階 段




「君、私と一緒に死んでくれる?」


確かにそう聞こえた。小さいけれど、はっきりとした声だった。
ここは暗くて貴方の顔がよく見えない。ただ、隣に座った貴方が私にそう言った。いつものように、低く、綺麗な声で。

僕は小さく頷いた。貴方は強く私の手を握った。

まだ夕暮れ時なのにもかかわらず、この場所はとても静かだった。校舎にはもう、僕達以外誰もいないのだろう。屋上手前の階段に僕達は寄り添うようにして座っていた。空が切ないほどに赤く染まっている。あまりの切なさに目眩がした。
繋いだ手が愛おしくて、僕の胸を酷く締め付ける。貴方は何も言わない。僕もずっと黙ったままだ。まるで時が止まってしまったかのように・・・。


一体いつまで此処にいていいのだろうか?


夜が来れば、僕は貴方の手を離さなければならない。貴方の手を離してしまうことが、何故こんなにも恐ろしく思えてしまうのだろう。
・・・・ああ、そうだ。貴方が「死」なんて言葉を漏らしたからだ。
貴方はあれからすっかり黙り込んでしまった。僕には貴方が本当に死にたがっているかなんて分からない。今は只、傍にいたかった。



不意に貴方が後ろを振り向いた。目線の先には少し短い階段と、屋上への扉があった。
貴方がこの階段を上って、扉を開いて、鉄格子に手をかけて・・・・・。
こんな最悪な場面を想定している間も、僕の心は実に穏やかだった。


突然、貴方が口を開いた。




「この階段がもし13段あったなら、君と一緒に消えることができただろうか」






・・・・・・消える?

「うん」


貴方は続けて言う。

「この階段が13段あって、それに二人で上ったら、一緒に呪われてしまうだろうか」



貴方の声は淡々としていたけれど、私には実に悲しげに聞こえた。今にも泣きそうな、そんな声だった。

日が暮れかけている。元々薄暗かったこの場所は、徐々に漆黒の闇に包まれるようだった。










それは・・・・死にたいということなの?

「死ぬなら死ぬで、それでもいい。只私は君と一緒に消えたいんだ。」



貴方が下を向く。長い髪が綺麗に揺れた。




「私の存在を一切、無かったことにしたいんだ。」





人が聞けば、なんと馬鹿げた話だと思うだろう。そんなものは只の被害妄想、ほんの戯れだと言い張ることだろう。



でも、僕はもう貴方と約束してしまった。
貴方が望むなら僕は喜んで貴方と消えてしまおう。

そう答えるように、僕は貴方の手を強く握った。




僕らは、このまま順調に生きながらえば確実に大人になってしまう。
今僕らが考えていること、思っていること、感じていることが浅はかな子供の考えだとするなら。
大人になればそんな感情を笑い話にしてしまうのなら。


僕らは確実に、今此処で消えてしまうべきなのだろう。









夜が来た。周りはもう真っ暗で、手の温もりだけが貴方の存在を感じさせた。




・・・・このまま消えてしまおうか。

僕はささやくように言った。





僕らは互いに目を瞑った。
このまま二人、消えてしまえるように。
13段階段の呪いにかかってしまうように。





穏やかに時間が過ぎていく。

僕はもう、貴方の手を離すことはできない。