パサージュ−41 熱い風が吹いた。 カーテンが揺れた。 僕は夢を見る。いつも同じ夢を見る。 僕はそれを知っている。 だが僕はそれに気づいていない。気付いた時僕の何かが崩れる。いや何かではない。それは意志だ。生きる意志だ。 赤い谷の底,見上げる空も赤い。 その中央に黒く渦巻く太陽がある。巨大な翼の鳥が引き込まれて行く。焼き焦げる音が聞こえたような気がする。 ぼくは石を背負っている。 その石を緑の葉と交換しなければならない。その相手を探している。 それを持っているのは小さな緑の瞳の人だ。 喉が渇く。 ぼくはようやくこの池を見つけた。 赤く濁った水。飲んではいけない水だ。 駆け寄り顔ごと池につけ赤い水を飲み続けた。 早く小さな緑の瞳の人と会わなければならない。背中の石が大きくなっている。やがてそれに押し潰される。 胸が熱い。赤い水のせいだ。 背中が痛い。石のせいだ。 小さな緑の瞳の人はこの星にはいない。ぼくは見捨てられていた。 ぼくはそれを知っている。 でも気付いていない。 雨が降ればいい。 幾つもある小さな赤い池はその雨で青く澄む。 その雨で赤い谷に緑の葉が茂る。 緑の人がいなくても緑の葉は手に入る。 だが赤い空に雨は降らない。 ぼくは赤く爛れ冷たい体を引きずる。 小さな緑の瞳の人はいない。 緑の葉は茂らない。 ぼくはやがて死んでいく。 爛れ潰され死んでいく。 ぼくはそれを知っている。だが気付いてはいない。 ぼくは眠っている。 いつも赤い谷をさまよう夢を見ている。 起きた時ぼくはそれを忘れる。 いつかぼくはそれに気付かされる。 熱い風が吹く。 カーテンがぼくに伸びてくる。
2001.7.29
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