もどる


恩赦出願書

本籍 茨城県ひたちなか市釈迦町5719番地 
氏名 冨山常喜(東京拘置所在監)      
大正6年4月26日生     

平成14年12月6日

出願代理人弁護士 内田雅敏 
   同     佐竹俊之 
   同     佃克彦  

東京拘置所長 田中常弘殿

1、有罪の言渡をした裁判所および年月
 水戸地方裁判所(昭和41年12月24日)、東京高等裁判所(昭和48年7月6日)、最高裁判所(昭和51年4月1日)

2、罪名・刑名・刑期・金額及び犯数
 東京高裁主文「原判決を破棄する。被告人を死刑に処する。押収してある重**信作成名義の自由満期災害倍増保険契約申込書1通(当庁昭和42年押第240号の9)および管**一作成名義の毎期清算配当付自由保険申込書1通(同押号の12)の各偽造部分を没収する。本件控訴事実中、石**郎および石**メに対する各殺人未遂の点については、被告人は無罪。」

3、刑執行の状況
 東京拘置所内病舎で施療中

4、恩赦の種類
 特赦もしくは減刑または刑の執行の免除

5、出願の理由
 東京拘置所在監の冨山常喜は、85歳という高齢による老衰と疾病のため、東京拘置所内病舎で施療中である。もはや寝たきり状態であり、車椅子で面会室に来ることはできても、面会者と話をすることができる状態にはない。文字を書いたり意思を表明するなどできる状態ではなく、体調の悪化が顕著である。獄死寸前の状態なのである。弁護人佃克彦が弁護司法23条2に基づく照会を行なったところ、東京拘置所長から、病名については(1)高血圧症(2)動脈硬化症(3)腎障害(4)排尿困難感、という回答であった。さらに病状については、「時に食欲不振になることがある」とのことであり、「食欲不振時には、栄養補給療法を行っている」との回答であった。
 このような回復不能の疾病・老衰者に死刑という厳罰を科すことは、「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」(第36条)とした憲法に違反する。すなわち、死を目前にした回復不能の疾病者・老衰者にとっては、「拘置」自体が拷問であり残虐なのである。
 1988年8月、国連の犯罪防止および統制に関する委員会は、国連経済社会理事会に、国連加盟の死刑存置国は「死刑を科せられない、あるいは死刑を執行されない上限年齢」を確立するよう勧告し、このような上限年齢は、すでにいくつかの国で法定されている。アメリカ合衆国から追放され、ユーゴスラビアで戦争犯罪で有罪とされ死刑を宣告されたアンドレイア・アルツコビック(Andrija Artukovic)86歳に対し、ザグレブ(Zagreb)地方裁判所が、1987年4月に、「彼の健康は法的に処刑することができないまでに悪化した」と判断し、処刑を免除したことは広く知られるところである。また、米州人権条約は、犯行時70歳を越える者には、死刑を科すことができないとしている。
 我が国においては、現行憲法施行後、政令恩赦(減刑例)によって死刑が無期懲役に減刑された者が14名、戦後、個別恩赦によって死刑が無期懲役に減刑された者が11名、存在する。懲役刑で「年齢70歳以上」の場合は、検察官の指揮により執行を停止することができることにされており(第482条)、人道上の観点から、高齢者にたいする刑の執行停止は、死刑囚にたいしても適用されなければならない。冤罪を訴えていた江津事件の***氏(78歳)に対し、広島高検は、昭和62年2月3日、健康状態の悪化を理由に刑の執行停止を決め、*氏は、逮捕以来25年ぶりに釈放され、広島市内の病院に入院した。この*氏同様、冨山常喜も、無実を訴え再審請求を行っている。いわゆる波崎事件の概要は、以下のとおりである。

 昭和38年8月26日未明、茨城県鹿島郡波崎町7404番地のIY35歳が、車で自宅に着いて間もなく苦しみ出し、妻と近所の人が同町の波崎済生病院に担ぎ込んだが、午前1時30分に死亡という事故が発生するや、妻が「夫は苦しみ乍ら箱屋(冨山)に薬を飲まされたと言っていた」と言い出したために冨山常喜が嫌疑を受け、波崎町の交番で事情聴取された。冨山は、何も飲ませてないから「何も飲ませていない」と主張したが、8月28日、家宅捜索を受けた。警察は冨山の身辺を捜査し、同年10月23日、「私文書偽造、同行使」容疑で逮捕し、毒殺容疑の取調べを行い、11月9日、死体解剖の結果、青酸反応が出たとして、引き続き再逮捕・拘留し、11月30日、毒殺容疑で起訴した。殺人・私文書偽造同行使・殺人未遂被告事件として、昭和41年12月24日に水戸地裁、昭和48年7月6日に東京高裁(殺人未遂事件は無罪)、昭和51年4月1日に最高裁で各々死刑を宣告された。

 恩赦制度審議会における「最終意見書」には、

もとより恩赦は沿革的には君主の恩恵をその出発点にしていると考えられるが、今日においてこれを見れば、法の画一性に基づく具体的不妥当の矯正、事情の変更による裁判の事後変更、他の方法にもってしては救い得ない誤判の救済、有罪の言渡を受けた者の事後の行状等に基づくいわゆる刑事政策的な裁判の変更もしくは資格回復などその合理的な面がむしろ重視せられるべきであり、今後の恩赦は、その権限が内閣に属することになったのを機会に、これらの面を中心として、刑事司法の機能を一層完全ならしめる方向に活発に運営されなければならない。

と述べられており、我々は以上の理念をもとに、恩赦の出願をするものである。高齢者の収監者で、無実を訴え再審請求を行っている者は何人かいるが、彼らに共通して憂慮される問題は、獄死の可能性である。
 平成12年6月以降、車椅子の生活になり、本年6月、病舎に移管された冨山は、「頭痛が時々起こり、血圧もといたま200に達し、常時食欲不振と吐き気があります。現在は体調悪く、食べることができなくなり、栄養補給点滴を毎日やっています。又、喋ることがままならず、耳もよく聞こえなくなりました。こうした次第で獄中生活が耐え切れなくなりました。もう駄目かなという感情に暫々襲われます」と、病状を訴えている。
 再審が請求されているからといって不利益を得るという理由はない。過去、いわゆる福岡事件では、3人に対し、再審請求中にあっても恩赦が認められている。むしろ、誤判の疑いのある者こそが、率先されて恩赦にされるべきである。刑事司法の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」の理念が、このような受刑者の場合にも適用されることを求める。

6、添付書類 各判決書写し


もどる