続・添加剤

先日の軽井沢でマイクロロンから詳細な資料をもらってきた。とても興味深い内容が書かれていたので、それについての話題と共に潤滑に関する話題を書いてみよう。


まず金属同士の潤滑の概念から書きましょう。

1、流体潤滑
金属同士の摩擦面に十分な厚さの流体膜が介在する潤滑状態。この場合金属同士の接触はなくなり油分子間の摩擦のみとなる為、摩耗や摩擦が最も少なく理想的な潤滑状態と言える。

2、境界潤滑
潤滑油の分子が極めて薄い油膜を形成した時の状態。ドライスタートや高荷重状態、オイルの粘度不足などの時に発生する潤滑状態。

3、極圧潤滑
荷重が増大し、境界潤滑での油膜が破られて金属同士の直接接触が発生した状態。このままでは焼き付きが発生してしまう。それを避ける為にリン系、塩素系、硫黄系などの極圧潤滑剤を使用して潤滑を確保する。極圧潤滑剤を使用すると金属接触が発生した場合金属表面に金属化合物皮膜を形成する。この金属化合物皮膜同士が潤滑する事で金属同士が直接接触する事を防いでいる。

4、固体潤滑
液体潤滑剤などを使用できない環境で使用される。二硫化モリブデンや黒鉛などの固体潤滑剤を使用し摩擦面にそれを介在させる事で潤滑を確保する。

注:テフロンもこの固体潤滑剤の一種だと思うが、一般的にテフロンは潤滑剤としてはあまり普及していない。私の手元に有る自動車工学関連書籍及び機械工学関連書籍にテフロンはその存在すら記載されていないのだ。

通常のエンジン内部では1の流体潤滑及び2の境界潤滑での潤滑となる。ミッションやデフのハイポイドギヤなどでは極圧潤滑状態ともなる。この為ギヤオイルには常識的に極圧潤滑剤が最初から添加されている。重要なのは流体潤滑こそ理想的な潤滑状態であり、固体潤滑は流体潤滑が使えない場所に用いられると言う事。エンジン内部では通常は油圧によって十分な油膜の厚さを確保した流体潤滑となっている。

添加剤として利用されやすいテフロンの特製に付いて考えてみよう。テフロン及びその他の固体潤滑剤の摩擦係数は以下のようになっている。

-
摩擦係数
氷の表面 0.027
テフロン 0.04
黒鉛 0.15
スピンドル油 0.26

二硫化モリブデンの資料が無かったが黒鉛と似たようなモノだと思う(^^;。 上記のようにテフロンは非常に優秀な摩擦係数を示す。だが、通常大きな荷重がかかる場所には利用されない。大荷重がかかる場所には二硫化モリブデンや極圧潤滑剤が利用されるのだ。これほど摩擦係数が小さいと言うのにテフロンは潤滑剤として普及していない。せいぜいワックスや防水剤だ。それはなぜか? テフロンは大荷重に対しては弱いという潤滑剤としては致命的な欠点があるのだ。表面に付着したテフロンが簡単に剥げてしまうからだ。私はCDRSでの論議においていつもそう語ったのだが盲目的添加剤信者及び理論的添加剤信者達は「テフロンの皮膜はそう簡単には剥げない。皮膜に強度など必要ない」と言って私に反論した。マイクロロンの効果を信じて疑わなかった。だが、私が先日マイクロロンのブースでもらってきたマイクロロンの詳細な資料には...

「大きな圧力がかからない場所において効果は半永久的」

とハッキリと書いてある!更に、

「面精度が高い場所にテフロンは定着できない為、ボールベアリングなどのような高精度なモノには効果が無い」

「金属表面の摩耗=テフロンの摩耗である」

とも書いてある。お笑いだ。大荷重において効果が無い潤滑剤。そんなモノ必要ない。

通常エンジン内部では油圧によって十分な油膜が確保された流体潤滑状態となっている。この状態は理想的な潤滑状態であり金属の摩耗や摩擦は極小となる。この状態においてはテフロンは摩擦低減にはまったく貢献しない。つまりこの状態ではテフロンなんか有っても無くてもまったく関係ないのだ。境界潤滑領域を超えて油膜切れが発生すると金属同士の接触により金属の摩耗が発生する。しかし通常は油膜切れはしない。もし油膜が切れるとしたら非常に大きな荷重がかかる場所だ。その大きな荷重がかかる場所にはマイクロロンの効果が無い事を発売元そのものが認めている。大きな荷重がかからず、油膜切れも発生しない場所において効果は半永久的らしいがそれが何の役に立つと言うのだろうか?実にアホらしい。マイクロロンの製品パッケージや広告などにも正直にその旨を書いて欲しいモノだがパッケージや広告には書いてない。だが詳細な資料にはちゃんと書いてあるのだから笑える。

マイクロロンはLSDにも使えるらしい。LSDの構造や原理を知っている人ならLSDに摩擦低減効果のある添加剤なんか入れようとは思わないだろうが、盲目的添加剤信者の中にはLSDにテフロン系添加剤を入れてみたいという人もいる(笑)。 リングギヤとドライブピニオンは非常に大きな荷重がかかる。油膜切れも日常的に発生する。この為ギヤオイルには極圧系添加剤が元々配合されている。あの独特の臭いは硫黄系極圧添加剤の臭いなのだ。極圧潤滑状態では金属表面に金属化合物皮膜を形成し潤滑を確保する。この皮膜は剥げてもオイル中に存在する極圧潤滑剤によって新たな化学反応が起きすぐに修復される。高粘度のオイルでさえ油膜切れが発生してしまうようなリングギヤ及びドライブピニオンにおいてテフロンなんか何の役にも立たない。LSDのクラッチも大きな荷重がかかる場所の一つと言える。クラッチの効果を少しでも高める為にクラッチ板表面には油膜を切りやすいように溝などが設けられており、クラッチはイニシアルトルク及び駆動トルクによって高い圧力で押し付けられる。これによって差動制限力を得るわけでこの部分は出来る限り摩擦係数が高い方が有り難いのだ。そこにテフロンなどを入れて摩擦低減効果? 大爆笑だ。何を期待しているのだろう? もとっも、大きな荷重がかかるクラッチにテフロンの効果はないのかもしれない。イニシアルトルクが落ちてきてクラッチの圧着力が小さくなってしまったLSDなら摩擦低減効果が出て効かなくなったLSDにトドメを刺してくれるかもしれない(笑)。 そしてデフ内部で残る部品はベアリングだ。デフに使われているのは4個のテーパーローラーベアリングだ。マイクロロン発売元も認めているように面精度が高いベアリングなどにマイクロロンは定着できない。そうすると残るはピニオンシャフトくらいのモノだ。添加剤信者は是非デフにテフロン添加剤を入れて下さい。ピニオンシャフトにコーティングされたテフロンがピニオンシャフトの寿命を半永久的に延ばしてくれる事でしょう。もっとも私はピニオンシャフトが壊れたとか摩耗したとか言う話は聞いた事も無いが(笑)。

ミッションのギヤもデフと似たようなもんだ。1トン近い車重をエンジントルクにより加速するわけだがミッション内部でその力を受け止めているギヤのうち実際にトルクを伝達しているのは僅か2〜3枚の歯面だ。この歯面の僅かな面積に駆動トルクすべてが集中する。この時の接触圧力はかなりのものだろう。その大荷重にテフロンもクソも無いだろう。同じくミッション内部の数個のボールベアリングにも効果は無い。シフトロッドやシフトレバー根元は別のオイルで潤滑されている。シンクロには効果が無いとマイクロロン販売員は言っていた。ならば一体どこに効果が有ると言うのか? ハブの動きくらい良くなるかも知れんなぁ。あ〜アホらし。

長岡市内にある超有名な精密工作機械メーカーのT社。このメーカーが生産するマシニングセンタは世界中の自動車メーカーに納入されている。このT社でマシングセンタの設計をやっていた某氏に聞いてみた。

「工作機械において潤滑の目的でテフロンが使用される事はあるか?」

という問いだ。答えは

「テフロンを潤滑剤として使用する事は絶対に無い」

だそうだ。以下にまとめると...

唯一テフロンが使用されるのは「テフロン含有メタル」。これはメタルの素材の中にテフロンを含有させたもので通常の潤滑油と併用し軸受けとして使用される。何千種類と存在する潤滑剤の中から設計開発段階において最適な潤滑剤を研究し選ばれたモノを使用するがテフロンは潤滑剤としては使われない。高速軸受けには油圧フローティングメタルや高圧空気によるエアーメタルが使用され、大荷重のスライド面などには二硫化モリブデンを配合した超高粘度オイルやグリスを使う。

との事。機械産業界ではテフロンなんか使ってないのよ。添加剤とかケミカル好きのアメリカでは使ってる所も有るかも知れんが...(笑)。

自動車のエンジンの効率や性能を少しでも高めようと努力し続ける自動車メーカー、彼等は次々に新しい技術を実用化していく。従来では考えられなかった希薄燃焼エンジンを出したかと思うと気筒内直接噴射ガソリンエンジン等で更に希薄な燃焼を可能にした。これらはすべて効率の向上や排気ガスの減少などの為に研究され実用化されてきた。例え僅かな効率アップでも彼等はそれを求める。添加剤信者達に私は問いたい。その自動車メーカーがなぜテフロン加工済みエンジンを実用化しないのだろうか?添加剤メーカーの能書きの通りに半永久的な効果が得られ、燃費が10〜20%向上し、パワーはアップし、エンジンの摩耗を防ぎ、エンジンの寿命を半永久的に延ばす事が可能ならば、彼等自動車メーカーのエンジニアは飛び付くに違いない。コストなんかいくらもかからないではないか。エンジンオイルに混ぜるだけで良いのだ。こんなに簡単に素晴らしい効果が有るのならナゼ使わない?ナゼ実用化されない?

本当に効果が有り優れた商品は間違い無く広く普及するのが普通だ。テフロンはそのワックスとしての優秀性や防水剤としての優秀性は認められ広く一般に普及している。日産車ではボディ表面にテフロンコートを施した車をかなり前から普通に販売している。これらは確かにテフロンの効果が認められて普及した例だ。この事からもテフロンは安価なシロモノであり越すと面での問題はそれ程無い事が伺える。歯磨き粉にも入ってるくらいなのだ。なのに潤滑剤としてはまったく認められていない。僅かに添加剤メーカーは騒いでいるだけなのだ。

レインXという商品が有る。私はこれが好きだ。非常に優れたケミカルだと思っている。若い連中なら一度は使った事があると思う。が、継続的に使用を続ける人はごく僅かだし、自動車ユーザー全体から見れば使っている人なんか本当に僅かな数だろう。自動車メーカーもこれを標準で使うような事はしない。それはなぜか? 効果は優れているが、それが持続しないからに他ならない。これが恒久的に効果が持続するなら自動車メーカーは採用するだろう。ソアラの一部に採用された事が有るらしいが私は乗った事無いのでどうなっているのか知らない。

誰の車にも付いているドリンクホルダー。これはヒット商品だ。その実用性は認められ、自動車メーカーでも新車に標準装備している。

優れたものは必ず普及するのだよ。テフロン添加剤が普及しない理由を考えてみて欲しい。

<98.1.28 追記>
添加剤に関してはオイルと添加剤のページが参考になります。テフロンの悪影響に付いてはここに出ています。尚、これらのコンテンツは私のWebとは関係有りません。
</98.1.28 追記>