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「Last Kiss」    浅葱 智之
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「なぁなぁ、アーロンっ!ちょっと其処まで付き合ってくれよ!」
最終決戦を明日に控えた夜。少年は何時もと変わらない『太陽』と言う名に相応しい笑顔を称えながら目の前の男にそう言った。
「・・・こんな時分に・・・か?」
「まぁ、良いじゃん。月が綺麗な夜なんだしさっ」
そんな事を言いながら、手を引いてくる彼にアーロンは一つ溜息をこぼして了承を返す。
普段であれば、訝しげに眉を顰めて、明確な理由を求めるのだが・・・今夜はそうするつもりは無かった。
例え夜を明かす事になっても・・・彼がそう望むのなら納得するまで付き合ってやろうと思っていた。
・・・せめて・・・今夜だけは・・・。
「・・・月が綺麗なんだろう?行くぞ」
先程とは逆に今度はアーロンが彼の手を引いてそう言うと少年・・・ティーダは驚いた様に目を見開いた。しかし、それはほんの一瞬で直ぐに嬉しそうに頷き返し、二人は部屋を後にしたのだった。


外に出ると、彼の言った通りの月が闇夜を照らしていた。
・・・静寂に包まれた空間に銀色の光が静かに落ちる。
その光を見上げると、ティーダは静かに目蓋を閉じた。
そして深く息を吸い込むとその目をゆっくりと開いて、振り返った。
「ほらな、綺麗だろ?」
「・・・あぁ」
アーロンの返事に満足げな笑みを零すと、彼は空に視線を戻す。
「・・・実は月の方が好きなんだよね。俺。ザナルカンドでも良く見上げてたっけな」
「それは初耳だな・・・」
「・・・アーロンは知らなくて当然だよ」
ティーダは苦笑交じりにそう呟いて、あんたが居ない夜の話だから、と繋いだ。
「一人きりの夜は、大抵月を眺めてさ。・・・朝が来るまでそうやって過ごした時もあったんだぜ?」
・・・あの頃は、アーロンが何処から来たのかあんまり気にしてなかったし、・・・親父を知ってるんだから同じ世界の人間だって当然の様に思ってた。だから姿が見えない時は自分の家に帰ったんだろうなと・・・帰る場所があるんだって考えた。
・・・一人で家に居るのは好きじゃなかった。
一人きりになると考えなくて良い事まで考えてしまう。
・・・それが嫌だった。
だから、何時も月を眺めてた。



「こうしてるとさ、何か落ち着くんだよな。・・・太陽の光なんかより・・・全然」
「・・・お前はずっと日の光の方が好きなのだと思っていた・・・」
アーロンはその言葉に、少し意外そうな顔をした。
目の前の少年にはどちらかと言えば太陽の方が似合っていると考えていたからだ。
「勿論、好きだよ?・・・でも、俺にとって月って特別な物・・・だからさ」
呟く様にそう言って、彼は目蓋を軽く伏せた。
それから、暫くの間黙って立ち尽くして居たのだが、意を決した様に顔を上げるとその蒼い瞳をアーロンの方に向けた。
「本当は最期まで・・・言うつもりなかった。このまま・・・終ろうって・・・でもそれじゃ駄目だって・・・きっと後悔すると・・・思ったから」
「・・・ティーダ・・・?」
「・・・月は俺にとって・・・何時もアーロンの代わりだった。冷たいけど優しくて・・・暖かくて・・・安心出来て・・・だから好きなんだ」
声は、震えていなかったと思う。
只、目蓋の奥が凄く熱くて・・・堪えている物が溢れてしまいそうだった。
ティーダはそれを懸命に耐え、一つ一つ言葉を繋いでいった。
・・・気持ちをちゃんと伝えたかった。
・・・最後まで確りと・・・言っておきたかった。
「・・・今までちゃんと、言った事無かったよな・・・何時も貰ってばっかりで・・・俺から言葉にした事は・・・一度も・・・・・・だから、もしかしたら、もう言える機会・・・今夜だけかもしれないから・・・」
想いを口にすると、見る見る内に視界が霞んでいった。
それを見られたくなくて、ティーダは瞳を隠す様に、額に手を置いた。
「俺も、ずっと・・・俺を見つけてくれたあの日からずっと、アンタの事・・・好きだから。・・・逢えて良かったって・・・思ってるから」
そう言ったティーダの顔には、無理に作られた笑顔が、浮かんでいた。
これで最期だから・・・笑っていたかった。
そうすれば、アーロンの中の自分は、ずっと笑顔でいられると思ったから。
例え、この存在自体が消えて・・・なくなってしまったとしても・・・笑顔の自分だけ覚えていて欲しかったから・・・。
しかし、そんなティーダの願いは呆気なく打ち砕かれてしまった。
強い力で引き寄せられ、気が付いた時にはもう、腕に抱かれていた。
・・・力強いこの腕も・・・広い胸も・・・明日になれば永遠に感じる事が出来なくなってしまう・・・。
そう思った途端、堪えていた物が一気に溢れ出した。
「・・・御免つ・・・これ、無しっす・・・」
それでも彼は目蓋をこすって必死で止めようと試みる。
しかし、それは叶わず、雫は逆に流れるばかりだった。
「・・・もう・・・充分だ・・・ティーダ・・・・・・其処までで・・・良い」
「あーろ・・・」
「・・・これ以上何に耐える事も無い・・・」
「けどっ・・・」
「・・・安心しろ・・・見ているのは俺と・・・月だけなのだから・・・」
アーロンは酷く優しくそう囁いて、柔らかな金の髪にそっと口付けを落した。
その瞬間、ティーダの口元から微かな嗚咽が漏れた。


「・・・アーロン・・・アーロンっ・・・」
震える声で、縋る様に何度も何度もその名を呼んで。
幾度となく擦り寄って眠った、その胸に顔を埋めて・・・。
ティーダは今までにないくらい激しく、泣きじゃくった。
・・・どうして、俺は、この人と同じ存在じゃないんだろう・・・。
こんな風に、触れる事も・・・触れられる事も出来るのに・・・。
せめて、同じ存在だったなら・・・祈り子の夢なんかじゃなくて、同じ人間だったら・・・例え住む世界が違っても・・・一緒に逝く事は叶うのに・・・。
「・・・ほんとは・・・アンタと・・・離れたくなんて・・・無いんだっ・・・ずっと、
傍に居たいんだ・・・居て欲しいんだよっ・・・アーロンっ・・・」
まるで子供の様に大粒の涙を零しながら、しゃくりを上げる彼をあやす様に髪を撫でてやると、アーロンは唇をそっと重ねた。


・・・暗闇の中に浮かぶ、二つの影。
迫り来る、無情な時間を掻き消す様に抱き合って・・・。
・・・金の髪がシーツの海を泳いで、腕の中で泣き疲れて眠るまで、繰り返される・・・最期の口付け。

・・・そして、漆黒の闇に金の光が現れて、空が深蒼に染まり、彼等が決戦の舞台へと踊り出た瞬間に・・・終焉への幕は、上がる・・・。


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