インジェクタ

インジェクタの快便率ってなんだろう? と言う事でちょっと考えてみよう。実際のインジェクタ通電波形をオシロで観測したものを元に、逆起電流などの無意味なピーク波形を簡素化して、罫線で書いてみた(笑)。等幅フォントで見ないとバラバラにズレます。

8000回転 / 全開
┐                        ┌┐                        ┌┐                        ┌┐
└────────────┘└────────────┘└────────────┘└──


2500回転 / 全開
┐                        ┌───────────────────────────┐                                             ┌┐
└────────────┘                                                      └───


ハーフスロットル / 2500回転
┐      ┌────────────────────────────────────┐      ┌─
└───┘                                                                        └───┘      

╂-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-╂-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-╂-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-╂-+-+-+-+-+-+-
0                          15msec                    30msec                     45msec

このようになっている。谷になっている部分がインジェクタに通電されている時間である。山部分は通電されていない、つまりインジェクタが閉じている時間である。8000回転だとエンジン1回転は7.5msecとなるが、インジェクタはエンジン2回転に1回の噴射なので、噴射間隔は15msecとなる。ところが、Fire号では全開にすると通電時間が14msecを超えて14.2msecほどになる。と言う事は、15msecで1サイクルなのに、14.2msecが通電されている時間となり、快便率は...

14.2/15.0 = 95%

となる。更に回転を上げると通電時間は変わらずに通電間隔が狭くなるのでもっと大きな快便率となってしまうのだ。例えば8500回転ではエンジン2回転が 14.1msec となってしまうので、通電時間はそれ以下の時間しか確保できない。ECUのロジック上、完全に開きっぱなしって事はないので、波形観測&計算上の快便率が100%になる事はない。実際は95%を超えているならもう限界でありヤバイと言えよう。Fire号が8000以上回すとプラグが真っ白になるってのはこれが原因だったのだ。いくらマップで増量してもインジェクタが限界ならもうどうにもならない。回せば回すほど薄くなっていくしかないのだ。

8000回転全開の時のデータ以外にも参考値を書いたが、その意味を良く考えて概念的に把握して頂きたい。回転が下がると噴射間隔が延びる事、全開なら回転数が変わっても噴射時間はほとんど変化しない事、アクセル開度が小さければ噴射時間は短くなる事、これらの事が上記の罫線アート()から理解できると思う。

んで、長い前フリのあとで本題。インジェクタを交換しちゃったのだ。使ったのはNA8Csr1のBPのモノ。具体的なサイズは公開しないが、B6のモノよりはかなり大きい。

インマニとヘッドの間に隠れているのがインジェクタだ。

とりあえずコネクタを外してBPのインジェクタをハメてみたらピッタリだった。

青いのがB6のインジェクタ、薄茶色のがBPのインジェクタ。外観的寸法は完全に同一。コネクタもまったく同じ。色がサイズの識別となっているらしい。ちなみにDENSO製だった。交換そのものはとても簡単。15分もあれば終る。んが、ただ交換してもそのままではまともに走らない。大変なのはここから。

ROMセッティング中の風景。20個近いROMを使い、レッツノートの3.5時間も持つバッテリを使い切ってやっと満足の行く基本噴射が出せた。もちろんこれは基本噴射量のセッティングだけであり、高負荷増量マップや点火時期マップのセッティングはやっていない。

↑これはソフトウェアで高負荷増量及びフィードバック補正を禁止したROMを使ってテストしている時の空燃比。ほぼ完璧にセッティングが完了した。見た目は東名の空燃比計だが、中身はインテグラルのDM-20Mなので正確無比。

実際のセッティング手順は、フィードバック補正を禁止したROMを作り、高負荷増量も0にセットする。無効噴射時間テーブルをBPF3のモノと差し替える。このROMで回すと基本噴射量だけの制御となる為、これで空燃比が14.7付近になるように基本噴射補正係数をいじる。ところが、インジェクタのサイズが違い過ぎて基本噴射補正係数だけでは補正しきれなかった。そこで、プログラム上からは同じ役割を持っているもう一個の係数をいじってつじつまを合わせる。これで何回もROMを焼き直し、ROMチェンジャと空燃比計をフル活用してセッティングする。ちなみにこの作業は空ぶかしだけで可能。負荷が軽い領域でもわけのわからんフィードバックを殺してあるので純粋な基本噴射量だけが見えているのだ。ちなみにこれらの作業を行なっていない普通のROMで回すと、アイドリングだろうが軽負荷だろうが問答無用で滅茶苦茶に濃くなってしまうのでまともに走らない。普通に皆さんがいじっている高負荷増量マップは、基本噴射量に対して増量する事は出来るが、減量する事は出来ない。基本噴射係数のいじり方を知っている人以外は真似しちゃいけません(笑)。基本噴射時間を短縮しない限り、大容量だろうがノーマルだろうが通電時間は変わりません。ECUはインジェクタのサイズに関係なく今まで通りの噴射時間で制御するだけですから、快便率の低下には繋がらないし、インジェクタが大きくなった分だけそのまま噴射量が増えてしまう為に全域で濃くなってしまいます。かぶるだけです。

さて、これらの苦労により、実際にどれくらい快便率が下がったのかをオシロで確認してみると、8000回転で今までよりも濃い空燃比を確保しながらも80%程度の快便率に抑える事が出来た。基本噴射時間を減らした効果である。

尚、インジェクタを交換してもパワーアップするわけではありません。パワーアップしてしまったエンジンで、ノーマルのインジェクタだと燃料が足りなくなってしまうので大容量化するだけです。誤解無きように。

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