CHANGE OF STATE

状態の変化「～しだす」「～になる」

第３類接尾辞-choHは、状態の変化を示す動詞接尾辞です。つまり、その動作が始まることや、その状態になることを意味します。動作を示す動詞なら「～しだす」「～し始める」に、状態を示す動詞なら「～になる」に相当します。「choH：変わる」という独立した動詞もありますが、-choHとchoHは明らかに語源的に関係があるでしょう。
例を見てみましょう。
動作の場合
jIqet：私は走る。
jIqetchoH：私は走りだす。
状態の場合
Hurgh：暗い。
HurghchoH：暗くなる。
またこれに関連して、変化の対象が名詞ならば、「moj：～になる」を使えばよいでしょう。英語のbecomeに当たります。
HoD vImojpu'：私は船長になった。
クリンゴン語の状態を示す動詞は、実際のところ英語で表現する場合にbe動詞を必要とするもの（形容詞や受動態）に完全に一致します。この点、日本語の感覚よりも英語的感覚の方が優先されます。例えば「怒る」について見てみましょう。先ず以下の対応表を見比べて下さい。

クリンゴン語 QeH QeHchoH

英語 be angry get angry

日本語怒っている怒る
クリンゴン語のQeHは「怒る」ではなく、英語の「be angry」に対応するので「怒っている状態にある＝怒っている」になります。日本語の「怒る」を言いたい時は「QeHの状態になる」＝「QeHchoH」と言わなければいけません。
現実の世界に立ち戻って考えると、クリンゴン語は英語話者によって創られた言語ですから、英語の影響を多分に受けているのも当然のことです。もちろん、本職の言語学者であるマーク・オクランド博士ならではの非英語的な特徴が沢山盛り込まれてあるわけですが、やはりもっと奥深い部分では全く英語風の原理が働いていることは否定出来ないでしょう。これは特に各単語の意味の守備範囲において顕著です。以前はクリンゴン語は日本語的な感覚が十分に通用すると述べましたが、英語的感覚も実は非常に有効なのです。（この辺のことについては「クリンゴン語と英語　異質な様で実は同じ？」で詳しく述べたいと思います。）
最後に、否定辞-be'との組み合わせを見ておきましょう。
Hagh：笑う
Haghbe'：笑わない
HaghchoH：笑い出す
HaghchoHbe'：笑い出さない
Haghbe'coH：笑わなくなる

Ver.1	1996.5.26
Ver.2	1996.6.18	否定辞-be'との組み合わせを追加。

コウブチ

クリンゴン語	QeH	QeHchoH
英語	be angry	get angry
日本語	怒っている	怒る