パサージュ−7

 

騎手のいない馬がいた。鞍をつけ、手綱をたてがみに揺らせながら、ゴールを目指す。

いつも必死に走り、時に1位にもなるが、騎手がいないため、失格になる。

ゴールのあとの彼はゆっくり馬場を一周し、消えていく。観客も心の中で彼に賭けるが、馬券は当然だが買わない。そのくせ後方の集団で伸びない時の野次は彼が一番大きい。彼はそれを覆すべく、全力を振り絞る。そしてゴールのあと、馬場をゆっくり一周し、消えていく。

 

もし馬のいない騎手がいたら、観客の中の何人かがそう思い、広い馬場を見回す。

青い帽子をかぶり鞭を持ち、短い足で馬場を必死で駆け続ける小男がいたら。

そして騎手のいない馬がその男を見つけ、長い鼻先でその男をそっと突付き、自分の背中を恥ずかしげに示したなら。