パサージュ−4

私はいつものように、散歩に出る。

今日は天気もよくビルのかべのざらざらしたのもクッキリ見えて気持ちがいい。

手を押し付けるととげとげしてて、手のひらが穴だらけになる。

 前はこんなかべはなかった。となりの清水さんちが壊されて、とつぜん現れた。

三角形の灰色のかげが3つ横に並んでいて、それはどれも合同の形で、3人のアカンベみたい。アカンベしてやればよかったけど、そんなこと心の中でもできないから、今日だって泣いてばかりいた。理恵ちゃんももう助けてくれないし、あいさつも顔もみてくれない。

しょうがないよね。みんなつば吐きかけるし、けるし。左足だってもうなおらない。

 みんなどうして先生がいる時はあんなに良い子の顔ができて、いなくなると目がつり上がって、顔がゆがんで、言葉が悪くなって、むちゃくちゃになるんだろう。

私がいけないのかしら。みんな悲しいことがたくさんあって、それでその苦しさを私にぶつけてるのかしら。

 清水さんちのあったとこには、小さな黄色いいすが一つ、ポツンって感じでのこってる。

あそこにすわってみたいけど、だれかに見られたら恥ずかしいし、それにずいぶんきたないし、スカートがよごれていやだ。よごれるとすぐ見つかって、いじめられるから、気をつけないといけない。

教科書どうしよう。さがさないと。

でもお散歩のあと。いつもどおり、ゆっくりゆっくり歩く。

このビル人住んでるのかしら。

2階の窓はいつも30センチくらい開いている。

あそこからだれかが顔を出したり、さって通り過ぎたりするかもしれないから、しっかりと見てないといけない。

 ここの家はこわされたままで、整理されてないから、うらがえしのたたみやぺらぺらの戸やかべが散らかったままで、かわいそう。

大っきなブルドーザーが来て、ゴーゴー音立ててあばれまくっていた。

 ここの通りは生きている。

小さなかんばんがずっと並んでいて、色々な字がたくさんあって、どこに何があるのかもおぼえたし、字の色や形やいろんなマークもじゅんじゅんに言える。だれかと言い合いっこしたら楽しいのに。

 今度自動はんばいきでタバコ買ってみよう。

そしてかくれてすってみよう。パチンコ屋さんのうらのろじならだれもこないから平気だ。悪い子になったら、悪い子なんだから、いじめられても当たり前だ。お酒だって飲んでみよう。そしたらみんなもヘンに顔ゆがめたり、目をつり上げたりしないで、もっと普通に私をいじめることができて、こうかいやいやな気持ちになることもきっとなくなるだろう。

私はお散歩を毎日していれば、気持ちは落ちつくし、みんなも良くなる。

 今日もタバコ屋さんのこうしゅう電話では、だれかが話してる。

昨日は中年のサラリーマン。すぐに終わったけど、なんだか大きな声であやまっていた。その前は私と同じ小学生。知らない子だから、西小の子じゃない。電話でめそめそ泣いていた。

今日は若い女の人。えらくやせていて細い足。髪が長くてそめている。タバコふかして、時々じゅわきの横で思いっきりフ〜ってしてる。

明日もしだれもかけていなかったら私が電話しよう。

10円入れて、お話してるふりしよう。日曜日に原宿いく時間決めるの。

 小さな公園。

ブランコが揺れている。

こげあとのあるベンチ。

横になったゴミいれ。

まん中に大きな木が一本。

ここで10分、木のお話を聞くの。

 

 

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