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SPIRAL 野原ひなた
あれから、アーロンの様子が変だ。 妙に急いでる。何かに追われているかのように‥‥。 いつも訊ねても答えてはくれないから、きっと今も答えてはくれない。 それが俺にとってどれだけの不安になるか、あんたは知っているのか? そう、ザナルカンドの頃からそうだった。 いつも俺の側にいてくれて、いつも俺の心配をしてくれてた。 だけど急に突き放す。 寄り縋って、泣きたいようなときはいつも 突き放す。 分からない。何を考えているのか‥‥。 すごく、不安になる‥‥‥。 「ねぇ〜休んで行こうよ〜! 雷少ぉ〜〜しだけおさまるまで休憩しようよ〜!」 「時間の無駄だ。先に進む」 「こ〜〜〜〜んなに頼んでるのにダメ?! 鬼ぃー!!悪魔ーー!!お願いだから休んで行こーよー!!」 リュックがダタこねること30分。みんなは待ちっぱなしだ。 雷平原の雷はおさまることなんてないって言ってるのにリュックは譲らない。 アーロンも昔から頑固で譲らない性格だから、一歩も折れる気配がない。 「オイ‥‥お前からアーロンさんに何とか言ってくれよ。 いい加減、俺も疲れてきたぜー‥‥」 「俺から?マジっすかー?やな役押し付けんなよー」 「そこをなんとか頼むっ!このとぉーり!」 手を合わせて頼むワッカに、しょうがなく仲介役を引き受けてしまった俺。 こういう時のアーロンはえらく機嫌が悪いってのに‥‥。 「あのー‥‥さぁ‥。リュックの言うとおりちょっと休んで行かない?」 「‥‥‥‥‥‥‥」 サングラスから覗く片目が、すごい目で俺を睨んでる‥。 あ〜〜‥‥‥言うんじゃなかった‥‥。 「‥‥仕方ない‥モメるだけ時間の無駄だ。そのかわり明日は早いからな」 「ぃやったぁ〜〜〜!!さっすがティーダ!君っていい奴だねぇ〜♪」 「はは‥‥それほどでも‥‥‥」 アルベドの旅行公司は思ったより居心地がよかった。 でもユウナはまっ先に部屋に入ってしまって、 なんかピリピリした感じになった。 それよりピリピリしてるのはアーロンで、 みんなアーロンに気を遣って(というか恐くて)部屋に入ってしまった。 カウンターの人も、遅い時間になったからもういない。 だから‥‥残るのは‥‥ 「オイ」 「‥‥!‥は、はい?」 いつも機嫌直しな役の俺しかいない訳‥‥。 みんなこういう時は卑怯だなー。ユウナはいつもいてくれるんだけど、 今はそれどころじゃないしなぁ‥‥。 チョイチョイと手招きをするアーロン‥‥。 座っている近くまでいったものの、何も語ろうとはない‥。 今日は一段と分からない態度。 時折雷鳴が轟き、暗い室内を稲光が一瞬照らす。 そして部屋の奥の方から聞き覚えあるリュックの悲鳴が聞こえた。 「‥‥はは。まーた叫んでるよ。そんなに恐いもんかなぁ?」 「フン。お前がガキの頃は泣き叫んでいたがな」 「なっ!!今は平気だっての!」 ムキになって顔を赤くしてるのが自分で分かった。 そんなガキくさい俺を見て、ほんの少しアーロンが笑った。 少しだけ、ピリピリが緩んだような気がした。 だから何となく呟いてしまったんだ‥‥。 「‥‥ユウナ、どうするんだろう。結婚‥‥しないよな」 「さあな。本人が決める事だ」 「そっけないなー。アーロンは気にならないのか? ユウナ、シーモアと結婚するかもしれないんだぞ?」 「だからどうした。旅を続けるなら何しようと勝手だ。何も問題ない」 そのときは、ただ驚き呆れた。 俺の考える結婚っていうものは、もっと盛大で‥‥ みんなが幸せになるようなものだと思ってた。楽しいものだと思ってた。 グアドサラムのときから、皆と何か考えが違うような気がしてた。 みんなは何でこんなに冷静でいられるんだろう? アーロンはどうしてこんなに突き放した言葉を言えるのだろう? 「‥‥分からない。何でそんなに冷静でいられるんだ? こんな結婚どう考えたっておかしいだろ? なんでおかしいって思わないんだよ!」 「‥‥‥‥‥」 近くに落雷が起きた。大きな音が辺りに響き渡り、地が震えた。 そして、何故だか俺の瞳からは涙がこぼれ落ちた。 「何故泣く」 「‥‥‥泣いてない」 「泣いているじゃないか」 「泣いてなんかないって言ってるだろ!」 きっと、不安だったんだと思う。 ただでさえ知らない世界なのに、みんなと考えまでかけ離れてしまったら‥‥ そう考えたらひどく孤独だったから‥。 アーロンだけは‥‥ザナルカンドでの俺を知っているアーロンだけは 分かってくれると思ってた。少しでも同じ考えを持っていると思ったんだ。 雨音がひどくなってきていた‥‥。雷も相変わらず轟いている。 室外の音は絶えまないのに、室内はおかしいぐらい静かだった‥。 「お前はユウナに何を求めている?」 「‥‥‥?」 「お前は俺に何をして欲しいんだ?同意か?お前の意見の肯定か?」 「何言ってんだよ‥‥」 「そんなものは不要だ。お前が何を言おうとどう考えようと 最後に決めるのは、俺でもお前でもないユウナ自身だ。 そんなくだらん事に頭を使うのはよせ。時間の無駄にしかならん」 「‥‥‥‥‥」 「とっとと寝ろ。明日は早い。俺はもう寝るからな」 すばやくアーロンは立ち上がり、部屋がある奥へと消えて行った。 なんて‥‥‥ためらいも感じない人なのだろう‥‥。 誰もいなくなったロビーが、孤独感を引き寄せた。 俺は座り込み、気持ちが落ち着くまで声を殺して泣いていた。 ただただ‥‥‥悲しかった‥‥‥‥‥‥。 どのくらい時間が経っただろう。近づいてくる足音に目を覚ました。 今何時を回っただろう?誰がこんな遅くに‥‥? 確認するため、ほんの少しだけ視線をやった。 驚いて声を上げそうになった。その姿はまぎれもなくアーロンだったからだ。 「‥‥‥‥オイ‥こんな所で寝るな」 ついつい寝たふりをしてしまった。 まさかアーロンがまた帰ってくるなんて思いもしなかった‥。 「起きているんだろ‥‥さっさと立て。部屋に行くぞ」 「‥‥‥‥」 起きるタイミングを逃してしまった。 今さらひょっこり起きたふりなんか、かっこ悪くてできやしないし‥‥。 でもアーロンがこのまま行ってしまうのも嫌だし‥‥。 「‥‥‥‥‥‥全く‥」 「!」 急に身体が浮いた。アーロンが抱え上げたのだ。 そのままロビーを後にし、淡々と部屋へと向かうアーロン。 でも、その扱いは優しかった。懐かしい昔を思い出させる。 「随分と緊張しているな。心臓の音がすごいぞ」 「‥‥‥っ」 やっぱり起きているって気付いていた。 ゆっくりと目を開けると、アーロンが俺を見つめていた。 顔が赤らむ‥‥照れくさい‥。 「ふっ‥‥昔のように軽くはないな」 「あ、あったり前だろ‥‥俺だって成長してんだからさ」 「そうだな‥‥大きくなった」 部屋に着くと、ベッドの上にゆっくり俺を座らせた。 そしてまじまじと俺の顔を覗き込んできた。 「随分と泣いたな‥‥目が赤い」 「あ‥‥‥‥うん」 「‥‥‥すまなかったな。そんなに悲しむとは思わなかった」 「そんな‥‥‥‥俺がガキみたいに泣くのがいけないんだよ‥‥ 別にアーロンが悪いわけじゃ‥‥」 不意に抱き締められた。それと同時に雷鳴が鳴り響いた。 とても‥‥‥懐かしい感触だった‥。 キツく、とてもキツく抱き締めてくるのは 言葉では言い切れない想いを表すため‥‥‥。 互いに何も語らないのは、同じ事を想っているから‥‥。 サングラスを取ったとき、いつもは鋭い瞳がこのときだけはとても優しくて‥ 触れる唇は、もっと優しかった‥‥‥‥。 ‥‥昔と変わらない行動が、ひどく嬉しかった。 「スピラでのあんたの存在は、とても遠くのものに思えて‥‥ ようやく再会できても、素直になれなくて‥‥ 本当にザナルカンドで共にいたのかと思えるほど、 違う存在のように思えた‥‥。 一緒にいても、なんだか孤独で‥‥変わってしまったのかと思ってた」 「今ので変わっていないのが分かった‥‥か?」 「〜〜っ!!もう!肝心のトコ言うなよ!」 「ははは‥‥」 曇天の空に轟く雷鳴がかき消した。 すれ違う想い、わだかまり、考え方の違い‥‥。 叩き付ける雨が全て流した。 螺旋を描く悩める想いを‥‥‥‥。 また孤独を感じるかもしれない。 また泣くかもしれない。 また帰りたいって思うかもしれない。 これは俺にとって苦しい旅なのかもしれない。 知りたくもないことを知ってしまう旅なのかもしれない。 あんたがしようとしていることはまだ意味が分からないけど ‥‥でもいつだってあんたを信じてる。 いつだって‥‥‥あんたを‥‥‥‥‥ - the end - |