パサージュ-31

 

夏。

記録は伸びないと思っていたが、10`3819秒、19位。

思ったよりも良かった。20位以内なので賞状をもらった。

ぼくは一緒にトレーニングをした子に賞状を見せようと自転車を走らせている。

彼女は午前の部を終えてもう家に帰っている。

 

ぼくのマンションの屋上が大きな畳敷きの屋上になり、その畳が伸び、6棟の屋上が繋がり、巨大な合気道の道場になっている。一番端は、何百メートルと先にあり、見えない。

 

畳の匂い。

深呼吸をしながらぼくは道場横の舗装された道を自転車をゆっくり走らせる。

道の横にはタンポポが並んでいる。

透き通った紫の細長い花の中に大きな蜂が首を突っ込んでいる。

 

急な下り坂。

強い風も心地良い。

ぼくは今日、幸せだ。

 

 

遠くに太く高い滲んだ赤が見える。給水塔?倉庫?

 

みんなが行っている小学校だ。

校庭の中央に幅10メートル、高さ20メートルの赤い8角形の柱が立っていて、その辺のそれぞれにやはり赤いベンチがついていて、そこで子供たちが座ったり、立ったり、また座ったり、飛び乗ったリ、タタタと走ったり、注意したりケンカしたり、赤い柱がくるくると回っている。

 

よく見ると赤い柱の板のペンキは剥げめくりあがっている部分もある。

しかしそれはそれでいいのだ。

 

 

校庭の端の地面がわずかにぴしりと割れた。

蜂が紫の花から顔を出し飛びたつ。

 

ぼくは自転車を走らせた。校庭の隅を全力で目指す。

 

少しずつ伸びていく地面のひび割れに僕は両手を強く押し付ける。

ぼくの両の手のひらはしわが増え、血管が浮き出、ひくひくと震える。

 

このひびをここで止めるのだ。

手のひらにひびが走る。

骨が小さくぴしぴしと割れていく。

ぼくは体重をかけ、手のひらを地面に強く押し付ける。

ここでこのひびを止めるのだ。

 

 

赤い柱がくるくるとくるくると、ぼくの背中で回っている。

 

きっと回っている。

 

                                                              2001.6.16