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「アイノコトバ」

所詮は「父」と「子」のような関係。
いくら好きだと囁いても、広い背中に腕を回そうとしても、それはただ拒まれるだけ。 それはわかってるけれど。 諦めようにも諦め方がわからない。 今までずっと傍にいたいと思って、離れる方法なんて考えなかったから。 だから傍にいるだけでいい。 『好き』だの『愛してる』なんての言葉まではいらない。 ただ傍にいたい。
嫌われていても、近寄るなと言われないかぎり。 それだけがオレを支える希望。 「じゃあ今日の見張り、ティーダとアーロンさん。よろしくお願いします」 「オレとアーロンが?」 「・・・・何か文句でもあるのか」
隣の赤い服を着た長身の男、アーロンがそう言ってオレを睨みつけた。
自分よりはるかに背の高いアーロンは、首を少し落としてオレをに睨む形になる。 この睨み攻撃は子供のころは本気で怖く、泣いたりもしたが今ではもう慣れてしまった。 「別に悪い意味じゃないっスから」
そう伝えるとふい、とルールーの方に向き直ってしまった。
―――――そもそもこんなことになったのは、少し前にユウナがモンスターに襲われかけたことが原因だった。 その日は旅行公司に着く前に日が落ちてしまい、野宿することになったのだ。夜も更けて疲れていたのだろう、みんなは早々と眠りに就いた。 そしてみんなが完全に寝静まった頃、運悪くモンスターがユウナに近づいたのだ。
ユウナはいち早く反応して応戦しようしたが、武器は手の届かないところに置いてあり戦おうにもそれもままならなかった。しかしキマリがすぐさま異変に気づいて、状況を把握して、戦えないユウナの代わりに応戦してくれた。敵はそう強くもなかったので、何度か切りつけるとその場から逃げ出した。
それから数日後、「野宿する日だけ見張りをつけよう」とワッカとルールーが提案した。
ユウナが襲われた日は偶然にも弱いモンスターだったが 1人や2人でで応戦できない程度の敵が出たら危ないということでの事だった。 ワッカとルールーが切り出すと全員が簡単に賛成した。
今まで襲われなかった方がおかしいのだ、と。 一昨日はワッカとルールー、昨日はキマリとリュック。 そして一度も見張りをしたことがないアーロンとオレに順番に回って来たのだった。 余談だけど今日で見張り三日目、イコール野宿三日目、イコール3日も風呂入ってない・・・・・・いい加減汗、流したい。体中がベタベタする。 ちなみにユウナは見張りのメンバーに入ってない。
ユウナは「みんなが見張りをしているんだから私だけ楽をするようなことできません!」と声を張り上げたが、すぐに「それなら私たちガードは何のためにいるのかしら?」とルールーに睨みをきかされ、抗議を却下されたからだった。 「さすがに徹夜は辛いでしょうから、交代で仮眠しながらお願いしますね」
アーロンは不機嫌そうに「あぁ」としか答えなかった。
ルールーは説明を終えるとそれじゃあ、と言ってワッカのところに行ってしまい、オレはアーロンの隣に残された。 ばつが悪くて横にいるアーロンをちらりと見やるが、言葉どころか視線さえ返って来なかった。
その日は静かな夜だった。
虫の声、それどころか風さえ鳴らず
おまけにアーロンは見張りを始めてから一言も喋ってない。 オレとアーロンの間で燃えている焚き火だけがパチパチと小さく音を出している。 この沈黙に耐えられず、さっきまで武器の手入れをしていたけどそれもすぐ終わった。自分ではいつもゆっくりとしていたつもりだったけどあまり時間は経ってなかったみたいだった。誰かを連れてきて話でもしようかと思ったけど、みんなはとうの昔に寝てしまってる。今頃起こしたら迷惑なんてもんじゃない。それにアーロンもきっと止める。
・・・・・・することが無くなった。というかできることが無くなった。
オレには目もくれずアーロンは未だ焚き火に視線を投げている。
―――――アーロンはオレがザナルカンドにいた頃はよく話しかけてくれたし、逆にオレが話しかけたら色々言葉を返してくれた。けれど、オレがスピラに来てガードになったら口数ず減った。一週間を過ぎた頃は全部と言っていいほどオレが話しかけてる。
アーロンから話しかけることもあるけど、説教ばかり。 それに・・・・なんというか。話をすぐ終わらせたがっているような・・・・・。
それどころか、オレがユウナのガードになったときからなんて自分から傍に寄らなくなった。
オレが近づいても離れる・・・なんて事はないけどアーロンからは絶対に近づかない。 「・・・・・・アーロンってさ」
「うん?」 今までいつでも聞けた質問。
なのになんで聞かなかったんだろう。いや、聞けなかったんだろう。 「最近・・・オレに全然話しかけないよね?なんで?」
アーロンの肩と眉がぴくりと反応したのが見て取れた。ゆっくりと視線が移される。
久しぶりに目が合った。最後に目が合ったのはいつごろだったろうか。 こんな目の色を漆黒って言うんだろうな。えらく綺麗な目がこちらを見る。 「くだらん事を聞くな」
アーロンはいとも簡単にさらりと言った。そうしてまた焚き火へと視線を落とす。
「だって・・・っ」
何が、くだらない事なんだよ。
そりゃあアーロンにとってはくだらない事かもしんないけどさ。 「何だ。まだ何かあるのか」
アーロンこそ何なんだよ。いつもいつも肝心なことを教えてくれないくせに。
オレに意地悪してんの?
「・・・・いい」
そんなに教えたくない?
オレを見たくないほど嫌い? オレに話しかけたくないほど嫌い? 「何?」
「もういいって言ったんだよっ!」 ああわかったよ。
アーロンはオレが嫌い。大嫌い。そういう事でいいんだろ?
そっけない態度。合わない視線。触れない体温。掛けられない言葉。 これが「嫌い」って証拠だろ? 「ティーダ!何処へ行くつもりだ!止まれ!! 」
後ろでアーロンが叫んだ。少し肩が震えたが、怒りと悲しみが混ぜくった気持ちのせいでアーロンのいる場所とは逆の方向にずんずんと歩き出す。
「一人で大丈夫だろ!伝説のガード様なんだからさ!」
誰が聞いても嫌味たっぷりのわざとらしい口調と言葉。
振り返らず、止まらず、大声で言った。 「ティーダ!!」
もう一度呼ばれた名前は、何のために呼ばれた名前なのかオレにはわからなかった。
ただ、一番確かなのはアーロンがオレの後を追いかけてはこなかったこと。
その事実になおさら足に力が入り、目頭が熱くなった。 ごしごしと何度も瞼をこすったせいで、目が腫れぼったい。
きっと涙や鼻水やらで顔は見れたもんじゃない。 長い森を走ってきたせいで顔が熱い。荒い息もまだ整わない。
けれど冷たい空気がどんどん体を冷やしていく。 足から力を抜くとがく、と膝が地に落ちた。そのまま素早く体を回して仰向けの状態になる。空は暗いが、ものすごい数の星と大きな月がきらきらと自己主張するかのように光ってる。息が整い始めて来る。完全に整った後、しばらく経ってから空気をめいっぱい吸い込んで、力いっぱい吐き出して呟いた。
「オレ、何してんだろ・・・・」
本当に、何やってんだろ。
勝手に話かけない理由聞こうとして、教えてくれないからってそれだけで駄々こねて。
アーロンにだって実は言えない理由があるかもだし。 あげく見張りほっぽりだして、アーロン一人にまかして。 結局はオモチャを貰えないから泣き叫んでるだけの子供、だよな。
「・・・ガキそのもの。」
戻ろう、かな。
アーロン眠たいだろうな。
ルールーに交代で仮眠を取れって言われてたのにオレが見張りほっぽってこんな所まで来ちゃったもんだから、寝るに寝られないだろうし。寝たら見張りの意味無くなっちゃうし。 戻ったらまず初めに謝ろう。それからあの質問はもうやめよう。
傍にいても話しかけても文句は言われないのなら、それで十分。 迷惑がられないで、傍にいれるなら十分だ。 『好き』の言葉はもらえなくていい。
「・・・っと」
両足を見えるほどに振りかぶって、上半身を起こす。
片足の膝と地面に手をついて、重い両足を無理矢理立たせた。 後ろを振り返ると見えるのは暗い森だけ。
大きな月のおかげで足元も見えない、と言うわけではなかった。 が、分かれ道が細かに分かれていて何処から来たのかさっぱりわからないのだ。 「・・・・・・はぁ」
ここにいても仕方がない。
そう思い、大きいため息を一つついて、しぶしぶ足を進めることにした。 「・・・・勘弁してくれよぉ」 歩いても歩いても目に入るのは薄暗い道。
・・・・完璧に迷った。 前を見ても後ろを向いても同じような道に見える。
もう2時間は歩いただろうか。いいかげん足が痛くなってきた。 ふと見張りをしていた時のことを思い出す。
見張りをしていた時、確かに焚き火を燃やしていた。 この暗い森の中でただ一つ燃える光だから、ぼんやりとでもその場所がわかると思ったが駄目だった。もしかしすると、なおさら深い所に来てしまったのかもしれない。 前よりさらに視界が薄暗くなっていた。 「・・・・・」
自分の息遣いがはっきり聞こえる。
子供の頃から暗いところを歩くのは、嫌だった。
足からじわじわと「黒」が自分を飲み込むんじゃないかと思っていたから。 そんな事はない。あるわけがない。大きくなった今、それは嫌でもわかる。 だが、わかっていても言いようの不安に駆られる。 いや、違う。
暗い所をただ歩くのが怖いんじゃない。
暗いところを歩くとき、いつも前にいたあの人が・・・・・いないからだ。 「おい」
「うわあああぁぁぁっっ!!!???」 ただでさえ怖いのに後ろから誰かにものすごい力で肩を掴まれ、大声を上げてしまった。
「・・・・・煩い」
「あ、アーロン!?」 尻餅をつくほど驚いたのに、そこにいたのは最も傍に居て欲しかった人。
耳が痛いのか手を耳に当てて、眉間に皴を寄せている。 「・・・・・お前はここで何してる」
いきなり本題に入られ、返答に困る。まさか道に迷ってましたなんて言えないし。
「何をしてるかと聞いてるんだ」
「・・・・・・・迷ってました。」 アーロンの気迫にはとうとう勝てず、あっさりと言ってしまった。
おそらく額に浮かんでいる一本目の青筋は最初からだろう。 間をあけて、二本目の青筋が浮かんだ。 二本目の青筋を確認すると同時にオレの手首を大きい手がひっ掴んだ。
そのままオレを引きずるように歩き始めた。 「・・・・・・迷ったならその場所でじっとしていろ!迷っているときになおさら歩いたら
もっと迷うに決まっているだろうが!元々お前は怖がりのくせに下手に動くんじゃない。そもそもあの時、森の奥にわざわざ入るからだ。止まれと言ったろう。 迷うのなら素直に止まれ。」 長々と続く説教と暗い道。しかし歩くたびに暗い道も少しずつ明るくなって来る。
けれどもアーロンの口から出てくる長々しい説教の言葉は止まることを知らないようだ。まあ顔を平手で叩かれても不思議じゃないくらい怒らせたんだからしょうがないか・・・・・。 「・・・・・ごめん」
とりあえず勝手に何処かへ行って勝手に迷ったことを謝らなくちゃと思った。
やっとの思いで謝罪の言葉を絞り出すと、突然アーロンの足が歩くのをやめた。 「・・・・した」
「え?」 「心配した。本当に。少ししたら帰ってくるだろうと思っていたのに、2時間、3時間たってもお前は帰ってこなかったからな」 先ほどまで眉間にあった皴は無くなって、代わりに最も大事なおもちゃを奪われた子供のような表情が浮かべられていた。アーロンらしくない表情と悲しそうな声。こんなアーロン、初めて見た。
「お願いだ。もう心配はかけさせないでくれ。」
「・・・・わかった」 ・・・・・・・・・心配されるのはきっとオレを”息子”のように見ているから、しぶしぶ心配しているのだろう。簡単に言えば義務のようなものだろう。
特別な感情などは、ない。 愛されないなら、愛さないほうがいいのだ。 けれど気持ちを体の中に押し込めても押し込めても、いつかは限界が来るのだろう。アーロンに自分の気持ちをぶちまけたくなる日が来るのだろう。 そのときはどうすればいいんだろう?
「行くぞ。もうそこだ」
いつの間にか焚き火のあるあの場所が見えていた。ぼんやりと小さく燃える火の光が見える。いつの間にか握られていた手は離され、アーロンはそのまま焚き火の所へ行ってしまった。ずっとアーロンの体温に包まれていたせいで空気が異常に冷たく染みる。寂しくなった手首にしばらく視線を落としながら、アーロンの背中についていった。
"父"と"子"のような関係など壊したい。壊してやりたい。
アーロンの広く大きな背中を見ながら何度も考えた。
結局昨日は・・・・寝てしまった。 見張りの場所に戻ったのはいいが、夜に起きるのは性に合わないらしく膝を抱いて熟睡。起きたのは明け方ごろで出発の時間まであと3時間と言うところ。
アーロンはと言うとちゃんときっちり起きていた。
オレが寝ちゃったもんだから、アーロンは寝ようにも寝れず一人で見張りを続けたらしい。 ちなみにオレが起きた時にはテントから持ってきたであろう毛布がかけられていた。
アーロンがかけてくれたのだと言う。 オレはうつ伏せ、・・・というか横向きで寝っ転がった状態で寝ていた。 目を覚ました時、アーロンの視線とぶつかった。 わざとらしく「よく眠ったようだな」と言われてしまい、罪悪感でいっぱいだった。 出発までまだ時間はあるので、アーロンに一度寝るようすすめた。
よほど眠たかったのだろう。仰向けになった後、5分たらずで寝てしまった。 寝息はあまりにも静かで、時々死んでいるのではないかと口に手をかざし確認したほど。 皆が起きだすのはあと1時間くらいだろう。それまで何をしておこうか。
暇を打倒する案を考えてるうちにふと、少し前の出来事を思い出した。 ”心配した。本当に”
――――あの言葉に心配以外の感情は入ってなかった?
アーロンの寝顔を見つめながら、心の中で問いかけた。答えてくれるわけはないが。 アーロンとは違う形で逢いたかった。そしたら今の状況とはきっと違っていただろう。
一人の人間として愛してくれてたかもしれない。”息子”じゃなくなってたかもしれない。 「何、・・・考えてんだ」
そんな事はありえない。もう時は過ぎた。いまさら時間を都合良く戻すなんてできない。
でもずっと聞きたかった。 ”どうしたらオレの事好きになってくれる?”
でも聞けるはずが、なかった。
聞きたい、答えを聞きたい。そう思うほど聞けず時間は過ぎていった。そして今に至る。 このまま死ぬまでこうなのだろうと重い溜め息をついた時。 「どうかしたのか」
突然の低い声。これには驚いた。
いつの間にかアーロンの瞼は開かれていた。 「・・・・・起きたんだ?」
「この世の終わりのような溜息をつかれてはな。何かあったのか?」 悩んでいる物事に出てきた人物に何かあったのかと聞かれるのは少し違和感がある。
アンタだよアンタ。あんたの事で悩んでたんだよ。 そう一気に言ってしまいたかったが寸前で口を手で塞ぐ。 「いや別に?・・・・・心配してくれてるんだ?」
「当たり前だ。お前は俺にとって一番大事な奴だからな」 そう言いながら体を起こそうとする。
「あ!まだ時間あるから寝てていいよ!」
「いい。もう十分」 「2時間ちょっとで何処が十分なんだよ!」 勝手に寝てしまってアーロンの睡眠時間をほとんど潰したんだからすごく眠たいだろうに。
あわてて寝かそうとアーロンに駆け寄り、無理矢理体を押し戻そうとする。 「もうちょっと寝てなってば!」
不意打ちだったので力は入らなかったのだろう。アーロンの体は簡単にぐらついた。
しかし何を思ったか、バランスを崩す直前にアーロンがオレの腕を掴んだ。 「うわっ!?」
そのまま道連れ。腕を引かれ、地面にぶつかるのが怖くてぎゅっと目を閉じた。
しかしいつまでたっても痛みは襲ってこない。そろそろと目を開けると視界すべてが赤い色。何これ?ついでに言うと体が動かない。 「これは俺の勘違いじゃ、・・・・ないよな?」
真上から笑い声と重なった低い声。
言葉は耳に届いたが、意味を理解するのは数秒ほど必要だった。 首を回せるだけ回して必死で状況を把握しようとする。左に首を回せば、今度は固い黒色。 「・・・・え、え?」
やっと気づいた。
ここはアーロンの・・・・・腕の中?
自分がいる場所がとんでもない所だってわかって、顔がどんどん熱くなる。
「あ、アーロン?」
とにかくこのままじゃ身が持たない。眩暈さえする。
嬉しいんだが、恥ずかしいんだか。でもどっちかと言うと、両方。 「お前は・・・俺の事を父のようなものとして見ていると思っていた」
「え?」 それはアーロンじゃないの?
アーロンがオレを息子として見てたんでしょ? だから恋愛対象、とかそんなのに入ってないはずじゃないの? ――――ああ駄目だ。頭がどんどん混乱してくる。整理がつかない。 「・・・・好きだ」
耳元で小さく囁かれ、嬉しくて、でも恥ずかしくて、死ぬかと思った。
いきなりの愛の言葉はオレには刺激が強すぎた。 でも、なんで? 「ちょ、ちょっと待って!」
髪を手ぐしで何度もすかれてる途中に胸を思いっきり押して離れた。
途端にアーロンの表情が曇った。 「・・・・お前は嫌いか?」
「え?いや、そういうわけじゃ・・・」 「なら好きか?」 そういう直球で聞かれると言いにくい。あたふたしているうちにどんどんアーロンの表情が曇り続ける。仕方なく恥ずかしさを押し込めて、アーロンの胸に頭をもたげて小声で呟く。
「・・・・・・好き、だよ」
最後は消え入りそうな音量だったが、アーロンにはちゃんと聞こえたようだった。
「俺もだ」
さっき聞いたはずなのに再度改めて言われるとなんとも言えない嬉しさに襲われる。
そのまま腕を回されて、力強く抱きしめられる。嬉しくてそれに応えるようにオレもそろそろと背中に腕を回すと、オレを抱きしめる腕にさらに力がこもった。 「でもさ、アーロン」
「ん?」 「アーロンはさ、オレの事息子だと思ってたんじゃないの?」 「お互いにな」 「え?」 「俺もお前が俺を父としてしか見てくれていないと思っていた」 「だったら・・・・なんでわかったの?オレが・・・・その、好きってこと・・・」 「わかったと言うか、賭けだった。人生最大の」 「なにそれ?」 アーロンの話によると、オレを好きになったのは初めて出会ってしばらくのこと。
どうやらオレもアーロンも同じ頃に互いを好きになったらしい。 アーロンはオレが無防備すぎて、父のようにしか見てくれていないと勘違いした。 オレも全然手を出して来ないから、そうだと思ってた。 でも、アーロン曰く「先ほどもオレの目の前でぐっすり眠っていたから、理性を保つのが辛かった」だそうだ。そして行動・・・もとい、人生最大の賭けをするきっかけがオレの”寝言” だったとアーロンは言った。 「寝言って・・・オレなんか変なこと言った!?」
「ああ、色々な」 その意味真な含み笑いに血の気が引いた。
「・・・・なんて言ってた?」
「”アーロン、もうあんたの子供は、息子は嫌だ”とな」 「・・・・・・」 オレそんな事言ったのかよ・・・うわあ最悪。
それってある意味告白に近いよ。 「いっその事、好きだと言ってくれれば良いものの、余計に迷わせる言葉を言ってくれたからな。俺のことが嫌いで俺から離れたくて言ったのか、それとも息子としてはなく見て欲しかったのか、二つに一つだったからな。」
「で、大当たりってことか」 「そういうことだ」 「と言うか、お前は今まで気づかなかったのか?」 「何が?」 「俺の気持ちにだ。」 「はい?」 いえ、全然気づきませんでした。
「よく考えてみろ。好きでもなんでもない奴をわざわざ森の奥まで探しに行くか?
居なくなったら仲間が襲われるかもしれないと言う危険性のある見張りをほっぽって、だぞ?好きでない奴に”心配した”などと俺が言うと思うか?」 ――――そういえば、そうかもしれない。
「好きだから、心配した。傍にいさせた。」
「いや、わかった。もういいよ」 これ以上ノロケを聞いていたら心臓が爆発しそうだ。しかも今まで聞いた事のない優しい声で言われたら、もうたまらない。愛の言葉は十分すぎるほど聞いた。
「そういやオレが”なんで話しかけなくなったの”って聞いた時、なんで”くだらん”とか言ったの?それにオレがガードになった時から全っ然話しかけなくなったじゃん?」
「ああ、あれはリュックに言われたからだ」 「リュック?」 なんでリュックが出てくるんだ?
なんかアーロンと話してると色々疑問が出てくるなぁ。 「あいつがガードに入った途端、俺の気持ちがばれそうになってな。
顔が緩んでいると言われた時は血の気が引いたな。視線を投げようものなら”大好きなんだね”とからかわれる始末でな。このままではそのうちティーダにもわかってしまう。そしたらお前は俺から離れてしまうかもしれないと思ったからな。 だから離れるよりはましだと、お前に話しかけるのは極力避けたんだ。」 「そういえばリュックがガードになったのってオレがガードになってちょうど一週間目だった・・・。」 「その通りだ」 なんか笑えてきた。そんな理由でアーロンがオレと話すのをやめただなんて。
そのせいでオレが嫌われてんじゃないかとどれだけ不安になった事か。 「でもアーロンってそんなに顔に出る方じゃ・・・」
「もうおしゃべりは終わりだ。理性が持たん」 「え、理性って・・・・っ!」 荒々しく、けれど優しく口付けられた。
この矛盾したキスはどうやって説明すればいいのだろう。 息子として恋愛対象外だと思い、愛してはいけないと苦しみながらも、愛し続けたからっぽの10年間はキスの後に言われた10年分の愛の言葉で満たされた。
からっぽだった10年を満たすきっかけとなったのが寝言だと言うのが滑稽な話だが。
終われ!! とか言いつつおまけ。 *「どうしてオレに話しかけなくなったの」の直前場面(笑)*
「おいリュック。アーロンさんに気づかれたら殺されっぞ。」 「大丈夫だって。ワッカはもう寝なよ。」 どうやらテントの隙間からアーロンとティーダを見張っている様子。 「何がしてぇんだお前。」 「おっちゃんね、ティーダの事好きっぽいから”何か”したら脅すネタになると思ってさ。 でも全然何もしないんだよねぇ」 「何かってお前・・・!」 「しーっっ」 ワッカの声でバレたかなとアーロンを見るが、どうやら気づかれてないようだ。 ワッカとリュックは顔を見合わせ「セーフ」のジェスチャーを互いにする。 気を取り直してアーロンの方に向きなおそうとすると・・・・。 ・・・・・体が動かない。 「えぇえ〜〜〜〜?」 「しかもオレもかよ〜〜」 とりあえずバレないように小声で話すがあまり意味無し。 「なんでぇ〜〜」 「つーかさ、思うんだけどこれ特殊アビリティの『おどす』じゃねぇのか・・・・?」 「・・・・ってことは」 「アーロンさん・・・・気づいてたってこと、じゃねぇの?」 「あぁもうだからティーダに何もしなかったのぉ〜〜?」 リュックはすでに半泣き。 何時間かしてやっと『おどす』のききめが切れたのはアーロンとティーダが森から帰って来たころ。ここにいては今度は『おどす』どころか流星を食らわせられるかもしれないので、二人は半分怯えながら、毛布に潜り込んだ。
END |