添加剤

98年5月31日に軽井沢で行われたロドスタのミーティングに参加した。その時のショップブース
に「マイクロロン」のブースが有った。私はこの手の添加剤を信用していない。理論的に原理が
納得出来ないからだ。そこでマイクロロンのブースにいた人をいじめてみた。これは非常に面
白かった。私と担当者との討論には数名のギャラリーが出来るほどだったのだ。その様子を私
のHPに載せますよと担当の人に断ってきたので載せてしまおう(笑)。以下に記憶の範囲で可能
な限り明確に再現した。


マイクロロンのブースに「2速の入りが良くなります!」とマジックで書かれたビラが下がってた。
コンパウンド90とか言うギヤ用のマイクロロンらしい。私は手にとってそれを見た。白い沈殿物
が溜まった液体。ベースオイルに混ぜられたテフロンだろう。

担当者:
「2速の入りが良くなります。ゼヒ使ってみて下さい。どうですか?」

私:
「ほぉ、こんなもので良くなる?どういう原理でギヤの入りが改善されるのかその理由を明確
に説明して頂きたい。ロードスターのギヤの入りが悪いのは摩擦抵抗が大きいからではない。
シンクロナイザーの容量不足が原因ですね。そのシンクロナイザーに対してテフロンがどうい
う作用を与えるというのか? シンクロナイザーコーンにテフロンがコートされてツルツルにな
りますとでも言うのか? だとしたらシンクロナイザーのブレーキ作用は無くなり、ギヤの入り
は悪くなるのではないか?」

担当者:
「シンクロには影響を与えません。」

私:
「でしょうね。もしシンクロにテフロンがコーティングされたら困りますもんね? しかし、同じ
スチール製のパーツでありながらギヤ表面やその他の部分にはテフロンがコートされるが、
シンクロナイザーコーン及びシンクロナイザーリングにはコートされないというわけですか?
そりゃまた都合の良いお話ですねぇ?。」

担当者:
「......。」

私:
「では、シフトレバーを動かした時に手に感じる重さは何のか? シフトレバー本体の動き、シ
フトロッドの動き、シフトフォークの動き、クラッチハブの動き、ですよね? これらの部品の
摩擦抵抗は車両停止時にクラッチを切ってシフトレバーを動かした時に感じられる筈。この
意味がわかりますか?」

担当者:
「はい、その通りです。」

私:
「では車両停止時にシフトレバーを動かしてギヤが入りにくいという人はいますか?いませ
んよね?ギヤが入らないというのは走行中の話しです。走行中にギヤが入らないのはシン
クロの容量不足が原因であり、各部の摩擦が大きいからではない。違いますか?」

担当者:
「そうですね...。」

私:
「テフロンはそれそのモノは摩擦係数が非常に小さい物質です。0度付近の氷の表面に次い
で摩擦係数が小さいと言われ、地球上ではもっとも摩擦係数が小さい物質とも言われている。
これは確かな事です。確かにこれを入れればなんらかの摩擦低減作用が有るのかもしれな
い。だが、ロドスタのミッションにおいてはシフトレバー根元及びシフトロッドはミッションオイル
とは別の独立したオイルで潤滑されている。つまりこの部分には添加剤の効果はまったく影
響を与えない。貴方がおっしゃるようにシンクロには影響を与えないと言うならば添加剤の効
果が期待できるのは僅かにハブスリーブの動きのみとなる。違いますか?」

担当者:
「それとギヤの表面にも効果が有ります。」

私:
「ギヤの表面にテフロンがコートされたとして、それがギヤに入りの善し悪しに影響しますか?
そんな事はギヤの入りとはまったく関係ない。ハブスリーブの動きがいくら良くなった所でギヤ
の入りが悪いのは改善されない。」

担当者:
「......。」

私:
「通常ギヤオイルにはリン系、塩素系、硫黄系などの極圧潤滑剤が最初から配合されている。
これらの潤滑剤は金属表面に化学反応を起こさせて金属化合物皮膜を形成する。この皮膜
は非常に優秀な対摩耗性や対焼き付き性を持っている。だからこそオイルメーカーはそれを
配合している。日夜研究に励んでいるであろうオイルメーカーはなぜテフロンを配合しないの
か? なぜ産業界に置いてテフロンが潤滑剤として普及しないのか? 」

担当者:
「......。」

私:
「自動車を1台完全に分解したとして、テフロンが潤滑剤として採用されている個所が有ります
か?」

担当者:
「無いでしょうね...」

私:
「その通りです。1個所も無い。二硫化モリブデンや極圧剤などの潤滑剤は各所に採用されて
いる。しかしテフロンは無い。なぜでしょう? 自動車の性能向上、耐久性向上の為に日夜研
究しているであろう自動車部品メーカーはなぜテフロンを使わない? 潤滑剤としての特性が
優れていないからではないですか?」

担当者:
「高いからじゃないですか?」

私:
「そんな事は無いでしょう。テフロンなんかそれほど高価な物ではない。」

担当者:
「......。」

私:
「では話をエンジンに移してみましょう。このマイクロロンは金属表面の凸凹を埋め尽くし平滑
な表面を形成する事で摩擦を低減すると言うわけですよね?」

担当者:
「そうです!」

私:
「ではどうやって金属表面にたかが樹脂であるテフロンを定着させると言うのか?もっとも私
はこんな物は付着する事は有っても定着などしないと思っているが。」

担当者:
「我々の商品は金属表面にアンカーを打ち込みそのアンカーを核にテフロンが成長するよう
に結合します。いわゆるフライパンなどの加工とはまったく違います。」

私:
「ほぉ。アンカーですか(笑)。ま、それに付いてはそういう事にしておきましょう。この下に沈殿
している白いものはテフロンですよね?」

担当者:
「そうです」

私:
「これはデュポン社が発売しているモノですか?」

担当者:
「いえ、違います。我々が独自に開発した物です」

私:
「デュポン社のモノを加工しているわけではないのですか?」

担当者:
「独自開発です。」

私:
「でもテフロンの一種なわけですよね?」

担当者:
「そうです。」

私:
「シリンダー内面にはクロスハッチと呼ばれる傷が斜めに無数に入れられている。これはご存
知ですか?」

担当者:
「知っています。」

私:
「テフロンはこのクロスハッチさえも埋め尽くして平滑な面を構成するわけですね?」

担当者:
「そうです。」

私:
「ほほぉ〜。ではクロスハッチとは何の為に刻まれているかご存知か?」

担当者:
「知りません」

私:
「クロスハッチはその溝にオイルの分子を保持し油膜を維持する為にわざわざ付けられたもの
だ。これが平滑になるとシリンダー内面はオイルを保持できなくなり油膜切れが発生する。それ
を防ぐ為に設けられたクロスハッチを埋め尽くしてまで固体潤滑剤による潤滑が良いとでも言う
のか?」

担当者:
「......。」

私:
「金属同士の潤滑には流体潤滑、境界潤滑、極圧潤滑、固体潤滑などがある。この中でもっとも
摩擦が小さく摩耗が少ないのはどれか?もちろん流体潤滑や境界潤滑などのように油膜を維持
し金属同士の接触が発生しない状態だ。違いますか?」

担当者:
「その通りです。」

私:
「エンジンオイルには通常あらゆる種類の添加剤がオイルメーカーの手によって配合されている。
この中には摩擦調整剤、減摩剤として二硫化モリブデンが配合される事が多い。これはご存知?」

担当者:
「知っています。」

私:
「なぜオイルメーカーは1リッターで数千円もするような高性能オイルにテフロンを採用しない?
なぜ添加剤メーカーはそれを配合したオイルを作らない?おかしいと思いませんか?」

担当者:
「......」

私:
「私の質問、疑問、ツッコミに対して明確な解答が得られ、理論的に納得出来るならば私はコレを
買っていきましょう。解答できますか?」

担当者:
「...出来ません......」

私:
「理論的な根拠が無いどころか理論的に多くの矛盾が存在するのに『使ってみて下さい、効きます』
などと言うような物をどうやって信じろと言うのか?私はそんなモノにお金を使う気はまったく無い。
今日ここでの一連のやりとりで私の質問に対して担当者がまったく解答する事が出来なった事と
その様子を私のHPに掲載させて頂くが宜しいですね?」

担当者:
「はい...」


と、こんな感じでいじめてきたのだ(笑)。本当はもっと突っ込みたい事はいっぱい有ったがここまで
で完全に私の勝利が確定していたので止めておいたのだ。ちなみにこのやりとりの間私の周りに1
歩さがって他人のギャラリーが数名いた。あ〜面白かった。

テフロンの効果が有るとか無いとか、持続するとかしないとかという疑問もあるが、それ以前にも
しテフロンの効果が無いのなら入れる必要なんかないし、もし本当に効果があるのなら困る部分も
いっぱい有るのだ。どっちに転んでも嬉しい話では無い。

例えばシンクロナイザーにテフロンが効いたら困る。クロスハッチを埋め尽くされても多いに困る。
LSDのクラッチに効いても困る。テフロンを入れて効果が出てもらっては困る場所はいっぱいある
のだ。添加剤メーカーは困る場所には影響を与えないと言うのかもしれない。そんな都合の良い話
などある筈が無い。デフのリングギヤには効くがLSDのクラッチには効かないのか?そんな馬鹿な
話は無い。シンクロには効かないのにギヤには効くのか?そんなアホな(笑)。同じオイルに浸かっ
て同じ条件で回っている同じ鉄製の部品なのに片方には効き片方には効かない?そんな筈ねぇだ
ろ!あ〜アホらし。

添加剤には悪影響もある事を認識してもらいたい。うたい文句通りの素晴らしい物なら自動車メー
カーやオイルメーカーだって採用しますって。採用しないのは問題が有るからですよ(笑)

オイルには数々の添加剤が配合されている。これはオイルメーカーが研究の末に最高のバランス
で配合した物だ。添加剤の中には単体で使っても効果が無いが数種類を混ぜる事で大きな効果を
出す物もあるし、一緒に使ってはいけないモノもある。だからこそバランスが重要であり、その為に
オイルメーカーは日夜研究を続ける。そのオイルにわけのわからん添加剤を買って入れる必要なん
か無い。それどころかオイルに元々配合されている添加剤と後から入れた添加剤がどういう風に反
応するかもまったく予想できない。一緒に使ってはいけない添加剤が最初から入っていたらどうなる?
何が起きる? 何も起きないかもしれない。 でも良い影響はないと思う。本当に良い影響が有る添加
剤なら、オイルメーカーが最初から配合しますって。

深夜番組のTVショッピングに出てくる添加剤は信用できないが○○は信用できる、とか言う人もいる。
私から見ればそんなの50歩100歩だ。どんぐり。アホらしい事この上ない。 世の中そんなにウマイ話
なんて無いのよ(笑)。