レンチ

レンチは単純な工具だが、これほど奥が深いモノは無いだろう。工具口座で最初にやるべきレンチの話を今まで書いてなかったのは、あまりにも奥が深いので書くのが面倒だったから(笑)。私自身、本当に納得できるレンチにはお目にかかった事が無いし、作業内容によって求められる角度や長さは違うわけで、レンチにベストは無い。単一のシリーズだけで揃えても足りないわけで、やはりいろいろな角度と長さで多くのシリーズのモノを揃えなければならん。それでもメーカやシリーズによって使えるモノと使えないモノは有るだろう。私が実際に使ってみたモノなどを独断と偏見で書いてみましょう。

レンチを揃える時は、サイズをオーバラップさせて揃えるのが一般的だろう。ボルト側とナット側を抑えるには同じサイズがどうしても2個要るからだ。10-12,12-14,14-17って具合に揃える。だが、私はそういう買い方をしてない。8-10,12-14.17-19,と揃えている。なぜなら、どうしたって同じシリーズだけでは足らんわけで、オフセットや角度が違うシリーズが必ず必要になるからだ。だから違うシリーズで同じサイズのモノはいっぱい持ってるのだ。例えばSnap-onのXBMシリーズだけをオーバラップさせて揃えるより、XBMとXOMのシリーズで同じサイズを揃えた方が実用的だと思う。オープンスパナだってダブルナットに対応するには同じサイズが2個必要なわけだが、これだって長さ違いのコンビレンチなどで揃えてしまった方が良いだろう。そんなわけで、オーバラップさせて買うより違うシリーズで揃えた方が良いと私は思いますぞ。

私がレンチに求めるモノは、「角度とオフセット」「剛性」「痛い度の低さ」である。角度とオフセットは作業に応じて求めるものが違うわけで、ベストと言える角度は存在しない。

剛性は使ってみればすぐに解かるのだが、逆に言うと使ってみないと解からんってところが難しい。剛性を買う前に判断するのは難しいだろう。

痛い度。角が立っててチカラを入れると手が痛いレンチは最悪だ。痛いレンチでは揺るむモンも緩まん。手に馴染むように滑らかな面構成でデザインするべきだと思うのだが、実は角が立って手が痛い工具が世の中には非常に多い。ルイジコラーニあたりにレンチをデザインさせれば私好みの素晴らしく手に馴染むモノが出来るに違いない(笑)。意外とこの痛い度に気付いてない人が多い。それは何故かと言うと、痛いレンチしか使った事が無くてソレが普通だと思っているのではないか? その人にとってはそれが痛いレンチだと言う事に気付いてないのではないか? 多分Snap-onしか使った事が無い人は痛くないレンチを知らない筈だし(笑)。


Snap-onのXBMシリーズ。一番スタンダードなヤツ。ボックス部分はもちろんフランクドライブ。その食い付き感は確かに素晴らしい。角度は15度だったかな? これがけっこう使いやすい角度でオールラウンドな角度と言える。ハンドル部分はけっこ厚みが有って剛性は非常に高いのだが、角が立ってて「痛い度」は大き目。この痛い度が高いのが気に食わん(笑)。定価は1本4000円〜5000円くらいか?


Snap-on XOMシリーズ。60度のディープオフセットでハンドルの角度は0度でオフセットは深いが角度は水平になる。これがなかなか特徴的で他には無い角度とオフセットだ。コイツでなければならんって場合も有るし、水平なハンドルは滑りにくくコケにくい。XBMシリーズと同様に角が立ってるのだが、オフセット部分の面積が広いので意外と力を入れても痛くない。痛い度はこのXOMの方がマシだ。値段はスタンダードなXBMよりチョイ高目。

Snap-onのレンチはどのシリーズももうちょい手に優しいデザインだったら文句無いんだけどねぇ。Rを付けたデザインにすると研磨行程のコストがかなり上がっちゃうから角を残しているらしい。MAC-TOOLSなんかも同じく角が残ってる。つーかMACの方がSnap-onより酷いかな。光モノ系研磨済みレンチが角っぽいのは仕方ないのかなー? 痛いんだよねぇ...。


KTC Profitシリーズ。ミラー仕上げのKTC。一説によると昔のミラーツールのスタッフだかラインを使ってるんだとか。知らない人が多いけどこれが実は素晴らしい。独創的なデザイン。Neprosとは別のチームで開発しているらしく、単なるSnap-onのパクリでしかないNeprosと違ってこちらのProfitのシリーズには独創的なコンセプトが生きている。写真の一番上の横になってるレンチを良く見て欲しい。メガネの両端が同サイズでオフセットと角度が違うのだ。方側が15度の角度付きで、反対側が45度オフセット&10度の角度になってる。


15度側の方は真っ直ぐな首がちょっと有ってから15度に折れている。この角度が絶妙で、レンチを裏返しにして使ったりする時などにすごく便利なのだ。ハンドル部の断面形状は滑らかなI型になっており、真ん中が薄くて両脇が厚い。軽量化と剛性確保を両立しやすいデザインだ。滑らかな形状は手にも馴染む。が、このレンチは狭い場所で如何にうまく使えるかって事が最重要課題だったようで、全体的に薄い。その結果、絶対的な剛性が不足気味だし、絶対的な厚みが薄いので両脇が厚いとは言え痛い度はちょっと高め。もう少し厚みを持たせてあれば最高のレンチになったと思う。ま、薄いってのはメリットにもなるわけで、一概に悪いとは言えないんだけど、薄さが必要ない場合には剛性が低くて痛いって事にしかならん。薄さのわりには痛く無いんだけど、絶対的には痛いです(笑)。14mmくらいまでなら痛くも何とも無いんだけど、19mmはマジで痛い。こいつで痛くて緩まなかった19mmのボルトが、Snap-on XBMの17-19でいとも簡単に緩んだ。ま、Profitの19mmよりXBMの17-19の方がかなり長いので、長さの違いによるところも大きいんだけどね。


これは上がSnap-on XBMシリーズの12-14の14mm側、下がProfitの14mmだ。薄さの違いが解かるだろう。

ちなみにProfitの価格は安いです。6本セットの定価が25000円くらいだったか? でも普通のKTCと同じ割引率なので実売価格は安いハズ。ちなみにレンチそのものの耐久性はけっこう高くて、ガンガン酷使しても普通のKTCのようにメッキが剥げたりしないし、本体も曲がったり折れたりしない。お勧め品です。


これもProfitシリーズのオープンスパナ。メガネと同じく両端が同サイズで方側が15度に折れてる。これも狭い場所で欲しくなる事が多々有るだろう。ハンドル部分の断面形状はメガネと同じくI型でスタビレに似てる。このスパナ、オープン部を横から見るとテーパになってて先端に行くほど薄くなってる。使ってみるとコレが便利な事が有るのだ。全体的に薄く作ってあり、やはりメガネと同じく狭い場所での使い勝手を最優先したのだろう。

他の工具が使えない場所でもProfitなら使えるって事が多々有り、このProfitシリーズの存在意義は大きい。このコンセプトをNeprosに生かせなかったのが残念でならないと思うのは私だけだろうか? 最近このProfitシリーズのコンビレンチも発売されたのだが、その出来もなかなか良い。写真は無いが、ボックス側はメガネと同じくちょっと真っ直ぐな首が有ってから15度に折れてるという独特の形状で、オープン側は前述のスパナと同じくテーパになってる。これ、なかなか良いですぞ。


スタビレの75度オフセットレンチ。DIN規格だとこの角度が一般的らしい。ドイツのメーカはこの角度が普通。これがなかなか便利でして、スタビレに限らずこの角度のレンチは1セット持っていても損はない。スタビレは仕上げが安っぽいけど使い込むと徐々に輝きが出てきて味が出る。レンチの剛性は高いし、痛い度は非常に小さい。手に馴染むデザインは好感が持てる。が、レンチの耐久性はそれほど高くないようで、ガンガン使い込んでいくとボックス部分の摩耗や変形が目で見て解かるほどになってくる。そこがちょっと残念である。この75度オフセットの他に10度オフセットの一般的な角度のモノも存在する。そちらはSnap-onのXBMに似た角度になっている。これのほうが一般的は使いやすいのだが、10度オフセットの方は日本向けサイズが廃番になってるらしくて在庫のみで終了らしい。残念である。スタビレの価格は2000〜3000円くらいか。Snap-onの2/3〜半額くらいで買えるのでは?


KTCストレートメガネロング&ショート。使えない。剛性が低くてグニョグニョするし、角の立ち方はそりゃもう殺人的で、軍手をしてても血が出るかと思うほど痛い。この痛さはブッチギリのNo1だ。ショートの方は便利かと思って買ったけどほとんど使った事が無い。ロングの方も滅多に使わないので工具箱の肥やしになってる。それでもストレートじゃないと入らない場所などで使う事は有るが、あまりにも痛いのでいつもパイプを被せて使う。ナニ考えてこんな殺人的な角を作るのか理解に苦しむ。私は持って無いけどTONEのロングストレートレンチがすごく良い。丸みの有るデザインで痛くないし使える。TONEのモノがお勧めだ。


KTC 15度オフセット。これは使える。特にコレが良いってわけじゃないんだけど、この角度ってのが便利なのよ。裏返しにして使ったりとか。この角度のレンチはハンマーでレンチを叩いても滑らない。この角度のメガネってすごく便利だと思うんだけど、他メーカからこの角度のレンチってほとんど出てない。Snap-onには有るけどアレは痛くて使い物にならん。アレならKTCの方がマシだ。私が「この角度のマトモなレンチが欲しい」って言うと、「コンビレンチを使えば良いじゃん」って工具屋に言われる。が、私にとってはコンビなんてスパナと一緒になった便利工具に過ぎなくて、本気工具にはならんのだ。ロングコンビレンチなら本締めや本緩めにも使える長さだが、あの長さで反対側がオープンである必要が有るのだろうか? 両端がメガネになってりゃそれに越した事はないと思うのは私だけだろうか? ま、でもパイプかけたりハンマーで叩いたりしちゃうんでKTCの安物が一番便利カモ?(笑)。


相伍工業JIS規格GMシリーズ。なんだかんだ言ってもけっこ使ってるのがコレ。45度オフセットでハンドルの角度は5度。非常に使いやすい角度だ。ハンドル部分は中央部が肉抜きされて両脇は厚み持たせて丸みも付けてあるので、剛性が高く痛い度が低い。今まで私が使ったレンチの中でもっとも手に優しくて力が入るのがこの相伍工業のモノだ。ボックス部分は面接触でもなんでも無いんだけど、特に不具合無く使える。KTCのスタンダードより100倍は高性能。メッキもハゲないし曲がらんし摩耗もしない。でもチカラを入れた時のボルトの頭に食いつくような感覚のSnap-onと比較しちゃうとボックス部分の性能は...(笑)。ま、数百円で買えるレンチにそこまで求めてはイカンのだ。仕上げも安っぽいしね。これもやはりハンマーで叩いたりするのに便利なんで、やっぱ気にせずに叩ける安物は必需品だ。Snap-onしか持って無かったら叩けないじゃん(笑)。


最後に角度の違いを載せておこう。


上から...
相伍工業 14-17
Snap-on XBM 12-14
Profit 14-14 45度側
Profit 12-12 15度側
Snap-on XOM 12-14
KTC ストレート 12-14


上から...
スタビレ 12-14
KTC スタンダード 14-17 (曲がってるんで新品と角度が違う)
Snap-on XBM 17-19
KTC 15度オフセット 14-17
KTC ストレート 12-14

一番オールラウンドに使えて守備範囲が広い角度は Snap-on XBM とか相伍みたいなのだろうな。写真には無いけどスタビレの10度オフセットも同じような角度だ。最初に揃えるセットはこの角度だろうなぁ。でも最初に揃えるにしても1つのシリーズだけ買うならサイズをオーバラップさせなきゃならんわけで、どうせならオーバラップさせずに違うシリーズを一緒に買うってのが一番良いのでは?

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