パサージュ−39

 

 

両手をつないで歩いている。

海の底を何十人もの少年少女たちが歩いている。

黄色や青,赤緑の小さな魚の群れが,繋がれている細い腕の間をくぐり抜けていく。

少女の長い髪が細く伸びる海草と絡まる。

海底の傾斜がきつくなる。

底へ底へと降りていく。

彼らの柔らかな足の裏が固い岩底に形を変える。少女の頬をオレンジの小さな魚がつつく。

少女が少し笑ったような気がした。

 

 

 

はるか彼方の海面に近い太陽の光の届く所,巨大な鮫がゆっくりと体を回した。

体がきらっと光る。

細長い体の遠い先に子供たちがいる。

もう一度回った。

鮫は何かに気が付いたように体を斜めにした。

加速する。

次第に下降する速度は速まり,鮫の体は暗い海底に銀色に輝き始める。

 

 

 

蟹が目を上げた。

海老が体を起こした。

クラゲは向きを変えた。

 

 

 

子供たちから距離をおき海底に着いた鮫は,ちょうど子供達の頭の高さでゆっくりと距離をつめ始めた。

子供たちは上半身をゆらゆらさせ,手をつないだまま,音の無い緑の海の底を歩いて行く。

 

 

蟹が海底を素早く這った。

鮫が目を向けた。

蟹は鮫に近づきそして土煙を上げ鮫の進路を駆けた。

鮫は口を開け蟹を食った。

硬い歯に甲羅が小さな音を立てた。

 

 

海老が体を曲げ鮫の前にツーと体を出した。

鮫が目を向けた。

海老は鮫の顔の前で体を伸ばした。

鮫は口を開け海老を食った。

硬い歯にくしゃっと小さな音が響いた。

 

 

クラゲがゆらゆらと鮫の前を漂った。

鮫が目を向けた。

クラゲは鮫の目の上に体を浮かした。

鮫は口を開けクラゲを食った。

口の中をクラゲが吸い込まれていった。

 

 

 

鮫が目を向けた時子供たちの姿は消えていた。

鮫は海の底を2度回り。海面へと向かっていった。

                                                                                                2001.7.22