パサージュ―29

 

春、夕暮れの駅のホーム.

高い天井には八羽の鳩.

 

僕は初めてのグローブを、胸に抱きしめている.

 

パパが左右のポケット探ったあと、見知らぬ人に向かって歩いていく.

ちょっと頭を下げて、

右手を口に持っていった.

 

相手の男の人も右手を口に持っていき、顔を傾けた.

 

小さな点が二人の間に赤く浮かぶ.

鳩が飛んだ.ヒュンユンと音が横切る.

抱き合った彫像のような二人.

 

シーンと時間が止まった.

 

 

パパは傾けた体を戻すと頭をちょっと下げた。

 

男の人も同じようにちょっと下げた.

 

戻りながらパパはフーと煙を吐きだし、笑った.

 

 

みんな静かにたたずんでいる.

僕はいつかきっと同じことを大人になったらしようと思った.

それが大人のしるしだと思った.

 

 

 

電車が来た.

大きなスーツの大人たちがゆっくりと前へ出る.

                                                                2001.6.6