添加剤バトルロイヤル

上記の各種添加剤を使って簡単な実験をやってみた。ボール盤を使って厚い鉄板にオイルをタップリと付けた状態で穴を空けて、その深さと直径を調べる実験である。エントリーしたのは「MG-Z」「GRP」「セラミック系粉末」「テフロン系粉末」の4種類である。


このようなボール盤と新品のドリルを5本用意し、各実験毎に新品のドリルに取り替えてテストをやった。但し、ドリルが5本しかなかったので、一部同じドリルで続けてテストしたモノも有る。それに付いては後で述べる。 ドリルはハイスピードスチール鋼の安物で1500円/5本で購入したもので、サイズは6.0mm。鉄板は一般軟鋼の圧延材。オイルはいつものエンジンオイルを使用し、切削前に鉄板表面とキリにタップリと付けたが、切削中にオイルをダラダラと掛けるような事はしていない。オイルを掛けながらテストすれば違った結果になる筈である。


送り速度を一定にする為、このように送りハンドルに重りとしてステアリングホイールをぶら下げた。これで一定の負荷でキリを送る事が可能となる。私が手で送ったのでは公正な実験とは言えないもんね。尚、使用したステアリングホイールはロドスタ純正のゴム巻きステアリングである。この状態で負荷を掛けながら、1分間の切削を行なった。これにより空いた穴の深さと直径を調べてみるわけ。ちなみにステアリングの重さが軽い為、このテストでは負荷がかなり軽く、軽負荷切削と言える。もっと重い負荷を与えた場合はまったく違う結果になってしまう可能性が大きいという事を念頭に入れて以下の結果を判断して頂きたい。

. 深さ 直径
オイル無し 2.05 6.0
オイルのみ 1.2 5.2
オイル+テフロン 1.7 6.0
オイル+テフロン+セラミック 1.4 5.7
オイル+GRP 1.85 6.0
オイル+MG-Z 1.5 6.0

オイル無し〜オイルのみのテストは同じドリルを使用している。結果的にオイルのみの場合がもっとも切削量が少ないと言う結果になってしまった(^^;;。やはりキリを6本用意するべきであったと反省している。オイル無しで1分間切削しても2mmしか削れていない事から、今回の切削は負荷が非常に軽かったと言う事が理解して頂けると思う。重負荷でのテストもやってみたいが、キリをあと6本買ってくるほどの気合はないので勘弁して欲しい(笑)。

セラミックは元々硬い物質なので、このような切削テストで有利なのは当然である。GRPが予想に反して成績が悪い。ビックリしたのはやはりMG-Zだろう。切削痕がもっとも美しかったのは、テフロン+セラミックのモノ。以下、綺麗な順に、MG-Z、テフロン、GRP、である。それとは逆にキリ(ドリルの刃の事)の摩耗が極端に少なかったのはGRPであり、その他は全部同じような感じだった。切削中の音が最も激しかったのはテフロン、静かだったのはMG-Zである。

では、実際に使用した鉄板表面の切削痕をお見せしよう。

かなりデカイので横スクロールしながら比べて頂きたい(^^;。左から、オイル無し、オイルのみ、オイル+テフロン、オイル+テフロン+セラミック、オイル+GRP、オイル+MG-Z、である。前述のようにオイルのみのテストはキリが新品ではなかったので参考にならないって事をお忘れなく。

今回の実験の結果がそのままそれぞれの添加剤の優劣を決める物ではないので注意して頂きたい。切削という特殊な条件の結果であり、本来の潤滑油の性能と直結しない事はもちろん、通常の摩擦や摩耗の大小とも直結しないのは言うまでもない。オイルを掛けながらのテスト、或いは更に大きな負荷での切削、など条件を変えれば結果は大きく入れ替わる筈である事もご理解いただきたい。今回のテストの目的は、添加剤により結果に違いが出るかどうかと言う事を確かめたかっただけであり、添加剤の性能を見極める為ではない。

99.09.26 補足

通常の摩擦による金属表面の摩耗と、切削加工による金属表面の削れ、それぞれにおいて潤滑材の持つ役割と言うのは大きく異なるし、その意味もまったく違う。通常の摩擦による摩耗を材木に例えるなら、木材の表面をヤスリで削っていると例える事ができる。この場合、表面に潤滑材が介在すれば摩耗が減るのは容易に想像できるだろう。では、切削加工はどうなるか? これも木材に例えるならカンナ掛けの状態だ。薄く削れた木がクルクルと丸まって吐き出されるあのカンナ掛けである。誰でも見た事は有るだろう。この場合、潤滑剤が表面に有ったとしても、その表面ごと削り取る事になるので、切削量に大きな変化はない。以下の図を見て頂きたい。切削加工中の刃物と金属の接触部分を拡大したモノと思ってね。

濃いグレーは刃物、薄いグレーは切削対象の金属と考えてほしい。表面ごと削り取るわけなので、どんな潤滑剤が表面に有ったとしても関係ないわけ(笑)。新たに現れてくる新しい表面には潤滑油は存在しないわけだしね。んで、円で囲った部分には大きな摩擦が発生する。この部分の摩擦を減少させて、刃物の温度上昇を抑えると共に刃物の摩耗を防止するのが切削における潤滑油の役割となる。良く考えてみてほしい。切削の最先端部分は金属表面の中から現れてくる部分であり、どんな潤滑油もそこには介在できないのだ。金属内部からオイルが染み出して来ない以上、その部分には切削油は存在できない。すると、より優れた潤滑能力を持つオイルを切削油として使用した場合、刃物の温度上昇や摩耗が抑えられ、切削対象物の切削量は増える筈なのだ。

今回の実験は、軽負荷での切削だった事は書いた通りだ。軽負荷の切削加工ではオイル無しでも特に問題無く切削が可能だ。ところが、大きな負荷をかけた重切削加工では刃物の温度が上昇して焼付きが発生し、切削効率は落ち、切削量も減る。そこで、切削油を使用するわけだが、切削油の性能が高いと、より大きな負荷を掛けても切削が可能となり、焼付きも発生しにくく、刃物の寿命も延命される。つまり、切削加工において、潤滑油の性能が高いか低いかを切削量の大小で判断するならば、より切削量が多い方が高性能な潤滑剤と言う事になる。通常の潤滑と切削における潤滑の意味は大きく違うと言うのはこういう事なのだ。負荷を変えれば結果も入れ替わる筈というのもこういう意味。オイルを掛けながらやれば、刃物の温度が下がる為に結果も入れ替わる。私が言いたかったのはそういう事。

金属加工において、通常の切削油では加工が出来ない、或いは高価な特殊バイト(刃物の事)がすぐに摩耗してしまう、と言うくらいの重切削加工が有る。こういう場面で、有効な添加剤を切削油に使用すると、切削効率が上昇し、刃物の寿命も延長される。ちなみにGRPは実際に金属加工の切削油として実用化されているそうである。

この実験は、MG-Z製作者の提案によってやってみたモノ。「ドリルで穴を空ける時にMG-Z入りオイルを使うと、単なるエンジンオイルのみに比較して切れが悪くなり、穴を空けるのに大きな力が必要になります」との事だったのだが、それって潤滑性能が悪いという事を証明したに過ぎないんだけどなぁ...(笑)。切削と摩耗では潤滑油が持つ役割と意味が全然違うんですよね。

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