送信者: Shin'ichirou Koubuchi 宛先: Cc: Shin'ichirou Koubuchi 件名 : [klingon 525] Kronos Chronicle #11 日時 : 1998年11月10日 21:31 Eメールによるクリンゴン語情報誌 【クロノス・クロニクル】第十一号 = Qo'noS QonoS 11-DIch = = Kronos Chronicle #11 = 発行者:コウブチ・シンイチロウ 発行日:1998年11月10日 ■■■ クリンゴン・オーナーガード ■■■ マイクロプロウズ社(Microprose)からクリンゴン関連のパソコン・ゲームが 発売されています。題名は『クリンゴン・オーナーガード』(Klingon Honor Guard:クリンゴン・名誉の衛兵)です。内容はガウロン暗殺未遂事件の犯人 を捜索するというもので、ゲームはプレイヤーの視点から見たCG映像で展開 され、武器での決闘などもあるようです。格闘ロールプレイング・ゲームとで もいうのでしょうか。詳細は以下のホームページを参照。 マイクロプロウズ社のホームページ http://www.microprose.com/ クリンゴン・オーナーガードのページ http://www.microprose.com/gamesdesign/khg_site/0010home.html ■■■ バトラかバトラフか? ■■■ クリンゴンの伝統的武器である betleH は、クリンゴン戦士にとっては最も大 切な武器であり、別名 batlh 'etlh(名誉の剣)とも呼ばれます。伝説によれ ば、カーレスが自分の頭髪をクリスタック火山の溶岩で溶かし、ルーソー湖の 水で鍛えてつくりあげたのが始まりと言われています。24世紀ではバーコナ イトという金属でつくられています。 英語では bat'telh と bet'leth の2種類の綴りが存在し、日本語でも「バト ラ」「バトラフ」「バトレス」など一定していません。一体、どれが本当なの か気になるところですが、しょせんは英語も日本語もクリンゴン語から見れば 外国語ですから、訳語にゆれがあるのも無理はありません。England に対して 「イギリス」「イングランド」「英国」のどれが正しいかなど議論しても意味 はありません。一見、「イングランド」が正しいように思えますが、 [ingurando] という発音は原語とは違います。あくまでも「イングランド」が 一番原語の発音に近いというだけであり、それが他のものよりも「正しい」と いうことにはなりません。『ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い』の世界で すね。 困った時に最も頼りになるのがTSTEですが、なんと驚いたことに、初版で は bat'telh であったものが、改訂増補版では bat'leth に変わっています。 実際のところ、初めのうちは bat'telh であったものが、いつの間にか bat'leth にとって変わられたようです。 この件に関してオクランド博士自身の見解がありますので、以下に要約(とい うかほぼ全訳)してお伝えします。 *********************************** クリンゴン語という観点からすれば betleH が正解です。ただし、これが正式 な綴りというわけではありません(正式な綴りはクリンゴン文字でなされるこ とになります)。これは単にクリンゴン語の発音を転写したものに過ぎず、読 む者に単語の発音(あるいはその近似音)を示すに過ぎません。 この単語が連邦の調査員(あるいは連邦市民でも、とにかくだれか)によって 初めて書かれた時には、クリンゴン語はよく知られていなかったので、聞き違 いや転写ミスがあったことでしょう。初期のある転写作業者は bat'telh と書 き、他のある者は bat'leth と書いたのです。前者はクリンゴン語の batlh 'etlh(名誉の剣)を聞き違えたのかも知れませんし、後者は連邦標準語には ない語末子音を持った betleH を書き表わそうと試みたようです。 bat'telh という綴りの方がより多く普及し、一般的になりました。その当時 は連邦内のほとんどだれもこの単語をクリンゴン人が発音するのを聞いたこと がありませんでしたから、bat'telh が本当に正しいか知る術はありませんで した。後になんらかの理由で bat'leth の方が bat'telh よりも多く使われる ようになり、こちらの方が連邦内では受け入れられるようになりました。 bat'leth という綴りのお陰で、多くの非クリンゴン人たちが、この武器を実 際のクリンゴン語 betleH に近い発音ではなく、綴りに従った名称 (BAT-leth[バトレス])で呼んでいます。このことは、英語でロシアの首都 をロシア語の発音 moskva(マスクヴァ)ではなく Moscow(マスカウ)と呼 ぶのと同じことです。Moscow は、この都市名について英語で受け入れられて いる発音方式ではあるが、ロシア語式ではないということです。同様に、 bat'leth はこの武器名について連邦標準語で受け入れられている発音方式で はあるが、クリンゴン語式ではないのです。 [もちろん、“現実”の話はちょっと違います。私の知る限り、この単語が初 めてスタートレックに登場したのはTNG『勇者の名の下に』Reunion におい てです。その台本(およびその他)では bat'telh と綴られており、関連図書 などでの綴りもここから来ています。しかし、実際に番組中でウォーフは BAT-leH [バトレフ] のような感じで発音しています。そして結局、台本でも bat'leth と書くようになりました。この綴りは、最初の綴りとウォーフの発 音を融合させたもののようにも思えます。同様に、スタートレックの出版物で もしばらくは bat'telh を使っていましたが、今ではだれもがみんな bat'leth に切り替えたようです。] *********************************** (訳中の誤字・脱字、誤謬などはすべてコウブチの責任であり、オクランド博  士によるものではありません。) 結論としては、betleH の英語表記は bat'leth という綴りの方が優勢であり、 今後はこちらが主流となっていくということです。読み方はそのまま素直に [バトレス]とでもなりましょうか(語末のスはth音であることに注意)。 結構年季の入った私は bat'telh の方に愛着がありますが、今後は一応 bat'leth を尊重していこうと思います。では日本語ではどうかというと、 私はTSTE日本語版の「バトラフ」を尊重しようかと思っています。 ただし、TSTE日本語版はTSTE初版からの訳ですので、英語表記は bat'telh のままです。 ■■■ HaqwI''e' DaH yISam ! ■■■ 当然ながらクリンゴン人にとっても医療は必要なものですが、同時に医者や薬 の世話になるのは「不名誉」にかかわるという考え方も持っています。このた め、クリンゴン人の医療に対する考え方は連邦とは違っており、病院や医療室 の様子などもかなり違うものと思われます。医療関係者を指す語彙も英語の訳 語とは必ずしも一致するわけではありません。   Qel:doctor, physician(医師一般、内科医)   HaqwI':surgeon(外科医) Qel の方は、広く医師一般を指す言葉でもあるので、その点では Qel と HaqwI' の両者は排他的な関係ではなく、同一人物が Qel と HaqwI' の両方で 言及されることもあります。   HaqwI' po' ghaH Qel'e'.   The doctor is a skilled surgeon.   ドクターは熟練した外科医です。 英語の nurse(看護婦、看護人)に当たる1語の単語はありません。「〜の助 手」という意味で以下の表現が使われます。   Qel boQ:doctor's aide(医師の助手)   HaqwI' boQ:surgeon's aide(外科医助手) また、縮小辞 -Hom を使って QelHom なども可能だそうです。 さらに、連邦内では nurse で言及される人物を指すのに rachwI' という語が あります。   rachwI':invigorator, fortifier, strengthener       (rach する人)   rach:invigorate, fortify, strengthen      (元気づける、活気づける、鼓舞する、       励ます、強化する、強くする) rach は、人物を対象として使われる場合は健康増進を意味し、機器類や船体 などの無生物に対して使われる場合は機能向上や改善・改良を意味します。 .tI'(直す、修理する)という語がありますが、tI' は以下の点で rach との 違いがあります。(1)tI' は通常生き物には使わない。(2)tI' は以前 の状態への回復を示し、向上や発展の必要はない。したがって、tI'wI' は機 械の修理工などの意味にはなりますが、病気を直す人には使えません。 また、Dub(改善する、増進する)も rach に似た意味を持っていますが、 Dub は状態、技能、理解など、より抽象的なものを向上させる時に使われるよ うです。 名誉を重んじ、体面を気にするクリンゴン社会は、いわば『武士は喰わねど高 楊枝』の世界です。怪我や病気をして、他人に看護されるのを格好悪いと感じ るであろうことは想像に難くありません。病院のベッドに寝て、看護婦に面倒 をみてもらいながら回復をまっているのではなく、rachwI' によって今まで以 上に強くなるべく処置中なのだと負け惜しみを言う姿が目に浮かびます。怪我 や病気により一時的に低下した身体機能を回復させるのではなく、そもそも機 能低下の存在自体を否定しているかのようです。看護や介護という概念自体、 存在しないかもしれません。クリンゴン戦士も楽ではありません。 【略語の説明】 TSTE=The Star Trek Encyclopedia 【あとがき】 ■『クリンゴン・オーナーガード』については大変興味をひかれることでしょ う。ホームページ上には画面や登場人物の紹介などがあるのですが、実は私の パソコンではメモリ不足なのか、プラグ・イン不足なのか、その両方なのか、 とにかく機能が追い付かず、結局途中でエラーになってしまって全部は見られ ず終いでした。ホームページをきちんと見られた人、あるいはゲーム自体を持っ ている人などからの情報提供を待ちましょう。因みに、私はあまり暴力的なも のは受け付けないので、格闘ゲームみたいな代物だとしたらそれほど興味はあ りませんけど。 ■バトラフの綴りの記事と医療従事者単語の記事の元ネタは、以前お伝えした ニュースグループ starttrek.klingon です。英語の読める人は是非直接読ま れることをおすすめします。英語のわからない人はクロノス・クロニクルをご 活用ください。 内容に関するご感想をお寄せください。   ML宛:klingon@ml.asahi-net.or.jp コウブチ宛:vz4s-kubc@asahi-net.or.jp Qapla’!