NEXT  入り口へ戻る 
ライン
花ノコトバ    
ライン


 きゃあきゃあと、女性達の嬌声が響く。

 「まったく・・・あいつらは・・・。」

 アーロンは、大木の下の木陰で座り、背を木にもたれさせながらつぶやいた。

 「この旅が一体どういう旅だか、覚えているのか・・・?」

 視線の先には、仲間達がいる。女性陣は、花を摘みながらぺちゃくちゃと話に華を咲かせ、ティーダとワッカはブリッツボールのパスの練習をしている。キマリは自分のスピア・防具の全ての手入れしている。

 

 ナギ平原ののどかな一日。本来、彼らの旅は「一刻も早くシンを倒」し、「世界にナギ節を作る」ことが目的のはずだ。だが、今は彼以外の人間は、誰一人そんなことを覚えていないようだった。

 

 これというのも、一行の向かう方向を決める役であるティーダが、

 「シンに立ち向かうには、まだまだ修行が必要っす!ということで、オメガ遺跡とナギ平原の訓練所の往復で修行するっスよ〜!」

 

 と言う「戦略」をたてたためだ。そしてけっこう強力にそれを実行したためか、今は訓練所のかなり強い敵とも渡り合えるようになってきた・・・のだが。

 

 「どうやら・・・わざと、忘れているようだな・・・。」

 

 彼の額には、軽く青筋が立っている。これはいらいらしたり、怒ったりしたときに昔からそうなっていたものだが、本人だけは今だ一度も気づいていない。本人としては、極力感情を出さない顔にしているつもりだが。

 

 「おまえらの物語だろうが・・・」

 

 と、つぶやいてみたものの、本当は「ジェクトをもう十年も待たせている」ということがいらいらの原因の大半であるので、やつあたり的な感情だということは自分でも充分すぎるくらい解っていた。

 

彼らは無意識のうちに仲間を死なせたくないと考えて、だらだらと結論を延ばしているかもしれない。若くして死ぬには、世界はあまりにも美しい。

 

 (これが、若いということかもしれんな・・・)

 

 やりたいことが、たくさんあって。世界の全てがきらきらとしていて。・・・誰も、そんな時代に自らの身を死を賭した世界に置きたいとは思わないだろう。そう思うのは、よっぽどのサドかひどいマゾだ。

 

 (俺の若い頃は・・・マゾだったのだろうな・・・認めたくはないが・・・)

 

 自己犠牲に酔い、その宗教的な高揚感が痛みの感情を麻痺させていたのだろう。彼らには本当はそんな意味のない行動はさせたくないが・・・。

 

 (すまんな・・・あいつとの約束なのでな・・・。)

 

 心の中で、そっとつぶやいた。

 

 あいつ・・・ジェクトは紅い瞳をしていた。全くもって型破りで常識外れな男で、非常に印象に残る男だった・・・よかれ、悪かれ両面で。姿かたち、性格共にまるで動物・・・いや、猛獣であり、最初はお互い反発ばかりしていた。しかしその男は、やがて大切な友人となった。・・・それも、かけがいのない・・・。その友はこの十年間・・・あの紅い瞳で一体何を考えてきたのだろう?

 

 「もう少しだけ、待ってくれよ・・・」

 

 彼はいつからともなく、友の息子であるティーダから貰った深紅の輝く石を懐から取り出し、見つめ、もてあそびながらそう考えていた。彼はその石に軽く口づけをすると、大事そうにそれをまた懐にしまった。

 

 彼の少し先で、若い娘達が草原の花を使って遊んでいる。ユウナは白く清楚な印象の花を頭に挿し、リュックは小花を編んだ冠を被っている。ルールーはそんな二人を(珍しく微笑すら見せながら)見守っている。

 

 あの花の名前は・・・何という名前だったか・・・。俺はあの花たちの通称は知らない。だが、ブラスカ様に教わった異国の名前でなら、覚えている。

 ユリ・・・と、シロツメクサ・・・とか言ったかな・・・。

 今日はやけに感傷的になる・・・昔のことをこんなに思い出すなんて・・・。

 

 「少し・・・眠るか・・・。」

 

 こんなに昔が懐かしいのは、彼らを見てしまうからだ。人生の始まりを歩き始めた、輝き生命力に溢れる彼らを・・・。

 

 彼は静かに、やさしく瞼を閉じる。

 ・・・意識が、闇の中に落ちていく・・・。

 

 

 「・・・ロン、アーロン・・・」

 

 何だ・・・?誰だ・・・?

 

 「・・・アーロン、もうそろそろ起きなさい。今日はいい天気ですよ。」

 

 アーロンはそれを聞くと、がば!と跳ね起きた。

 

 「申し訳ありません!ブラスカ様!!私がブラスカ様より遅く起きるなどと、申し訳が立ちません!!」

 

 「はっはっは・・・いつもながらアーロンは元気だねえ・・・寝起きだというのに。目覚めの悪い私はいつもうらやましいよ。」

 

 「いえ、ブラスカ様!私の謝りたいのはそのことではなく・・・」

 

 「ったくよぉ!オメー見てるといらいらすんなぁ。どうしてそう自分が悪いですー!て方向に持ってくかねぇ・・・せっかくブーさまが話そらしてくれてんのによぉ・・・。」

 

 いきなり割り込む、傍若無人な声。アーロンは思わずむっとする。しみひとつないつややかな肌に青筋を立て、同じくつややかな黒髪を振り乱さんばかりにしてその男をキッ、と睨む。

 

 「ジェクト!お前は、少しは自分が悪いという自覚を持て!!第一、ブーさまなどではなくて、ブラスカ様とお呼びしろと何回言っていると思ってるんだ!!だいたい数日前に、お前が酒をかっくらった上に暴れて、喧嘩して店を二つめちゃくちゃにしたのがもとの原因だ!武器を売って弁償して金を全部使って・・・宿の代金も、食費も、全くない状態から、今の状態に戻すまでどれだけ働いたと思っているんだ!?」

 

 ジェクトは「おお、うるさいのが終わった」とばかりに塞いでいた耳から手を離す。確かにそのことに関してはちょーっと悪くは感じていたが、過ぎたことは仕方ないというものだ。

 

 「ま、ま・・・いいじゃねえかよー。そんなにぴりぴりすんなって。どーせ誰にも期待されてないご一行なんだろ?だったら、そんなに急ぐことはねーって!」

 

 「貴様・・・!」

 

 「あー・・・これこれ!二人ともやめなさい・・・やめなさいてば・・・。」

 ・・・うるさい一行である。

 

 最低でもこれから数時間は喧喧諤諤が続くので、話を勝手に進めよう。彼らは、世界を「死の螺旋」から救うために旅を続けている。召還士ブラスカを頂点とし、彼を守るためにガードとしてアーロンとジェクトがついている。

 ・・・のだが。ごらんの通り、ガードの二人が堅物とトラブルメーカーなので、毎日が喧嘩で日が暮れていた。のだよ。

 

 (面白い・・・)ブーさまことブラスカは、穏便な外見に似ず、実はこういう騒々しいのが大好きである。ジェクトと一緒にアーロンをからかうのは特に楽しかった。彼は苦労しつついつも怒っていて、青筋から血液吹きそうなところもとってもカワイイんだなぁ・・・。え?この文は誰が語っているのかって?さあ・・・私は知らないねそんなこと。はっはっは・・・。まあ、ご想像にお任せするよ・・・。

 

しかし、私も二人の仲裁にまわらねばならないのでね・・・これ以降は、誰かに語ってもらうことにしようか・・・。

 

 と、喧喧諤諤の喧嘩を彼らが長時間にわたり繰り広げたので、その宿屋もおん出されたのは言うまでもなかった。

 ので、翌日の道中アーロンは朝から青筋立てまくりで、見るからにぴりぴりとしていた。雰囲気もばしばしに殺伐としている。

 

 (おー・・・背中が「何でオレが」って言ってるなぁ・・・。)

 

 ジェクトは型破りだし悪気のある男だが、たまには罪の意識くらい持つ。

 

 (後で謝ってやるか・・・。)と、ジェクトは珍しくそう考えていた。

 

 「おや・・・二人とも。あれを見てごらん・・・。」

 

 ガードの二人は、同時に素直にブラスカ様の指し示す方向を見る。なぜかこの人の言葉に、二人は従ってしまうのだ。なぜか。

 

 「ああ・・・青い花が咲いてますね・・・。懐かしいなあ。確か、数年前まで、僧院にも咲いてましたよね。」

 

 「・・・フラワーショップに、時たま売ってるやつだよな?」

 

 見ると、道の端には藍色をした、素朴なたたずまいの花が咲いている。ブラスカ様はその花にしずしずと近づくと、

 

 「これは、異国の言葉で『キキョウ』というらしいよ。」

 

 二人は意外なその言葉に興味をひかれて、彼の話に耳を傾ける。



NEXT  入り口へ戻る