送信者: Shin'ichirou Koubuchi 宛先: Cc: Shin'ichirou Koubuchi 件名 : [klingon 89] Kronos Chronicle #7 日時 : 1997年4月19日 18:24 Eメールによるクリンゴン語情報誌 【クロノス・クロニクル】 第七号 - Qo'noS QonoS 7-DIch - - Kronos Chronicle #7 - 発行者:コウブチ・シンイチロウ 発行日:1997年4月19日 【ニュースグループ】 クリンゴン語に関するニュースグループが1997年4月8日に発足しました。 当ML参加者のnaghbIQtIqHomさんが開設しました。アドレスは以下です。 japan.lang.klingon 【TKWカセットテープ】 クロノス・クロニクル第5号[klingon 46]でお知らせしたTKWカセットテー プについての続報です。内容はTKWの朗読です。朗読者はウォーフ役のマイ ケル・ドーンと新シリーズ「STAR TREK: VOYAGER」のベランナ・トレス役のロ クサン・ドーソンの2人です。それぞれウォーフ、トレス本人の役として朗読 します。諺は順番通りではないので原書を参照しながら聞いていると右往左往 します。 さて肝心のクリンゴン語ですが、何とも残念なことに2人ともかなりいい加減 な発音をしています。ドーソンは音節末の「’」を常に「t」で発音している 様です。ドーンはTNGでtlhInganを「トゥルヒンガン」と発音していたのよ りはましですが、やはりでたらめさが目立ちます。但し、さすがは俳優だけあっ て、不正確ながらも、あの野太い声での朗々とした読み方にはなかなか聞かせ るところがあります。また、彼の完全に1音節づつ区切って、ゆっくりと延ば しながら発音していく様子は、クリンゴンの朗唱法にひとつの見本を提示する ことにもなりえましょう。誰でもクリンゴン語を話す時には声が変わる様で、 ドーソンのクリンゴン語はちょっと間抜けな感じに聞こえるところもあります。 カセットテープ前2作が語学教材であった一方で、このTKWはクリンゴンの 文化や考え方などを紹介するものです。従って、ヒアリング教材としての正確 さよりも、全体の流れや雰囲気が重視されたものと思います。もしかしたら、 単に原書の朗読だからという意識で、オクランド博士の監修がなかったのかも 知れません。今回はオクランド博士のカン高い声は一切出てきません。先ずC KL、PKLで正確なクリンゴン語の音を体験してから、このTKWを聴くこ とをお薦めします。 【トレーディング・カード】 おなじみスカイボックス社のトレーディング・カードからの例文を紹介します。 改行位置はそのままです。  STAR TREK: THE NEXT GENERATION  THE EPISODE COLLECTION: SEASON TWOより  - S8 -  Bat'telh  qaStaHvIS wa'maH puq poHmey, wo'rIv batleH ghaj  qorDu'Daj. nuja' tlhIngan wIch ja'wI'pu' yIntaHvIS  qeylIS'e' lIjlaHbe'bogh vay' batlh 'etlhvam  chenmoHlu'pu'.  Klingon Sword of Honor  Worf's bat'telh has been in his family for ten  generations. According to Klingon legend, this  sword of honor descends from the time of  Kahless the Unforgettable.  - S9 -  qaSDI' nenghep  qaSDI' nenghep, qa' patlh chu' chav tlhIngan SuvwI'. poSDaq nIHDaq  je QamtaHvIS SuvwI'pu'. chaH jojDaq yItnIS lopwI'. luchovmeH  'oy'naQmey lo'.  Age of Ascension  The Age of Ascension marks a new level of spiritual attainment  by a Klingon warrior. The initiate must pass through a gauntlet of  warriors who test him with painsticks. S8のクリンゴン語版の表題が Bat'telhと英語になっています。クリンゴン 語文中ではbatleHとなっていますが、TKDにはbetleHと記載されています。 なお、bat'telhは最近ではbat'lethという綴りも多く見かけます。元々奇妙な 綴りなので、どこかの資料で綴り間違いが生じると、それを参照した人がみん な間違えて覚えて、そのまま広まってしまうのでしょう。少なくとも最初は bat'telhだったと思います。いづれにしても、これらを「バトラ」と読むのは 至難のわざです。恐らく、bat'telhの語末のhはごく軽く[ア]を添える感じ でしょうか。 S9では例の儀式(吹き替えでは飛しょうの儀式)に関する解説です。因みに ウォーフを演じたマイケル・ドーンによれば、やっていてとても恥ずかしかっ たそうです。この儀式中ドクター・ポラスキーはあからさまにいやな顔をして いましたが、実はドーンも内心同じ気持ちだったかと思うと、なんだか笑えて きて厳粛さが失せてしまいます。でもなかなか真にせまった演技で良かったで すよね。また、「彼らの間を(で)」が jojchajDaqではなく、chaH jojDaqで表 わされているのにも注目しましょう(TKD p.31参照)。 例文中にわからない点があれば、遠慮なくML宛に質問を発しましょう。 【〜人の表現】 以下に現在知られている、クリンゴン語の人種名・種族名を列挙します。 (ここでは、人種・種族・民族などの用語をかなりいい加減に使い分け  ていますので、ご注意下さい。)  DenIbngan: Denebian (n) < DenIb: Denebia (n)  nuralngan: Nueralese (n) < nural: Neural (n)  reghuluSngan: Regulan (n) < reghuluS: Regulus (n)  romuluSngan: Romulan (n) < romuluS: Romulus (n)  tera'ngan: Terran, Earther (n) < tera': Earth (n)  tlhIngan: Klingon (n)  vulqangan: Vulcan (person) (n) < vulqan: Vulcan (planet) (n)  'orghengan: Organian (n) < 'orghen: Organia (n)  'orghenya'ngan: Organian (n) < 'orghenya': Organia (n)  verengan: Ferengi (n)  yIrIDngan: Yridian (n) ◆ngan 上を見て先ず気付くことは、全て -nganで終わっていることです。つまり 「〜人」は -nganで表現することがわかります。これは「ngan:inhabitant (n):住人」から来ていることは容易に推測できることでしょう。クリンゴン 語では、場所・土地に注目して「〜の住人」という形で「〜人」を表わすのが 一般的な方法なわけです。中には -nganも接尾辞であるという意見もあります。 ◆nganと音韻変化 ここで、vulqangan(バルカン人)と'orghengan(オーガニア人)を見てみると、 元の惑星名の語末のnが落ちてnganが付いています。音声学的に見れば理に 適ったことの様ですが、語形変化のないクリンゴン語においては、第1類名詞 接尾辞 -oy の予測形 -'oy と同様、珍しい現象です。 ◆英語の民族名 以降、クリンゴン語の各種族名を見ていく前に、英語での様子を見ておきます。 Japan (日本) > Japanese (日本人)、China (中国) > Chinese (中国人)など は、国名を元にして「〜の」という形容詞を派生させて「〜人」を表現します。 英語では、「日本人」も「日本語」も「日本の」も全てJapaneseの1語で済ま せてしまいます。この内、「日本の」が本来の意味で、Japaneseは本来は形容 詞です。日本人の意のJapaneseはJapanese people, Japanese man, Japanese womanなどを略したものです。日本語の意のJapaneseはJapanese languageの略 です。その時の状況によって、後に続く語people, languageなどが自明の場合 にそれが省略されているうちに、正式な表現になったのです。この様な現象を 「形容詞の名詞化」と呼び、ヨーロッパ諸語にはごく普通の現象です。日本語 では「大きいの」「赤いの」など「の」を使って似た様なことをやっています。 例えば「電化製品なら“日本の”が一番だ」など。 次に、ブルガリアの例を見るとBulgar > Bulgaria > Bulgarianの3つの語が あります。歴史の教科書を見ると、Bulgar(ブルガール人)という民族が出て きます。彼らが興した国がBulgaria(ブルガリア)です。Bulgariaの語尾の -iaはラテン語から英語に入った語で、「〜の国・地方・土地」を意味します。 ラテン語はヨーロッパに広く知られた教養語ですので、この -iaによる造語法 はとても普及しています。Bulgar(ブルガール人)は歴史的な表現で、現在で はブルガリア国の人という意味でBulgarian(ブルガリア人)が使われます。 このBulgarianも「ブルガリアの」「ブルガリア人」「ブルガリア語」を表わ します。 上に示した様な、イギリスから見てあまりなじみのない国々や新しい国々の場 合にはかなり規則的に語を派生させることがなされています。イギリスから見 て比較的なじみのある国々の場合、古い表現や原語の影響など個々の規則があ り、必ずしも単純に規定は出来ません。 German (ドイツの・人・語), Germany (ドイツ) Frank (フランク人), France (フランス), French (の・人・語) Ital (イタル人) > Italia (イタリア) > Italian (の・人・語)  但し、現在では国名はItaly。 Spain (スペイン) > Spanish (の・人・語) Engle (古英語でアングロ人) > England (イングランド),English (の・人・語) -n, -an, -ianなどで終わる民族名では、複数形には後ろに -sを付けます。例 えば、Canada(カナダ) > a Canadian(ある1人のカナダ人), Canadians(カナ ダ人たち)。また、-ch, -sh, -ese, -ssなどで終わる民族名はちょっと厄介で、 単複同形です。例えば、a Japanese(ある1人の日本人), Japanese(日本人たち) the Japanese(日本人全体、日本国民)。the Japaneseである特定の日本人を指 すことは可能ですが、あまり使われない様です。この場合、the Japanese man などが使われる様です。また、a Japaneseもあまり聞きません。日本語の意の Japanese以外では、形容詞として用いられることが多い様です。その点では、 英語話者の感覚ではまだ完全に名詞化されておらず、あくまでも後ろに続く名 詞を省略しているという意識が強く残っているのかも知れません。 以上の様なわけで、英語における人種名・民族名・国名・国籍名などの表現は 名詞や形容詞などが交差し、しかも各民族ごとに事情が違ったりしていて、と ても複雑です。(間違いがあればご指摘下さい。)みなさんも今後、辞書で国 名や民族名を引くときには、それがどの様な構造でどういう過程を経て出来た 語なのかを考えてみると面白いでしょう。 以下、クリンゴン語の人種・種族名を見ていきましょう。 ◆オーガニア オーガニアについては、TKDクリ英編には'orghen、英クリ編には'orghenya' と記載されています。後者は明らかに英語につられた間違いだと思いますが、 私は2通りの表現があるものと解釈しています。Organiaという呼称自体英語 のものでしょうから、所詮はクリンゴン語にとっては外国語です。「タイ」 か「タイランド」か、というのと似た問題でしょう。好きな方を使いましょう。 ◆ロミュラン ロミュランに関しては「第2回クリンゴン語作文大会」の結果発表[klingon 65] で解説した通りです。母星名はromuluS、国民はromuluSnganです。ご存じかも 知れませんが念のため説明しておくと、地球人が宇宙へ進出し始めた時代に、 ある二連星の一方に植民地をつくりました。しかしある程度開発が進んだ後に、 その星には既に先住者がいることに気付きます。その先住者は地球人の行為を 侵略とみなし警告なしに攻撃をしかけ、その後両者間に戦争が始まりました。 これは人類が経験した初めての異星人との戦争です。その先住者も地球人と同 様、別の惑星からその星に進出してきたことがわかりますが、本拠地(実はバ ルカン星)がわからないので、その星の名に因んでロミュラン人(Romuran)と 呼ばれる様になりました。地球人はその二連星を、ローマ建国神話に登場する 双子になぞらえてロミュラス(Romulus)、リーマス(Remus)と呼んでいたのです。 というわけで、ロミュラス/ロミュランという表現は地球人が勝手にそう呼ん でいるに過ぎないのです。クリンゴン語のromuluSも英語から来た表現なわけで す。 ◆地球 地球人はtera'nganですが、「Human: human (n):人類」という単語もありま す。スタートレックでは、種族名として「地球人」よりも「人類、人間」とい う語の方が多く使われます。民族名には、その語源を辿ると単に「人、人間」 という意味であったりすることが少なからずあります。エスキモーは現在では イヌイットと呼ばれますが、これは彼らの自称で元々は「人間」という意味で す。元々、他の動物と自分たちを区別する言葉が、異民族との接触により人種 民族的な区別にも用いられる様になったものでしょう。このことから考えると、 地球人が異星人と接触する様になって、humanの意味が拡がり銀河における種 族名になったと考えることも出来ます。 また、これに関連してhumanoidという英単語もあります。これは「人類型の生 命体」を示す語ですが、広義ではバルカン人やクリンゴン人も含められますが、 狭義にはベタゾイド人、エル・オーリア人などの完全に地球人そっくり(つま り特殊メイクなし)の種族にのみ用いられます。狭義の場合にはクリンゴン人 はクリンゴノイド(Klingonoid)、バルカン人、ロミュラン人、ミンタカ人はバ ルカノイド(Vulcanoid)に分類されます。クリンゴン語の「yoq: humanoid (n) :人類型生命体」は、語形がHumanとは全く違うことから、恐らく広義の意味 で使われるかと思います。また、クリンゴン人の感覚では「クリンゴン型生命 体」と解釈した方がより正確でしょう。 ◆クリンゴン tlhInganに関しては派生元の単語は知られていません。他の語から類推すると、 *tlhI, *tlhInなどが考えられます。自民族を表わす語が特殊であることは決 して珍しくはありません。上でも述べた様に、元々はクロノス星の“人類”を 示す語であったのかも知れません。クリンゴン人たちは自分がクリンゴンであ ることを非常に誇りにしており、このtlhInganという単語はとても重要なもの です。彼らの常套句 tlhIngan maH. や帝国内で通用する異星人の責任回避の 文句 tlhIngan jIHbe'. などにその考え方の一端をうかがえます。 しかし、現実の世界に立ち戻って考えると、tlhInganの派生元の単語がない理 由は明確です。つまり、英語でもそれが示されていないからです。ロミュラス /ロミュランの対応は初登場の際に既に紹介されたのに対して、クリンゴンに 関してはいまだに元の語が出てきません。そのため、アメリカのファンたちは、 英語的感覚から Kling という語を勝手に復元してみたり、Klinzhaiという新 しい語を勝手に創ったりしてきました。バルカンでは惑星名も種族名も同じ Vulcan(但しVulcanisという惑星名も使われたことがあります)なので、クリン ゴンも同様だろうという考え方もありました。そしてついに映画の6作目で 「Qo'noS: Kronos (n):クロノス」という名称が登場して、「母星名論争」の 火は一気に吹き消されてしまいました。 ◆フェレンギ フェレンギもクリンゴン同様、派生元の語が確定していません。但し、かつて はFerengalという語がありましたが、公式なものかは不明で今はあまり聞きま せん。クリンゴン語のverenganは英語のFerengiの語尾を -nganにしたもので す。たまたま ngがあったからうまい具合に変換しただけでしょう。なんだか ブルンジ人をブルン人と言うみたいで変な気もしますが、語感は良いです。 ◆イリディアン yIrIDnganという単語はTKWが初出です。余談ですが、TNG「Birthright (バースライト)」に登場したジャグロム・シュレックを演じたのは、FCのゼ フラム・コックレーン役のジェームズ・クロムウェルでした。マスクを被って いるので顔はわかりませんが、あの妙にキョロキョロした目とガラガラ声は同 じです。 ◆nuralngan これは一見、何人だか判断しかねます。派生元の語 nuralは英語でNeuralとなっ ていますが、思い当たるものがありません。辞書を見ると neuralは「神経の」 という形容詞です。Neuralの頭が大文字なのが気になりますが、「神経」のこ とでしょうか。だとすると、nuralnganは「神経寄生体」とでもなりましょう。 TOS「Operation: Annihilate!(デネバ星の怪奇生物)」に登場した nueral parasite(神経寄生体)のことかも知れません。他にも似た様な生存形態の生 物はよく登場します。 ◆単数と複数 クリンゴン語の場合、上の各種族名の複数形には -pu'を付けます(但し、 nuralnganには-meyが付く可能性大)。しかし、-pu'は英語の-sと違って、必 ず付けなくてはならないというわけではありません。tlhInganpu'と言えば明ら かに数人のクリンゴン人を指しますが、別にtlhInganでもかまいません。日本 語で「日本人たち」とは言わずに単に「日本人」で足りるのと同じことです。 クリンゴン語にも日本語同様、 英語のa/an, theの様な冠詞はありませんので、 全く日本語的な感覚で種族名を表現することが可能です。但し、総称的に指す 場合には、クリンゴン語では複数形が使われることの方が多い様です。 【略語の説明】 TKD=THE KLINGON DICTIONARY CKL=CONVERSATIONAL KLINGON PKL=POWER KLINGON TKW=STAR TREK: THE KLINGON WAY TOS=テレビ「スタートレック」 TNG=テレビ「スタートレック:ザ・ネクスト・ジェネレーション」 FC=映画「ファーストコンタクト」 内容に関するご感想をお寄せ下さい。 ML宛:klingon@ml.asahi-net.or.jp コウブチ個人宛:Owner-klingon@ml.asahi-net.or.jp Qapla’!