オーバヒート対策?

水温はなぜ上昇するのだろうか? なぜある程度まで上昇すると止まるのだろうか? ちょっと考えてみてほしい。水温はエンジンが発生する熱量とラジエタが放熱する熱量で決まる(各部からの輻射熱による放熱も有るが微量なので無視(笑))。

エンジンが発生する熱量は負荷の大小で決まる。大きく踏んで上まで回せば発生熱量は増える。同じ全開でも2000回転と6000回転では爆発する回数が3倍になるのだから単純計算では発生する熱量も3倍となる。このように回転数やアクセル開度によってエンジンが発生する熱量は数倍単位で変動する。

ラジエタの放熱量はどうかというと、ラジエタが物理的に持っている放熱容量で放熱量は決まるのだが、実際の放熱量は水温と外気温度の差に大きく左右される。その差が大きいほど放熱量は大きくなるわけ。水温が上昇するというのは、エンジンが発生する熱量がラジエタ放熱量を上回っている為に上昇せざるを得ないという状態なのだ。水温が上昇すれば外気温度との差が大きくなる為に放熱量は大きくなり、エンジンが発生する熱量とラジエタが放熱する熱量が釣り合った所で上昇は止まる。これが水温上昇の原理だ。

では水温を下げるにはどうすれば良いか? 方法は二つしかない。ラジエタの放熱量を大きくするか、またはエンジンが発生する熱量を下げるか、のどちらかだ。オイルクーラなどの他のデバイスで放熱量を確保する事も可能だが。エンジンが発生するる熱量を下げるというのは、実質的には「スロットルを戻す、回転数を落とす、ペースダウンする」という事だ。 ま、水温が上がったらゆっくり走れってんじゃ面白くないわけで、真夏に飛ばしても水温が上がらんようにしたいわけだ(笑)。じゃ、ラジエタを大きくするかオイルクーラを追加してください。それ以外に道は有りません。

さて、ローテンプサーモスタットと称するオーバヒート対策品が売られているようだが、これは何の解決にもならん事はちょっと考えれば解かるハズだ。サーモスタットとは、オーバークールを防止してエンジン運転温度を適温に保つ為に存在するモノだ。前述のようにエンジンの発生熱量は運転状態によって数倍単位で変動する。発生熱量が少ない時にそのままラジエタに水を流せばオーバークールで適温を保つ事が出来ない。適温以下ではサーモスタットが閉じてラジエタに水を循環させない。適温を越えた時にサーモスタットが開きラジエタに水を流す。そして適温まで冷えたら閉じる。これを繰り返す事で水温を適温以下にならないようにするのがサーモスタットだ。つまりエンジン負荷が小さい時にオーバークールを防止するのがサーモスタット。これを適温以下で開くモノにするとどうなるか? 低負荷時にエンジンは適温以下となり、高負荷時にはノーマルサーモスタットと同等の温度まで上昇してしまう。ローテンプサーモは高負荷時のオーバーヒート防止には無関係で、低負荷時にオーバークール状態を作り出す以外の効果は無い。高負荷時の水温はラジエタ放熱量で決まるのだ。ノーマルサーモスタットだって水温が適温以上になれば開くんだし、水温が適温以下の時に開くローテンプサーモスタットなんざ馬鹿げている。適温以下ってのはエンジン運転に適してないわけで、メリットなど一つも無い。

ちなみに水温は80度〜90度くらいが適温なわけで、ノーマルサーモスタットは82度で開く。ローテンプサーモと称するモノは76度とかなんとかって話だが、水温計を付けてテストしたヒトに言わせると実際にはもっと早目から徐々に開いているようだ。水温を適温以下にするとどんな弊害が有るのか? 熱効率の低下による燃焼効率悪化=燃費の悪化とパワーダウン、燃料の気化不良、水温補正の燃料増量によるパワーダウン&燃費悪化、クリアランス過大による各部金属摩耗の増加。などなど。百害有って一利無しだ。何の為に暖機運転が必要なのか考えて欲しい。運転温度を適温から10度ほど下げるとクリアランス過大による金属摩耗の増加は10倍ほどになるので、1万キロ走行で10万キロ走行に匹敵するほどシリンダ摩耗は促進される。普通に走っている時に水温を適温以下に保ってくれるローテンプサーモスタットは、普通に走るだけで金属摩耗を10倍加速してくれるステキなアイテムだ。それでいて肝心な高負荷高回転走行時の水温はノーマルと同等なわけで100害有って一利無しなのだ。

みんなが下げたいのって低負荷時に保たれている水温じゃなくて、高負荷時に上がってしまう水温でしょ? それがスポーツ走行による高負荷だろうが渋滞+A/Cによる高負荷だろうが。 高負荷時の水温はローテンプサーモじゃ下げられないのだよ。


ハイプレッッシャラジエタキャップってのも売っている。ノーマルでラジエタには0.9Kgf/cm2の圧力がかかっているが、これを1.3Kgf/cm2にしてしまおうっていう恐るべきモノだ。

水は大気圧では100度で沸騰してしまう。エンジン運転温度の適温が80度〜90度なわけで、これではちょっと上昇しただけで沸騰してしまうので冷却が出来ない。そこで冷却水全体を加圧する事で沸点を上げてやるのがラジエタキャップの役割だ。0.9Kgf/cm2の圧力を掛ける事で120度程度までは沸騰しない。130度くらいで大沸騰だ。ノーマル水温計のレッドゾーンは大体130度くらい。ボコボコと沸騰してレッドゾーンまで上昇した状態が130度だと思ってほしい。で、ラジエタキャップを1.3Kgf/cm2のモノに交換するとどうなるのか? 130度まで上昇しても沸騰しない。それだけだ。水温はまったく変らない。沸点が変るだけなのだ。ノーマル水温計がレッドゾーンに入っても尚且つ走り続けたい人は1.3Kgf/cm2ラジエタキャップを使いましょう。ノーマル水温計のレッドゾーン以下でしか走らないという普通の人はノーマルの0.9Kgf/cm2でOKだ。1.3Kgf/cm2は0.9Kgf/cm2に対して1.5倍に近い圧力を掛けているわけで、ラジエタやホース類、ウォータポンプメカニカルシールの破損を加速させる。水漏れを防ぐなら沸騰しない範囲で圧力は低い方が良いのだ。というわけで、水漏れを促進させたい人と、水温計レッドゾーンでも走りたい人は1.3Kgf/cm2ラジエタキャップを使ってみるのも良いでしょう。でも古いクルマで1.3Kを使うとたちまち水漏れするカモね(笑)。特にウォータポンプの水漏れは見えにくいので気を付けましょう。

あと、電動ファンの強制駆動とか、より低温から積極的にファンを回そうって話しも有る。ま、別に害はないんだけど、本来は温度が下がって冷却の必要が無い時に自動停止してくれるシステムなわけで、ファンが止まっている時ってのは冷やす必要が無い時なわけだ。それを強制駆動しても意味無いと思うんだけど(笑)。NA6の場合は水温に連動して回転するのは左側のファン1個だけなので、これを2個連動させるのは良いかも。NA8C以降は水温に応じて2個のファンが自動的に回るハズだ。ジムカーナなどで速度が低くて走行風が少ない状態では回しておくのも良いかもしれないが。

というわけで、お気軽水温対策商品に効果的なモノは無い。最初に書いたように水温上昇の根本は、エンジン発生熱量がラジエタ放熱量を上回っている為に起こる事なのだ。これを解決するにはラジエタ容量を大きくするか、オイルクーラなどの別のデバイスからの放熱量を増やしてやる以外に道はないのだ。

そうそう、A/Cを外すと冷えは良くなる。A/Cのコンデンサ(外部放熱器)がラジエタの前を塞いでいるのでラジエタへの風当たりが弱くなっているのだ。このコンデンサを外すとラジエタの風当たりが強くなるので水温は下がるようだ。

意外かもしれないがFire号のラジエタはノーマルだ。ファンも1個しか付いてない。サーモスタットやラジエタキャップはもちろん純正。12900Kcalのオイルクーラが追加してあるだけだ。ラジエタの容量が確か26000Kcal?くらいだったと思うので、12900Kcalのオイルクーラを足して全体の放熱量が1.5倍程度になっているのかもしれない。そしてA/Cが無いのでコンデンサが存在せず、前から見てラジエタが剥き出しなのだ。この状態でオーバーヒートはした事が無い。6月の間瀬で水温はアッパホースの温度で87度、油温はオイルクーラを通る前の温度で112度だ。数台が集まってジムカーナ練習会などをやっても、他車がみんなオーバヒートで冷却水が沸騰してる中でFire号だけは何事も無かった。

つまらん商品に幻想を抱かずに、さっさとラジエタを大きくするかオイルクーラを追加してしまおうよ(笑)。どっちみちそれ以外に道は無いのだから。

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