パサージュー54

怒るな。

飲み込め。

汚れたエネルギーに相手は息を詰まらせている。

 

遠くの林でセミの抜け殻が風に飛んだ。

乾いた道路にほんの少し音を立てて落ちた。

                                  2002.8.1

 

膿に膨れた体で歩いている。

ぼくは人助けと歩いている。

 

みんなはよける。

臭いとよける。

ぼくは溶けた目で何も見えない。

ぶら下がった両耳で何も聞えない。

腐ってぶらぶらする腕を勢いよく上げ挨拶だ。

膿が飛び散リ、みんなは逃げる。

 

ぼくは人助けと機嫌がいい。

遠くのうつむく子供にぼくはここぞと走りだす。

べチョべチョになった両足が左右に溶けて崩れていく。

みんなは顔しかめ、足早に遠ざかる。

ぼくは人助けと機嫌がいい。

ぼくは間抜けな化け物だ。

可憐な花を踏みつぶし、緑の木々に膿をかけ、腐った匂いを地に溜める。

 

ぼくは人助けと機嫌がいい。

西に東に北に南に、駆けずり回る。

臭い匂いに目を赤らめ、腐った指を食いながら、渇いた喉に膿を飲み干し、闇夜の工事現場でのたうち回る。尖った角に額を打ち付け、高い鉄骨から飛び降りる。何度も這い上がり飛び降りる。

 

ぼくは人助けと機嫌がいい。

                                  2002.8.10

ぼくの後ろを干からびた魂が、着いてくる.

ところがこいつは夜ぼくに内緒で、音楽に合わせ女たちとじっとり目を合わせながら踊っているのだ.

 

真っ白なアスファルトで仰向けに転がっているセミたちは、夜中の3時コロンと起き上がると、眠っている森の木々へと星の輝きを身にまとい、一斉に突っ込んでいく.

 

腹の真ん中を引かれ目を剥き、両手を空に向けたままのウシガエルは、セミたちを追いかけ森に行き、月夜に光る小さな池へとまっしぐらだ.

 

立ったまま枯れている真っ黒なひまわりだって、夜は満点の星々に向かってくるくると回りよじれ、夜明けまでに元に戻るのに大慌てだ.

 

ぼくの輪郭は揺れている.

 

 

そのほんの数ミリの揺れの中に、ぼくの足りない全てが詰まっている.

 

セミたちは同時に木に取り付き、ウシガエルは空高くジャンプし、ひまわりは闇夜の星に背を伸ばす.

 

ぼくの魂が卑猥に女の背にそっと手を回した.

 

                               2002.8.28

 

明るい午後の或る日.

 

僕はいつか遠い昔に出会ったかもしれない、金色の長い尾の、目の青い鳥を木の枝に見ようと目を凝らした.

 

またいつか、悲しい何回もの一生を終えたら、同じこの木の枝で会おうと約束していたかもしれないからだ.

 

風が吹く.

 

僕はその鳥が風に姿を変えている可能性を考え、大きく息を吸いあたりを見回す.

 

僕は遠い昔その鳥の背中に乗った.

僕はその背中をきっと、何度も、何度も撫でた

僕を緑の台地に背を傾けおろした時、お前は崖へと石のように落ちていった

 

微かな羽音.

お前は死んでいく.俺の知らないどこかで死んでいく.

俺は木の枝を見る.

昔お前と並んで流れる雲を見たあの木の枝をじっと見る.

 

昔俺はお前と並んで