●数ある月をめぐる伝説風習の中で私はサイパン島のチャモロの人たちの奇妙な信仰に
心惹かれている。当地においては健康な子どもを授かるために妊婦は月明かりの中を
傘をさして歩き、月光を直接肌にさらさないように細心の注意をはらっている。
●ここに、月がヒトの体や心を支配し、太陽と呼応して地球生命体の進化を育んできた
こと、そして月の魔力が狂気ををもった存在を探し求めていることが読みとれる。月
はネガティブな存在を浮き彫りにする。そして新月という無明の境地から出発し、縁
起のシステム(行→識→名色 →六入→触→受→愛→取→有→生)をまわり〈老死〉に
至り、死ねば新たな〈無明〉にもどる輪廻転生の円環構造をたちきる叡智があること
を教えてくれる月光である。
●私はかつて全盲の方から思いがけない言葉を聞いたことがある。「月の光は手のひら
でわかる」と、・・・人は自からの手も見えないような真暗闇の中で不安と恐怖にか
られて、手さぐりで何ものかの相手をさがす。そして運よく相手に触れたとき、はじ
めてそこにコミュニケーションが成立する。この時〈触れる〉ことが言霊(ことだま)
そのものであることを、われわれはおもい知らされる。
●何ものかに触れたとき、月の光が宿る。
Touching The Moons 河内さんの作品には月光が宿っている。
INDEX GALLERY 岩野正英
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