ウレタン補強?

ウレタン補強っつーのが流行り始めて何年経っただろうか? 3年くらいか? 私はウレタン補強に関しては多いに疑問を持っている。 登場当初は興味を持ったが、良く調べてみると、流行のウレタンの場合はどう考えても剛性が向上するとは思えない。

私は20年近く前になるが建築用の低発泡率ウレタンを使った事が有る。おそらく4倍発泡程度なんじゃないかな? コレが実に硬くて、固まってしまうとプラスチックの固まりのようになってハンマで叩こうが踏んづけようがカッチンコッチンで変形しない。ボディ補強用のウレタンが登場した時にすぐに思い浮かべたのはこの建築用ウレタンの硬さだ。アレを注入したらさぞかしボディ剛性も上がるだろうと思った。 ところが、ボディ補強用に専用開発したと云う商品は16倍発泡らしいじゃないか? そんな発泡率ではスカスカのスポンジにしかならんぞ?

ウレタン注入により剛性が向上する原理を考えてみよう。閉断面を形成するサイドシルは、大きな曲げの力が掛かった時に断面形状が潰れながら曲がる。例えばトイレットペーパの芯などを曲げた時を思い浮かべて欲しい。潰れると簡単に曲がってしまい、潰れない領域ではいくら力を掛けてもトイレットペーパの芯は曲がらない。潰れ始めると一気に変形は進むわけ。ならばこの時に断面の潰れに対抗する何かが内部に詰まっていれば弾性変形の限界は飛躍的に向上するわけだ。これがウレタン注入による剛性向上の原理だ。重要なのはウレタンそのものが曲げに対抗する応力を発生させるのではなく、ウレタンは断面の潰れに対抗していると言う事。

要するに断面が大きく潰れてしまうような変形領域でないと差が出ないのだ。通常走行域で発生するサイドシルの変形なんてミリ単位だ。このミリ単位の変形で発生するサイドシル断面の潰れ方向への変形は非常に僅かだ。この僅かな潰れに対抗できるほどウレタンは硬くないと言う事。だから私はウレタンで剛性が向上するとは思っていない。

ある実験のデータが手元に有る。サイドシルにウレタンを充填する事による剛性の変化を調べる目的で行われた実験だ。具体的な実験データは明かす事が出来ないが、某有名大企業の手による実験である。サイドシルに近似したサイズの角断面を持つスチール素材で、ウレタン充填の有無による違いを調べた。素材の両端を固定し中央に過重を掛け、荷重と変形量の関係を調べたモノ。この結果によると、弾性変形領域では有意な差は認められず、塑性変形領域では数倍の差が現れた というものだった。弾性変形とは荷重を抜くと元に戻る変形であり、塑性変形とは荷重を抜いても完全に元には戻らず変形が残ってしまう領域の事だ。自動車が走行中に発生する変形は弾性変形であり、塑性変形との境目よりかなり小さな変形だ。塑性変形はクラッシュした時のように曲がったまま元に戻らないような状態だ。つまり、通常の走行におけるボディの変形ではウレタンの有無による剛性の差は皆無に近いと言う事。ウレタンが詰まっていると、弾性変形から塑性変形に移るポイントがより高くなり、塑性変形域でもより大きな荷重に耐えられる。だが、弾性変形域の小さな変形では差が無いと言う事なのだ。

詰め込んだウレタンそのものが建築用ウレタンのように4倍程度の低発泡率のモノだとしたら、それそのものがマジでかなり硬い為、断面の潰れに対抗するのはもちろん、曲げそのものにも対抗できそうだ。これなら本当にボディ剛性が上がるかもしれないが、その重量はかなり重いハズ。しかしボディ補強用に専用開発したと謳う商品は16倍発泡のスカスカ。こんなんではボディ剛性向上など期待できない。

だが、これだけ話題になるのだから、実際に試したヒトの多くが何らかの効果を体感しているのだろう。別にクラッシュした時の変形の少なさを体感して喜んでいる訳でもあるまい(笑)。ではナニが変るのか? それは振動減衰性の向上と共振周波数の変化だと思われる。金属のサイドシル内に多少の弾性をもつウレタン素材を詰め込むのだ。それによる防音効果や振動減衰効果は十分に期待できる。例えば、カーステレオのドアスピーカをチューンする場合など、ドアに鉛とブチルラバーの複合素材を張り付けたりする。アレでドアは共振しなくなるし、ドアの閉まり音も高級感が出る。これはドアの剛性が向上したわけでも強度が向上したわけでもなく、共振周波数の変化と振動減衰性が向上したに過ぎない。

ロドスタに乗ってすぐに不快に思うのはギャップ通過後に残るボディ全体の振動だろう。フロントウィンドとフロアとステアリングと椅子と幌がすべてバラバラにブルブルユサユサと振動するアレだ。一発のギャップで5〜6発ほど振動するようなアレ。アレはボディの変形が一発で収まらずに振動がブルブル残っているのだ(スカットルシェイクとも言う)。この時の振動の周波数がボディが持つ固有振動係数(共振周波数と同義)なわけ。振動の減衰性が向上すれば、一発目の振動の幅が同じでもその減衰が早まると(例えば5〜6発が2〜3発で収まるとか)体感的効果はかなり大きい。また、この周波数が10Hzから5Hzに変化したとすればそれも体感的に非常に大きい(ウレタンで共振周波数がどう変化するかは知らんが変化しても不思議はない)。また、あれだけ大きな容積を持つサイドシルが埋まれば、防音効果もかなり大きいハズ。ロードノイズやタイヤノイズ、ギャップ通過音の共鳴や拡散が減ればそれだけでも良くなったと感じるハズだ。いろいろな感覚を通して良くなったと感じてしまう、それがウレタン補強が受けている理由だと思う。

実際の剛性の変化より、色々な感覚を通して感じ取る体感的な剛性の変化の方が解かりやすいのは当然だし、「良くなった」と感じたソレが剛性だろうが剛性だろうが、本人が乗ってノーマルとの違いを感じて満足できるのならソレで良いとも思う。ただし、デメリットが無いとか、或いはデメリットを承知した上で納得するのならばだ。

サイドシルと言うのは必ず水が入る。水が入るのを防ぐ事が出来ない為、入ってしまった水が抜けるように水抜き穴が設けられている。ジャッキアップポイントに有る穴がソレだ。ウレタンなんぞ詰め込んだらこの水抜き穴は役に立たず、必ず進入する筈の水は行き場を無くして溜まる。そりゃサビが進むわな(笑)。ここで言う水抜き穴とは、屋根方面から落ちてくる水を流すホースの事ではない。サイドシルに進入する水を落とす為の穴の事だ。ウレタンを入れればこの穴は必ず埋まる。

だが、サイドシル内部でウレタンがどうなっているのか? 水抜き穴はどうなっているのか? 水は本当に溜まっているのか? サビは実際に進行するのか? それは誰にも解からない...。

ってだけでは面白くないのでやってみました(笑)。ウレタン注入車を切断! 長い前フリのを読んでる間に大量の画像がダウンロードされている事を祈ります(^^;。

ボディ補強用に専用開発されたとメーカが謳っている2液混合タイプのウレタン(ボディ補強用として一番有名な商品)を注入してあるロドスタ。注入はユーザ自身が行なったモノ。


サイドシルをサンダーで思いっきり切断する。二人がかりの作業でお互いに火花を浴びまくる(^^;。ストロボ無しのスローシャッタで火花の躍動感に拘った写真だ(笑)。


こんな感じに開きにした。


センタ部分は綺麗に詰まっている。

下の方は泥っぽい。ウレタン注入以前に進入した泥をウレタンが抱き込んで固まったような感じ。この中心部分を拡大すると...↓


濡れているのが解かるだろうか? 上半分がウレタンで下半分が剥いた鉄板。写真中央の鉄板とウレタンの境目で茶色く見えるのは濡れている部分だ。そして鉄板の表面にはサビが発生している。赤丸を付けた部分の茶色く見えるのはサビだ。


これはリヤ側ジャッキアップポイントの部分だが、写真のように切り込みを入れていったらジャッキアップポイントの水抜き穴から水が垂れてきた。この水は1滴ずつタクタクといつまでも出ていた。どこかに溜まっていた水が、切り込み入れた事で流れてきたのだろう。


ちょっと叩くとカッチンコッチンに硬いようなのだが、実は硬いのはほんの表面だけで、中身はスカスカのフ菓子状態。おそらく内側が発泡して外側に押しやられた部分が発泡しきれずに固まってしまう為、最外側の鉄板付近だけが硬くなるのだろう。中身は所詮16倍発泡なのでスカスカになるのは当然だ。


このように指でクシャっと簡単に潰れる程度の硬さしかない。


そして指で押すだけでカサカサのバラバラに崩れてしまうウレタン。こんなモンで補強だの剛性だのって言えるのだろうか?(笑)


ちょっと解かりにくいが、これはリヤタイヤ直前の部分を切り開いて上から見下ろした図だ。ドア開口部の真下はスキマ無く詰まっていたが、ドア開口部の前後は鉄板で仕切られているので充填は甘くなる。この写真に見える丸い穴の奥を覗くと...


案の定、タップリと水が溜まっていた。コップ2杯分くらいは有るだろうか。200ccは軽く超えているのは確かだ。抜けるところが無いのだから溜まるのは当然なのだが、こんなにタップリ溜まっているとは...。水が溜まるとすれば泥っぽい水かと思ったが、実際に溜まっていたのはとても綺麗な透明な水だった。って事はフェンダ側の鉄板の隙間やシールの隙間から進入したのではなく、上の方から落ちてきた水が溜まったか、或いはボディ鉄板内側に結露した水が少しずつ溜まったモノなのだろう。蒸留水のように綺麗で沈殿物も無かったので、結露水が溜まった可能性が高いような気もする。


その穴の奥を更に覗くと、このようにサビが発生していた。赤茶色いのがサビね。関係ないけどこの写真撮るのすごく大変だった。照明と撮影技術とNikonデジカメの性能のすべてを引き出しての根性の撮影。


これはフロントタイヤ直後の部分。やはりドア開口部より前の部分は満タンに詰まっているわけではない。


タイヤハウス側を切り開く。2重になってたり袋になってたりで大変だったのだが、無理矢理めくる。


すると、水は溜まってなかったが、やはりサビが認められた。水が溜まっていた事もあるのだろうな。

このように実際に切断してまで確認した結果、やはり水は溜まるしサビも発生するって事だな。切断しながら水抜き穴からタラタラと垂れてくる水、たっぷりと溜まった水、各部に発生していたサビ、それらを見ながらとても複雑な気分だった...合掌...。

このような水溜りやサビが発生しても構わない人で、どうしても剛性が欲しい人はウレタンを入れてみるのも良いのではないでしょうか?(笑)

# すべての個体がこうなっているのかどうかは知らんけどね(笑)。

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