■わがままな上司■
一応、立場上フェリドはゲオルグの上司にあたる、ということで。
「わがまま」というのとはちょっと違うかもしれませんが、
普通に考えると滅茶苦茶な頼み事をしてくる。
それを黙って受けるゲオルグ、漢だなぁと思います。
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「もしも俺が命を落としたら、その時はお前がやってくれ」 (――――何ということを) その瞬間、急速に喉の渇きを覚えた。 よくも、そんな事を言ってくれるものだと、思う。 フェリドによってこの国に呼び寄せられてから丸2年、 当然、『予感』はあったはずだった。 自分はタダで¥オかれたワケでは無いのだと。 けれども、この日突きつけられた要求は、どんな予感も予測も、遙かに凌駕していた。 ・・・2年は長すぎた。 いつの間にかこの国の水に馴染んでいた俺に、また『戻れ』と言うには。 「極力、そんな事態にさせんよう、努力はするが、な」 穏やかな口調でそう言い、フェリドは2杯目の酒を煽る。 「お前は相変わらず、飲めんのか」 こちらの盃を覗き込んで可笑しそうに笑う彼に、今は軽口で返す余裕など無い。 ……非道いな。知っているだろう? 俺は昔から、あんたのように楽天的にはなれないんだ。 どうしてもっと早くに言ってくれなかった? この国で、『大切なもの』ができてしまう前に。 不意に、目の奥がチカチカするほどのフラッシュバック。 『ゲオルグは、どのチーズケーキが一番好き?』 城下の甘味屋で買ってきた、ありったけのチーズケーキを並べて、 楽しそうに笑った王子の横顔。 揺れる白銀の髪。 フェイタス河の色そっくりな2つの瞳が、真っ直ぐこちらを見上げた事…。 ――――まさか。 俺のこの気持ちさえ、利用したというのか、フェリド? 何が起きても、どんな状況下でも、俺があの子を守るように。 『命の恩は命で返す』と、俺が昔あんたに立てた誓いと共に、 今日のこの約束を、絶対的なものにするために。 ……だとしたら、あんたは相当な男だ。 「大丈夫だ」 こちらの思考を見透かしたかのように、落ち着いた声でフェリドは告げる。 「万が一、最悪の事態になったとしても、 あいつはお前を恨んだりしないよ。 何といっても、この俺の息子だからな」 (……そんな確証がどこにある?) 叫び出したいような衝動がこみ上げる。 (どうしてあんたがそれを保証できるというのだ) だったら、いっそ今すぐあいつをここへ連れてきて、誓わせてくれ。 『ゲオルグが母上を殺めても絶対に恨まない』と。 (……何という、子供じみた思考) 自分が動揺しているのだということに、この時ようやく気付いた。 言えるハズがない。話せるワケがないのだ。 王子にだけは、決して、何も。 「重いな・・・」 掠れた声でそう呟くのが、精一杯だった。 目眩がする。 事態は混沌へと向かっている。 【END】