いつしか寝るときに隣にあるものが無いと、眠れなくなっている。 そう、人間抱き枕。 お互いがお互いに依存しあっていた…。 “眠れない…”そう感じたのは、1人で過ごす長い夜に何度目かの寝返りをした後だった。 1人暮らしには広すぎるこのマンションに居候するようになったのは2年ぐらい前の話である。 彼、ティーダの父親 つまりジェクトはろくに働かず、前に住んでいたアパートを追い出されたのだ。 勿論ティーダも一緒に。 その後ジェクトは心を入れ替え仕事を探し、親子2人で仲良く暮らす…訳が無く、そのまま、ジェクトの愛人の家に世話になっていたのだ。 ティーダはそんな父親を謙遜していた。そして、我慢の臨界点を越したティーダは文無しのまま夜の街へ飛び出していた。 「…しまった。金ねぇ…」独り言をため息のように出す。 「でも、あんな家なんて帰りたくも無いし、でもホテルに泊まる金も無いし…」 あれこれ考えていたティーダだが、思い切ってこのまま野宿でもするか…と思い歩き出した瞬間、ドンッと人にぶつかる。しまった…こいつ等ここら辺を仕切っているアルベドの奴等じゃんか…。やベーな…と考えているうちに胸倉をつかまれ、足が地面から離れた。 「いてーじゃねーか!どこ見ているンだよ!」 ティーダは黙っている。 「ん?こいつザナルのチームの奴だ!」 アルベドのチームの1人がわざと大声を出す。さも、犬が自分の縄張りに入ったかのように…。 アルベドチームの視線が一斉にこっちを向く。 ザナル…正式名ザナルカンドとは、ここら辺の勢力争いでアルベドと対立しているチーム名だ。ティーダは慌てて 「ち…っ違うッス」 と否定するが、アルベドチーム内には、殺気が漂っていた。やばい…殴られると覚悟し、目を瞑った瞬間 「何を、している?」 ティーダの後から、低くやさしい声、しかし相手を制圧するような声が掛かった。 ティーダが後を見ると、180センチはあろうという、大きな男が立っていた。 もう一度大男は口を開く。 「何をしていたんだ?と、聞いているのだが…」 今度は厳しめの声で。ビクッとアルベドのチームがなる。 「用が無いのならコイツ連れ帰っていいか?俺のツレだ…」 というと男はティーダの腕を掴むと、大股で歩き出した。 「あ…あのっ!」 しばらく歩いてティーダは男に話しかける。 男は止まりこちらを見る。 「なんだ?」 「助けてくれてどうもッス。あのっアンタの名前は?」 暗くて顔は少ししか見えないが、彼の顔には右目に額からまっすぐ切り傷があるのは見えた。 「アーロンだ。お前は?」 やさしい口調でアーロンは訊ねる。 「俺は、ティーダっす。じゃあ改めて、アーロンありがとう」 「それより、盗られた物はないのか?」 アーロンはティーダの足元を見ながらいう。 「?」 ティーダも自分の足元を見る。裸足だ…。飛び出してきた為である。 「家出でもしてきたのか?」 ふっ、と笑いながら訊ねるアーロン。 「まったくもって大正解!」 半ばヤケになりながら、夜空を見ながらティーダは答える。 「はぁ…どうするかな…。」 「…俺の家に来ないか?」 アーロンは手を差し出す。ティーダは大きく頷いてアーロンの手をとった。 これが2年前ぐらいの話である。 そしてこの2年間アーロンがいない長い夜など経験したことが無かった。 アーロンはザナルカンドの古代史を専攻していて、新しい遺跡の発見で1週間ほど帰れないといわれたのだ。 俺は快く彼を送り出した。1週間などバイトなどで忙しくしていればすぐに過ぎると思っていた。 だが、それは昼間の話であって、夜のことなど考えていなかった。 毎晩あの大きな腕の中に包まれて眠りに落ちるのが当たり前になっていただけに、1週間という期間は長かった。 「あぁ、もう!眠れないっすー!」 とティーダは叫びそうになった。眠れないベッドから半身を起こし、眠れる方法を考えた。 きれいに整頓された部屋を見渡すと、ウイスキー、焼酎、カクテル、果実酒など好みに合った酒が作れるように道具が几帳面においてあるガラス棚を見つけた。 あまり酒に強くないティーダは、つぶれるまで飲んでしまおうと思った。 どの位経ったか、時計を見ようと自分の腕からまだ、酔いがさめない頭をもたげた。 その時、部屋のドア付近に見慣れたシルエットが目に入ってきた。 「アー…ロン?」 「…お前なぜこんな時間に家にいる?バイトはどうした?」 「へ?…今、何時?」 「午後3時17分だが…」 「午後3時……!!え!嘘?そんな、12時間近く寝ていたっていうこと?」 まどろみから急に引き抜かれて突き付けられた事実に信じられないという顔で、しばらくボーっとしていた。 「っていうか、なんでアーロンがこの時間にここに居るの?夜に帰ってくるはずじゃ…」 「なんだ?俺が早く帰ってきてはまずいことでもあるのか?」 「なんですぐ勘繰るンだよ!」 「まぁそうムキになるな……ただいま、悪かったな、お前をこんなにさせてしまって」 ティーダの周りに散乱している酒の空瓶を見渡しながら、アーロンは言葉を告げた。 “お前がこんなに飲めるなんて知らなかった”と笑った。ティーダ自身もこんなに飲んだ記憶はなかった。 「うわぁ〜こんなに飲んだんだ…それより、アーロンお帰り!」 「あぁ…そういえば土産、あるけど…タダじゃやらん」 と意地悪そうな笑みを浮かべた。アーロンがそんな顔をするときに言いたいことは、1つしかない。 ティーダは恨めしそうな目を向けながらも一向にお構いなしという素振りを見せた。 アーロンは初めは軽く、そして深くなった口付けをした。 “んっ”とティーダの喉が鳴ったのを合図に離れた。 「はぁっ…アーロン、息継ぎぐらいさせてよ」 「お前も寂しかったろ?俺は恋しかった…お前に触れられなくて」 その台詞が嬉しくて、ちょっと照れくさくて、話をはぐらかすようにお土産が見たいと言った。 「実際のところ何を買ったらよいか、わからなくてな…こんなものになった」 と言って持っていた手提げ袋ではなく、ティーダが始めてバイトの給料のときに買ったリュックの中に手を突っ込んだ。 それがティーダには特別扱いしてもらっている様に思えて嬉しかった。 他のお土産とは違うと言ってくれている様だった。 「何をニヤついているんだ?ほら…」 といって手渡されたのは、丁度手に収まるぐらいの箱だった。 その箱にはダブルで香水が入っていた。 「それはな…、アルベド語で“傍にいる”という意味らしい。それをつけて相手の香水を携帯すると意味が深まるとかいっ たか?まぁただの香水としてつけてもいいらしいから…」 呆れられていると思ったアーロンは言葉を濁した。 「アーロン〜〜〜〜!ありがと〜、嬉しいっすよ。これでちょっと離れても寂しくないかも。でも、しばらくは旅行には行かないで欲しいっす」 「あぁ、だが今度は二人でいこう」 アーロンがふっと目を細めて笑うと、そのまま自然と二人の唇と共に重なり、カチンっと空瓶が鳴った。 「アーロン…ここじゃ、ヤダ…」 ティーダの返事は了承の意味も含んでいた。 《END》 |