パサージュ−50

 

17の時思った,50になっても純粋と誠実だと.

弱さの言い訳.

 

今日も蝶をちぎっている.

セミを燃やした.

へびを塀に叩きつけた.

 

 

嘘はつき続けほんとになってしまい,始まりがわからない.

考えた事とやった事の区別はつかず.

どうせ自己弁護に尽きるのだから,過去などない.

 

自分の身を守る事しか考えなかった.

自分が良く思われる事しか考えなかった.

 

だから親指を焼いた.人差し指と中指を焼いた.

薬指を焼き小指を焼いた.

もう焼く指が無い.無いのだ.

 

1人で真夜中ローソクの炎に指をかざす

肉の燃える悲しい臭いと泣き笑い.

 

何を間違えた?

 

たたかった.

たたかった.

はをくいしばりたたかった.

まよなかいつもないた.くるいたくなかった.

よのなかくるってただろ.ばかさわぎ,ばかさわぎ,みにくくみにくくみにくく.ひとのため,ひとのために,こらえて,はしって,がまんして,おれはたたかったよ.じゅんすいとせいじつをまもる.

 

骨だらけの魚が流れに向かっている.

進むでもなく流されるでもなく.

同じ場所を.

白い骨が泳ぐ.

白い骨だらけの魚が流れに逆らって,

 

愛したか,愛したか,誰かを愛したか.

誰かを心底思ったか.

 

みんな死ね.みんな死ねとしか思わなかった.

じゃあ誰か思えたか.思えた奴がいたのか.

自分の事のように誰かを思えた奴がいたのか?いたのか?

 

 

いたのだろう.

きっと.

 

小鳥たちが羽ばたく.

青い空に向け,

小さな幾つもの点になり.

成層圏を抜け,

星の輝きをくぐり抜け,さえずりをにぎやかに響かせ,

光速を超え,時間を超え

 

宇宙は小鳥たちの鼓動に引っ張られている.

 

 

狂った世の中で,狂っていたのは僕だけだった.

みんな人を思い,自分の事のように思い生きていた.

 

黙って死ぬ.

 

 

空高く放り上げたナイフ.

輝き落ちる切っ先に喉を向ける.

 

 

聞いた.

人の悲しみや苦しみを聞いた.

人の悲しみや苦しみのゴミ箱になった.

僕はゴミ箱だった.

すっとした顔でみんな帰っていった.それを見て憎んだ.

 

ポストに火を投げた.

学校に放火の電話を入れた.

コンビニに毒を置いた.

 

 

世の中を思った.

世界を思った.

人のためを思った.

愛したかった.愛せなかった.

 

醜く汚い自分を封印した.

 

老いていく.

崩れていく.

ひび割れていく.

 

芽を出し茎を伸ばし花を開き種を残し枯れて行く.

できるわけも無い.

 

秒針が回る.

長針が回る.

短針が回る.

 

 

火花が降ってくる.

遠い闇から降ってくる.

僕は両手を広げその火花を浴びる.

体に小さな黒い穴が開く.

ぶすぶすと音を立て,熱い.

ぶすぶすと音を立てて熱い。

                                                                                                2001.9.1