読書三昧


Bookworm Corner


February 25, 2003

篠田節子「女たちのジハード」


何年前になるか覚えてないのですが、テレビで途中から見始めた番組が面白くて最後まで見てしまった事があります。主演女優の名前が賀来千賀子で、タイトルは確か「女たちのジハード」だったと思います。テレビを見て、その内容が分かりました。なんでもない5人のOLの自分探しの物語、タイトルが「女たちのジハード」という事になれば、この男性社会で女性達が何とか生き抜こうとする物語だと想像がつきます。ジハードというのは中近東で「聖戦」と言われている言葉です。確かあのテレビ番組を見て、暫く経った頃原作を書いたこの作家が直木賞を取った事をマスコミで知りました。去年だと思うのですが、古本屋の店先で、「女たちのジハード」というタイトルの1990円(税抜き)の単行本が100円で売られていたので買いました。買っただけで読んでなかったのですが、今日になって本の中の以前テレビで見た原作を読んでみました。タイトルは「シャトレーヌ」となっています。ショート・ストーリーですが、一挙に読ませて面白いですね。単行本になったのが1997年1月ですから、あのテレビ番組は一体どこで見たんだろうと思うのですが、もしかするとまだ蓼科にいた頃かもしれません。インターネットで検索したところ、作者の篠田節子氏は1955年東京生まれ、八王子市役所在職中の90年に「絹の変容」でデビュー後、同年に退職。97年「女たちのジハード」で直木賞を受賞。ほかにも「ハルモニア」、「百年の恋」、「インコは戻ってきたか」など著書多数 、と書かれています。どうやら単行本になった年に直木賞を取ったようですね。この「シャトレーヌ」の主人公は田舎から出て来て、保険会社に勤めている34歳の女性です。30歳前に同棲していたカメラマン志望の男はいつしかただの厚かましいヒモに変わり、大喧嘩して追い出してから4年が過ぎました。既に結婚に夢などもなく、せめて一生住める自分の住まいが欲しいと感じています。男の会社員なら出る筈の住宅貸付金も自分には出ないだろう事も分かっています。年収450万の中で残った金は安全な債権や投信に預け続けていたので、その合計が3千万にはなっていると考えていました。ところが気の利いたマンションを見つけ、証券レディーに全て整理すると幾らになるか訊いたところ、1500万という答えが返って来たのです。バブルのバンクで投信その他殆どが含み損になってしまったのですね。

女たちのジハード

ここからが面白いのですが、翌日がっくりして会社で同僚の女性と話していると、その相手が急に裁判所の競売物件を買えば良いのよ、と言い出したのです。競売物件なんて何も知らない素人が手を出せるようなものではありません。ところが支店まで書類を届けたら丁度時間が余ってしまい、足が東京地裁の競売物件の閲覧場所に向かってしまったのです。ああいう場所は競売物件を少しでも安く手に入れようと、プロやセミプロ達があれこれ調べている熱気で異様な雰囲気になっているところです。嫌がらせを受けながら2件ほど調べ、コピーを取って這々の体で会社に戻りました。競売の3日前になり、その内の一件88.74平米(ほぼ27坪です)のマンションを見に南阿佐ヶ谷に出かけました。競売の最低売却価格は1784万円です。案の定暴力団とおぼしき車がマンションの前に駐車しており、12階の当該マンションの前にはうさんくさい男達がたむろしています。やっぱり私には無理なんだあと思うのですが、マンションの中に人がいるような気配はありません。人さえいない確信があれば素人でも競落出来ますよね。競落した後でトラブルは起きない訳ですから。この日から競落前日までの間に彼女が考え出した手段が将に「女のジハード」です。この先はご自分で本を購入して読んで下さい。世界の中でも女性が一人で生活していく上で、それがやりやすい国ととても無理だという国がいろいろあります。先進国の場合は程度の違いはあれ、仕事さえ持っていれば女性でも何とかやって行けます。ただ或る年齢を過ぎて、結婚に夢を持たなくなり、残った人生をどう生きようかと考え始めた時に、漠然とした空しさが起こって来るのでしょうね。このまま一生アパートに住んで家賃を払い続けるだけの人生になってしまうのだろうかという事です。一人で生きて行くなら、せめて自分の住むところを所有したい、という気持ちになるのは良く分かります。ところがバブルがパンクしたとはいえ、東京などは満足出来るような住まいを普通の仕事をしている女性が買えるような値段にはとてもなっていません。日本は先進国の中ではまだまだとても上等と言えるような国にはなっていないのです。今だって過労死や、自殺が年に数万もいるというのですから。

女たちのジハード

この本は13のショートストーリーになっています。数十分で一つは読めますから、一寸した暇が出来た時にあちこち読めばいろいろ楽しめそうです。外資系や公務員のキャリアになっているような女性でも、問題の基本は変わりません。結婚して仕事を辞めればご主人に生活を依存する事になりますし、独身で生きて行けば普通の女性より高級な住まいが欲しくなるでしょうし、要は女性が一人で生きて行けるようになった国では必ずこうした問題が起きて来るという事ですね。

         タイトル   女たちのジハード
         著者     篠田節子
         出版社    集英社
         値段     単行本1990円(税抜き)、集英社文庫705円(税抜き)
         但し値段については古本屋で探せば100円か200円であります。

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