてコーヒーにいずれかを入れて出すらしい。こういう入れ方は一般家庭でも行われていて”コーヒーセレモニー”は女性の大切なたしなみだという。確かに日本の茶道に似ており、味うんぬんよりも精神的なものに根ざしている。

 

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