Written in Japanese / teksto japane

『男の娘☆9』記念(勝手に)基調エッセイ

「男の娘」の語学的分析:
「男の娘」という語に関する一考察と他言語への翻訳の試み

小難しい話なので興味のない方は適当に読み流してください。「そーなのかー」と思っていただく程度で結構です。


「男の娘」という表現は『男の娘☆Convention』を主催しているイベント主催団体モノリスが考え出したものだそうです。詳細は以下のURLを参照: http://otokonoko.monolis.jp/otokonoko.php

発音の上では「男の子」と同じですが、漢字を見ると「娘」が使われています。発音を聴いて通常思う浮かんでくる意味と、漢字を見て受け取る意味との間のギャップが、女装少年の持つ見た目と中身の食い違いに相通じるところがあり、彼らに漂う奇妙な違和感を見事に体現した絶妙な命名となっています。

この造語センスはとても素晴らしいものだと思います。

他の言語でもこのような表現が出来ないものかと思い、英語で laddy[ラディ]というのを考えてみました。lad[ラッド]は「若者」「少年」という意味です。この lad を親しみを込めて呼ぶ際に、laddie[ラディ]という俗語表現があります。これは lad の後ろに親愛の情を示す接尾辞 -ie が付いた形です。ここで接尾辞 -ie を敢えて -y と綴ることで、発音は同じでも、文字の上では lady[レイディ]「婦人」「淑女」「お嬢さん」にそっくりになるというわけです。ただし、laddie という語自体、スコットランド方言の性格が強いので、「男の子」という語のもつ日常性には及ばないかもしれません。まあ、「男の娘」という語の持つ、発音上の意味と綴り上の意味の食い違いを表現するならこんな感じといったところでしょうか。

実は英語よりも先に、以前、ドイツ語で die Kna:bchen[クネプヒェン]、エスペラント語で knanjo[クナーニョ]という造語を試みたこともあります。

Kna:bchen は Knabe[クナーベ]「少年」に小ささや親愛を表す指少辞 -chen を付けたものです。文法的には「小さな男の子」「幼い子」になってしまうかもしれませんが、Ma:dchen[メトヒェン]「少女」からの連想でなんとか「男の娘」にならないかなあ、などと思ってのことです。ちょっと無理があるかな。

knanjo のほうも同じ様に、knabo[クナーボ]「少年」に指少辞 -nj- を付けたものです。ここでは、本来は男性用の -chj- を付けて knachjo[クナーチョ]とすべきところを、女性用の -nj- を付けることで、なんとか性別の境界線を越える試みをしています。

Kna:bchen も knanjo も、「男の娘」や laddy が持つ発音上の意味と綴り上の意味の食い違いを再現できていないのが残念ですが、個人的にはけっこう気に入っており、特に knanjo は今後、自作の文章中で積極的に使っていこうと考えています。(あまり文章を書かないけどねorz)

(注)本文中の「a:」はaウムラウトです。


余談: エスペラント語には njo-knabo[ニョクナーボ]「稚児」という語もありますが、njo- が付いてはいても、この語には女装の要素は含まれていないので、「男の娘」の訳語としては物足りないと思います。

2010年9月2日追記: エスペラント界の人気歌手JoMoが自身の持ち歌『Chu vi volas danci?』の中で、すでにknanjoを「女の子」「ギャル」の意味で使っているね。ダメじゃん……。

2010年9月3日追記: さらに考えてみました(くだらないことを)。knanjoがダメなら、やはりknabinoに-chj-を付けてknabinchjoやknabichjoが使えるでしょうか。-nj-や-chj-は話し手の主観的な表現なので、話し手が相手を男性と見るか女性と見るかで使い分けられるかと思います。男の子だけど女の子みたいと思えばknanjo、女の子のように可愛いけれど、こんなに可愛い娘が女の子のはずがないと感じればknabinchjo、knabichjoなのかな。PIVには、-chj-も-nj-も固有名か親族名称に付けられると記述されているので、いずれにしても普通の名詞に付けるのは拡張的な用法なのかな。


作成者:姫楼しん(きろうしん)/公開日:2010-08-28/更新日:2010-09-03
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