パサージュ−26 山なりのボールがパパの大きな胸を目指していく。 遠く光る白い土の上、大きな胸が立っている。 小さなぼくは跳ね上がり、足をもつれさせ、 歯を食いしばり、前のめりに、大きなボールを青空に放り投げる。 大きな胸が待っている。 ボールは放物線を描き、青い鳥を追い越し、小さな虫を背にのせ、 太陽を目指し、でも力尽き、落ちていく。 落ちていく先に胸がある。 大きな胸がある。 だから小さなボールは速度を増し、勢いをつけ、落ちていく。 晴れやかな音が夏の庭に響き渡る。 ある日僕はボールを持った。 ボールは小さく手にすっぽりと入り、大きな胸はすぐ目の前にあった。 指にボールはしっかりとかかり、大きな胸の向こうに広々と青い荒野が見えた。 ぼくは2本の指に力を込め振りかぶり、足を上げ、踏み出し、上体をしならせた。 ぼくは投げた。ぼくは無我夢中でわけも分からずに、荒野に向け投げ込んだ。 白いボールはいつかのように空へと舞い上がり、 いつかよりも遥かに遠く、大空を目指し、飛んでいく。 どこへ? でもいつか戻っていく場所を知っているから、ボールは青空に突き刺さっていく。 ぼくは背中に大きな胸を感じ、空を飛ぶ。
2001.5.23. |