入り口へ戻る

「小さな秘密」 由希奈

|
「あ」 ティーダは大木の根元に寄りかかるかたちでうたた寝をしていたアーロンに、思わず声を 上げた。 「うわ〜…寝てるよ」 なんとなく珍しいものを見たとティーダはそっと寝ているアーロンに近づく。 別に寝ているアーロンが珍しいわけではない。 彼だって人間だ。 疲れることもあるし、眠ることもある。 それこそ小さいときは毎晩のように添寝をしてもらったのだから……と、 「ごほんっ」 ま、まぁそのときの話は置いといて。 とにかくティーダはアーロンの寝顔なんか腐るほど見ている。 が―――――――こんなふうに無防備にうたた寝をしているアーロンを見たのは初めてだ った。 (なんかへんなの) 口を開けば自分勝手な小言か、からかいしを含む嫌味しか言わない癖に。 敵であろうと味方であろうと妙な迫力のある目で睨みつけてくる癖に。 黙って目を閉じているだけで、いつものアーロンとはまったく印象が違っていて。 ティーダは静かに寝息を立てて眠るアーロンの前にちょこんと膝を抱えて座りこんだ。 「疲れてる…のかな」 疲れていると思う。 アーロンは、人の言うことなんかちっとも聞かないし、 自分は人を平気で巻き込むくせに、すぐ関係ないとか言うし。 でも、けっして冷たい男ではない。 冷たい男ではないから、どうしても体力的に劣るルールーやユウナのことを常に気遣い、 戦闘に負傷したものがいれば何気に前に立ってくれる。 その冷たい態度や口調とは裏腹に、自分たちを体を張って守ろうとしてくれる。 (疲れて……当然だよな) ティーダは微かに疲労の陰りの見えるアーロンの顔を見て、小さくため息をついた。 もっと自分が強かったら。 せめて自分の身だけでも守れるようになれば。 ……アーロンは少しは楽になるかもしれない。 せめて…自分だけでも…… 「ごめんな…アーロン。疲れさせてばっかで」 ティーダは膝に顔をうづめると、小さく呟いた。 起きているアーロン相手なら素直になれないが、眠っている彼相手なら、いくらでも素直 にこういうことが言えてしまうのだった。 「はぁ……」 「―――――――何をしょげてる?」 「え?あ、アーロン?」 突然頭の上から降ってきた声。 ガバッとティーダが頭を上げると、―――――――アーロンがティーダを見下ろしていた。 「あんた、いつの間に」 たった今まで目の前で眠っていたくせに、いつのまにかティーダの前に立っていたアーロ ンをティーダはボケっとした表情でみあげた。 アーロンはそれには答えず、ティーダの腕をぐいっと掴みあげた。 そして、 「うわっ」 掴んだ腕をさらに上に引っ張り上げられ、ティーダはそのまま肩の上に担がれてしまう。 成長過程のティーダの体は華奢といっていいほどに線が細い。 元々腕力のあるアーロンにはこのくらい造作もないことだ。 「おい!何すんだ、降ろせよ!」 「軽いな、もう少し肉をつけろ」 「余計なお世話だっての!」 ティーダはたくましいアーロンの体と自分の貧弱といっていい体を見比べて、なんとなく 恥ずかしくなってしまう。 そりゃ、身長だって負けてるけど。 体重差は身長差の非ではないけど。 「でも、おれはまだ成長期だし、これからだってもっと大きくなるし…」 「無理だな」 「なんでっ!?」 「お前は体格は母親似だ。それ以上の成長は望めない」 「そんなことわかんねぇじゃん!」 「お前…ジェクトに少しでも似てるとこあると思うか?」 「へ?あんたよく俺のこと親父に似てるって…」 「性格上はな―――――――見た目ではどうだ」 「う…」 どちらかといえば、父、ジェクトもアーロンと同じ、たくましい体格だった。 (似てるとこ、似てるとこ…) ティーダはアーロンの肩に担がれたままう〜んとうなる。 「……性別、とか?」 「それは似てるとは言わんだろう」 馬鹿かお前は、と暗に言われたような気がして、ティーダがぷぅっとむくれる。 ……もちろんその顔があまりに可愛らしく、アーロンでさえ虜にしているという観念はテ ィーダにはない。 アーロンは僅かにティーダから顔をそらすと、そのまま歩き出した。 「お、おい!いいかげん降ろせよ」 「だめだ」 「恥ずかしいって…ガキじゃねぇんだから」 「子供だろ」 「もう大人だっての!」 「子供だ……俺にとっては、な」 ジェクトが行方不明になり、母親すら失って。 一人が恐いと小さな体を振るわせ、部屋の隅で蹲っていた子供。 それが、アーロンにとってのティーダだった。 「泣き虫で意地っ張りで……昔からちっとも変わってない」 「今は泣いてない!」 「泣いてるだろ?」 「いつ泣いたってっ!?ガキの頃ならいざ知らず、今は…っ」 「昨日……俺のベッドの上でさんざん泣いてたのはどこのどいつだったかな」 「なっ」 とたんに真っ赤になったティーダ。 アーロンの恥知らずな言葉に昨日のことが思い出されて。 珍しく宿で休息を取ることとなり、ティーダはアーロンと一緒の部屋で休むこととなった。 本当はワッカと一緒の部屋で騒ごうと思ったのだが、何を思ってかアーロンがティーダを 指名してきたのだ。 もちろん、何を思ってそうしてきたのかは……昨日嫌というほど思い知らされてしまった のだが。 「あ、あれはあんたが…っ」 めちゃくちゃしつこかったからだろ! そう叫びそうになり、ティーダは慌てて口を塞ぐ。 元々恋愛方面に免疫がない上に、恥ずかしがりやなのだ。 そんなこと、言えるわけがない。 「俺を疲れさせたくなければもう少し人の気持ちに敏感になってくれ」 「誰が鈍感だよ?」 先ほどティーダが何を思い悩んでいたのか、アーロンはしっかりと聞いていたらしい。 それが悔しくて、ティーダは意趣返しにアーロンの肩に爪を立てる。 「俺のこと鈍感って言うなら、あんただって対して変わらないだろ」 人の心に敏感かどうかは別として、人のことを無視してばかりのアーロンにだけはその台 詞を言われたくない。 いくら敏感でも、人の気持ちを無視する奴は鈍感な奴と変わらないからだ。 「少しは気をつけてくれ」 「はあ?」 やや疲れたように言い、ティーダの腰をぽんぽんと叩くアーロンに、ティーダは怪訝そう に眉をしかめる。 こういう鈍感なところがアーロンを疲れさせているのだともしらずに。 アーロンが疲れている理由は戦闘の時、皆をかばいながら動くという戦法のせいだけでは ない。 アーロンを疲れさせる一番の理由は……ワッカやキマリ、はたまたシーモアの異常な視線 にな〜んにも気付かず、ぺたぺた歩き回っている目の前のこの少年のせいなのだ。 (まったく、こいつを見張っているだけで疲れる) ふと目を放せばワッカのセクハラまがいのスキンシップの餌食となっていたり、シーモア のいかにもな視線に撫で舞わされていたり。(もちろんティーダは気付いてない) あのキマリですらティーダにはどことなく優しかったりするのだ。 (例えば疲れているユウナを放っておいてティーダに冷たい飲み物を取ってきてやるな ど) (だが――――――油断大敵だ) アーロンは肩の上で赤くなったり暴れたりと忙しい少年を見やり、ほぅっとため息をつい た。 そして、 「さっさと宿に戻るぞ」 「降ろせっての〜〜〜〜〜っ」 ぎゃあぎゃあとわめくティーダ。 そんな彼にアーロンは、 (こいつは声までも可愛い) と無表情の下で考えながら、少年のわめきをうっとりと聞いているのだった。 もちろん、アーロンが時にこういうスキンシップとは名ばかりのセクハラ行為に出たり、 夜のお楽しみのさいティーダを泣き出すまで散々苛め抜くのは……メンバーの男どもを牽 制するためだという事を、ティーダは知らなかったりする。 そして、そんな風に楽しくスキンシップをしている2人(アーロンだけ)を目撃したワッ カとキマリは……悔しさのあまりベッドの中で泣き寝入りするのだった。 |