リンク 猥褻物陳列罪 プロバイダーの責任


海外のアダルトサイトへリンクを張る行為猥褻物陳列罪になるか

事件の概要

 96年9月13日広島において、Aプロバイダーおよび数名の会員 宅に広島県警察の捜索が行われ、会員宅からは、使用中のコンピューター
などが押収され、どう30日会員ら数名が検察庁に書類送検となった。
 犯罪事実は猥褻物陳列罪(刑法第175条)というものであった。
結論  いずれも不起訴

問題点

1 猥褻なサイトにリンクを張ったことはそれ自体犯罪なのか
現在、この点に関する判例は、一つも存在していない。    
「猥褻なサイトにリンクを張ったことはそれ自体犯罪となるという判例がある」
という間違った解釈が一部にあるが、   

しかし、これは明らかな、間違えである。

  

この点に関しては、いまだ、一件も判例はでていない。

従って、現在のところ、法的な判断は、いまだないので、当該
違法性に関する裁判所の判断は不明である。   
検察、警察はこの点に関しては、違法論を採用しているようである。
しかし、刑法の解釈としては、次に述べる通り、大きな障害が  
いくつもあり、現時点での違法論には困難がある。
  

2 そもそも、海外へのリンクは何が猥褻物なのか。  
 第一の問題は、猥褻物の概念は「有体物」を言うという刑法上の
基本原則があるが、これをどう解釈するのかという問題である。刑法の条文上は、
「文書、図画、その他の物」と明記し、有体物を明記している。
ここから、無形である猥褻情報そのものを「猥褻物」と断言するには、問題が多すぎる。   

テープは猥褻物だが、でも声は猥褻物ではない

 確かに、この点に関して、いくらか積極的な判例があることはある。
ダイヤルQ2問題で、猥褻制を認めた判例がある(大阪地裁平成3年12月2日判決)。
しかし、この判例も、猥褻情報そのものを猥褻物として捉えたわけではない。
同判例は、あくまでも、猥褻情報を固定化した「猥褻情報を録音した再生機」自体が
猥褻物にあたるのだと判示し、さらに、これを再生した行為が陳列にあたる認定する
ことを肯定したに過ぎない。
このように、判例理論においても、猥褻物は「猥褻な音声を録音したテープ」
(東京高裁昭和46年12月23日)という有体物であって、音声すなわち
情報そのものではないことは明らかである。  
 この観点から、当該事案の猥褻物は、猥褻情報を蔵置した固定記憶装置以外考えられず、
その猥褻物は海外にあるハードディスクしかありえないのである。  
 しかし、この点に関しては、そもそもハードディスク自体を、猥褻物と判断する
ことにに関して、そうとうな反論があり、現在京都地裁の刑事公判で、BBSでの
猥褻画像の掲載問題をめぐって、し烈に争われている。この事件は、いまだ結論が出ていない。

「物」の規制である刑法第175条をもって、猥褻情報を対象とすべきでないという有力な議論が
、関西大学教授 園田 寿 先生らから主張されている(法学セミナーNO501)。

前記判例の議論を前提としても、猥褻情報を蔵置していたのは、海外のサイトにある、
固定記憶装置であることに争いはない。そして、問題の猥褻物が国外にあるのに、
なにゆえに日本の刑法でそれを取り締まれるのか、理論的根拠は明らかではない。


3 リンク行為は陳列行為にあたるか。  
 第二の問題は、リンク行為が、陳列行為にあたるかという問題である。
リンクというのは、HTML文書の中で、当該アドレスを表記して、
指定するのみで、猥褻画像を取り込むものではない。又、表記されるアドレスには
猥褻性は微塵もない。このHTML文書をブラウザーによって再生したところで、
何のワイセツ情報も出てこない。  
 従って、これまでの判例理論でも、当該HTML文書をもって、猥褻文書、
猥褻図画とすることにはかなりの無理があるのである。     

HTMLには猥褻性はない

確かに、陳列行為自体は広く不特定多数人に認識できる状態に置けば良いとされている。
猥褻ビデオ自体が猥褻物だとしても、再生しない限り、認識できないのであるから、
上映なり、映写なりという行為が介在することは当然であろう。
 では、当該HTMLをブラウザーで表示する行為は、同様に陳列と呼んで良いであろう。
しかし、そこには何も猥褻なものは写っていない。なぜなら、当該HTMLには猥褻性は
まったくないからである。 では、なにゆえに、モニターに猥褻画像が映るのか。それは、見るものが海外のサイトへ
アクセスし、当該ワイセツ情報を要求し、その結果、当該情報を、海外サイトが、
当該見るものへ転送してくれるからである。ここには、要求者としての利用者の積極的な
行為が介在しているのである。  
ここにおける、HTMLの役割は、当該サイトのありかを教えたものに過ぎない。
多くのアダルト雑誌が、当該サイトのアドレスを表記し、あるいはフロッピーにて
当該アドレスを配布するのと、まったく異ならないのである。こうして、当該HTMLの
果たす役割は、海外サイトを利用者に教えたというに過ぎない。   

適法行為にたいする片面的幇助など成立しない

ここから、法的に可能な唯一の立論は、海外サイトが猥褻物である固定記憶装置を再生、
発信させたことにより、猥褻図画の陳列行為(主体は海外の当該情報の管理者か)を行っており、
この行為を日本において、容易にし、助けたという評価、すなわち「幇助犯」の成立という立論である。
 しかし、この立論も破産している。海外における当該情報の提供は適法行為なのであって、
適法行為にたいして、従犯の成立はない。  
 現在通説である共犯従属性説の範囲では、おおよそ無理な立論というほかない。また、
刑法175条は、国外犯は処罰できないという大きな制限もある。   

YAHOOも犯罪者になる?

仮に、こうした行為を独立に処罰するという可能性があると仮定した場合、
明らかな不都合が生じることを、最後に指摘しておく。  
 すなわち、日本中のプロバイダーの検索エンジンが、稼動することで、
こうした海外のサイトにアクセスする事が容易になる以上、日本中のプロバイダーは、
みな共犯になる。それどころか、私も含めて、YAHOOの検索エンジンを自分の
ホームページに貼り付けているものは、それだけで、犯罪者になるということになる。  
では、そうした猥褻行為を幇助する「検索エンジン」に、リンクを張っている政府関係の
ホームページも猥褻行為の幇助犯となるが、それで良いのだろうか。
こうして、日本中が犯罪人であふれかえるということがおきても、おかしいとは思わないのか。  
 この様に、現行法下では、HTMLをもって、猥褻物陳列罪とする事は出来ないことになる。  
 従って、検察において、不起訴となったのは当然なのである。  

4 プロバイダーの刑事責任は  
 本件では、もはや議論するまでもないことは明らかである。問題となった会員の行為が、
犯罪を構成しないのであるから、おおよそ問題になるはずもないのである。     
 ただ、これに関連して、猥褻画像を会員がホームページ内に掲示し、自己の指定された
固定記憶装置に蔵置した場合、いかなる責任が発生するか、あるいは発生しないのだろうか。   

NTTが罪にならないのと同じである 

 まず、プロバイダーは、第二種電気通信事業者として、電気通信事業法による法的な義務がある。
これらの義務は、電気通信事業の公的性格から起因していることは明らかである。電気通信設備を
利用して、通信介在を行う以上、第一種電気通信事業者と同様の公的な性格、すなわち、コモンキャリアー
としての性格を持つことになる。ここから、プロバイダーは、NTTと同様に、電気通信設備内を
以下なり情報が流れようとも、一切関知することは出来ず、してはならないのである。
 したがって、ダイアルQ2の際の通信施設を提供したNTTと同じように、まったく刑事責任を
問うことは出来ないのである。  
 では、電気通信事業そのものではない、ホームページ提供サービスという場面ではどうか。
いわゆる付加サービスである。この範囲は、電気通信事業をのものではなく、それに付随するものであり、
通信そのものと同様な解釈は出来ない。
 しかし、ホームページの管理・監督は、少なくとも私的検閲にあたり、電気通信事業法第3条に違反する
というほかない。したがって、プロバイダーは、民事責任はともかくとして、刑事責任は問えないものと解するほかない。      

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