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「ティーダ、受難の日」    由希奈
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次の寺院へ行く途中、道に迷ってしまい、アーロンとリュック、キマリとワッカがペアを
組んで道探しに出かけていたときのことだった。

「なんか…ムカムカする」
「ムカムカって…気持ち悪いの?」

急にまわりの景色が狭まってきたと思った瞬間、ティーダは背中から冷や汗が出てくるほ
どの吐き気に襲われた。

「う…っ」
「ティーダ?」

口元を押さえ、今にも倒れそうなほどに足元がふらつき、額からはひっきりなしに汗がこ
ぼれている。
そんなふうに突然蒼褪めて、お腹の辺りを押さえたティーダに、ユウナが心配そうに近づ
いてきた。

「大丈夫…?」
「…うん」

今にも泣き出しそうなユウナを見て、ティーダはなんとか笑みを作るとユウナを見つめ返
した。この頑張りやの少女を、妹のように思っているティーダにとって、彼女の顔を心配
に曇らせることは本意ではない。
それでなくても大変な使命に押しつぶされそうになっているというのに、何気にもらした
言葉にまで気を使わせたくないのだ。

「どうしたの?」

お元気印のリュックと張るほどにいつも元気なティーダ。
そんな彼が妙におとなしいことを気にしていたのだろう。
ルールーもユウナの後ろでひんやりとした美貌を曇らせている。

(まいったな)

ティーダは2人の顔を見て、己の迂闊さを呪った。
まったく、どうして自分は候も気持ちを包み隠すということが苦手なのだろう。
みんな自分のことだけでも大変なのに。

「あ、でも…ちょっとすれば治ると思うから」

無理して微笑みを作ってはいるが……実際のところ、この吐き気と眩暈はすぐに治るとは
思えなかった。
それに、ティーダが無理をしていることなど聡いこの2人に隠せるはずもなく、ティーダ
はどうしようかと必死に考えをめぐらせる。
と――――――

「道があったよ!」

きいてきいて!おっさん達ってば道探しに言って自分が迷子になってやんの。
と、明るい登場を果たしたリュック。
だが、その明るさも、ユウナとルールーの心配顔に一気に消沈した。

「どうしたの?」

様子が変だと、すぐに気付いたリュックがユウナの傍に駆け寄る。
ユウナは困ったように眉をしかめると、ティーダのほうをじっと見詰めた。

「ティーダ?」

リュックは真っ青になって振るえているティーダを見て、自分まで真っ青になってしまっ
た。

「やだっ…大丈夫?」
「大丈夫ならとっくに治ってるわ」

ルールーが騒ぎ出したリュックを沈め様とわざと冷たい調子で言う。
もちろん、ルールーの冷たい態度がティーダを心配するあまりということがわからないリ
ュックではない。
リュックは騒がしい外見とは裏腹に、人の真意を見抜く事に長けた少女であった。

「うん、五月蝿くしてごめんね」

たいしたことないならティーダは我慢しちゃうもんね。
そう言って素直に謝るリュックに、ルールーは優しく微笑みかけると、小さく「ごめんな
さい、私も言いすぎたわ」と謝った。
リュックはそれに笑い返すことで答えると、

「アルベド族の回復薬は効くかな?」
「わからないわ……お願いしていい?」
「まかせてよ」

心配顔のユウナを元気付けるようにグッと拳を突き出し、リュックは懐から回復薬を取出
し、ティーダにそれを飲ませた。――――――が、

「…だめ、みたいだね」

けっして彼女のせいではないのに、ティーダが治らないのは自分の罪とばかりにしゅんと
してしまうリュック。

「そんなことないよ」

苦しそうにしながらもティーダがふわっと笑った。
ユウナとは別の意味でティーダにとってリュックも妹のような存在で。
いつも騒がしく元気な彼女が自分のせいで沈んでいると、どうしても元気付けてやらずに
はいられなくなってしまうのだった。

「ありがとうリュック……なんとなく楽になってきたみたいだし」
「ほんとっ?無理してない?」
「うん…ありがとな」

無理……は、めちゃくちゃしてるけど。
やはりこんなふうに喜んでくれると嬉しくなってしまう。
ユウナの言う通り、旅は笑っていけたほうが良いに決まってる。
みんなで笑いで、馬鹿やって……時には怒られて。
そんなふうに楽しいたびをして行きたいと思う。

「道、みつかったんだろ?」
「うんっ」
「じゃあ、行こう」
「お――――っ」

元気よくコブウシを振り上げたリュックに、ティーダは眩暈をこらえて歩き出した。
するとユウナやがティーダの分の荷物を持ってくれ、すかさずルールーが支えてくれた。

女の子にこんなふうに支えてもらったことなんてないティーダは、ルールーの体温を感じ
るこの距離にいることに、ちょっとどきどきしながらほおを染める。

「アーロンやキマリ、ワッカ達はこの先で待機してるから」

せっかく見つけた道を忘れないよう、おそらくこの少女はアーロン達を目印がわりにおい
てきたのだろう。
リュックに反論を赦さないとばかりにぎゃ―ぎゃ―わめきたてられ、心底困ったような顔
をして目印代わりに立ち尽くす男3人を思い浮かべて、ティーダ、ルールー、ユウナは思
わず吹き出した。

「あ、いたいたっ――――――おーい、みんなつれてきたよ〜」

リュックはそう言って大きく手を振りながら走り出した。
と――――――

「お?」

リュックは前につんのめりながら、突然急ブレーキをかけた。
何を思ったか、男3人が突然こちらのに向かって走り出してきたのだ。

「うわわっ…なにっ?なんなの?」

何せこのメンバーの男どもはティーダを覗いて180センチをゆうに超える長身の軍団で
ある。そんな大男の軍団がこちらに向かって突進してくるのだ。
想像を絶する迫力である。

「うっひゃぁ〜〜」

あまりの恐さにリュックは悲鳴を上げ、もと来た道を全力で引き返し始めた。
と、

「きゃあっ」
「いたっ」

2.3歩も行かないうちに二人分の荷物を持っていたことで、急な方向転換ができなかっ
たユウナと激しくおでこをぶつけ合ってしまった。

「ひたた〜〜〜ゴメンねユウナぁ」
「う、うん。私は大丈夫…それよりどうしたの?」
「ちょっと、なんなのっあれは!」
「え?」

いつも冷静なルールーらしくない悲鳴にユウナはぼんやりとした景色を必死に目をこらし
て見つめた―――――――すると、

「きゃっ…!?」

これ以上ないというくらいに切羽詰った表情でこちらに向かってくるワッカ。
元々恐い顔なのに、それをもっと厳つくしてこちらに突進してくるキマリ。
そして……たった今人を殺してきたような惨忍さと焼き尽くすような迫力で全力疾走をし
てくるアーロン。

(((恐いっ……恐すぎる!!)))

女3人は腰を抜かしながら、それでもティーダだけは守らなければと、ぐったりとしてい
るティーダをルールーの背に乗せると、ユウナはリュックと自分にプロセスをかけ、特殊
スフィアで体得したヘイストを唱えると、こちらに向かって突進してくる男どもに立ち向
かって行った。


と―――――― 一方
なぜ男どもが急に走りだしたかといえば……

「おーい、みんなつれきたよ〜〜」

自分たちを目印棒がわりにした少女が無邪気にこちらに向かってかけてくるのを、内心「ケ
ッ」と思いながら見つめていたワッカ、キマリ、アーロン。
そんな彼等の目に、やたら多い荷物を持つユウナと……

(((!?)))

ぐったりとルールーに持たれかかるティーダの姿が移った。

瞬間、彼等は走り出した。
これは頭で考えた行動でなく、本能といって良い行動だった。
昔から邪な意味も含めてめちゃくちゃに大切にしていたティーダが、ぐったりとしている
のを見て、理性が吹っ飛んだアーロン。
弟にそっくりという事を差し引いてもお気に入りなティーダが苦しんでいるのを見てたま
らなくなっているワッカ。
不気味…いや、めったに見れない素敵な笑顔を見せてやっても良いと思ったほどに気を赦
した少年の儚げな姿に心を痛めているキマリ。

そんな彼等の目に映るのは大召還士ブラスカの娘であり、自分たちが守るべき少女、ユウ
ナではなく、氷の美貌を誇る黒魔術師でなく、お騒がせ娘でなく。

(((ティーダっ)))

小麦色のすべらかな肌を惜しげもなくさらし、ひまわりのような笑顔であのシーモアさえ
も虜にしたティーダという名の少年だけだった。

そんな彼等のアイドル的存在の少年ティーダが苦しんでいるのを見て、我こそがと彼に駆
け寄ろうとしたのだが……この3人、どうあっても、一般受けしなさそうな顔をしている
ことを忘れているらしい。

いや、個人個人で見ると、ワッカは愛嬌のある男らしい顔をしているし、キマリはよくよ
く見れば目鼻立ちがしっかりとしている良い顔をしていると思う。
アーロンも、不精ひげがワイルドな中年の渋さが出ていてユウナやルールー。リュックの
ような若い少女達から見ても素敵だと判断してもらえる顔だ。
だが――――――恐いのだ。
3人とも。
女受けはしても子供向けは…もっというなら一般受けはしなさそうな顔をしているのだ。
この一人でも相当な迫力の男どもに3人で向かってなんてこられれば、モルボルだって必
死に逃げ出しそうだ。

「ユウナ!バハムート召還!」
「はいっ」
「リュック、タイミングを見計らって手榴弾投げまくって!」
「おまかせっ」

二人に指示を出しながらティーダを背負って走るルールー。
突然襲いかかってきた召還獣バハムートに一瞬のためらいもなく剣を向けて行くアーロン
達。

この人達はいつになったらティーダの看病をしてあげるのだろうか。
そしてまた、いつになったら次の寺院につくのであろうか。

まったくもって、楽しい旅をつづけるということは大変なことであると、ティーダは半分
闇に落ちかけた意識の中で考えるのだった。


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