パサージュ 5 その店の名前は「勇気屋」といい、駅前の銀行と本屋の間にあり、勇気を売っている。 店の作りはパン屋と似ていて、自動ドアを開けると左右に3段棚があり、各段15,6個ほど、全部で100個ほどの勇気が紙袋に詰められて売られている。 値段は一袋300円で、今日から3日間限りの限定販売、とショーウンドウと店内に大きく張り出されている。 朝7時のサラリーマンは忙しく客は誰も入っていないが、私は帰りに買っていこうと駅の階段を駆け上った。 その日は残業で駅に着いたのは11時過ぎて、店はもうシャッターが降り暗く、買うことはできなかった。 翌日は土曜日で会社は休みだったが、急に熱が出、昼過ぎまで起きられず、目を覚ますとすぐ妻に「勇気屋」で勇気を3個買って来るよう頼んだ。 妻は娘と一緒に自転車で急いで買いに行ったが、もう売切れだったと帰ってきた。明日が最終日なので、3人で早起きして勇気を買いに行こうと決め、早くに寝た。 翌朝3人とも寝坊をし、顔も洗わずに11時に家を飛び出た。 雨が降っていたが、先週の日曜日に買ったばかりの雨降りのお花畑の絵のかさがさせると娘が喜び、アパートの階段から落ちそうになり、妻もカールをつけたままだと引き返し、私は私で途中でトイレに戻り、またこれでは買えないなと思いながら、「勇気屋」へ全速力で3人で走った。 「勇気屋」には長い行列があった。 数えてみると87番目で娘に「勇気屋」さんにあといくつ残ってるか聞いてくるように言った。 しばらくして娘が顔を赤くして戻ってきて、今日はお客さん全員に作るから心配ないって言われたと言った。ほっとしたがお金を持ってきていないことに気付き、妻に聞くと妻も忘れていて、急いで娘に取りに帰らせた。 娘の黄色いお花畑のかさがくるくると回りながら、雨の中ピョンピョン跳ねていく。 |