パサージュー22 浜辺に打ち上げられ砂に立つ魚の頭. 微かに開いた口からは無念の腐臭が漂い, せめて打ち寄せる波に体を寄せようとするが,動かず, 波はあと数ミリを的確に残し,海へと帰っていく. 暖かな春の風になぶられ,白い蝶に笑われ,アリ達に小さな穴を開けられ. やがて夏になれば輝く太陽に焼かれ干からび,風に散っていく. 食いちぎられた胴体の痛みを,僕は懐かしむ. 荒くれた波を尻目に海と空とを行き交った. 風を超え,白い波しぶきを空に叩きつけた. 一気に海底の硬い岩に鼻先を叩きつけ,垂直に海面を目指し突き抜け,太陽の光を反射した. 全てがクリアーだ. 波の音と風の音,鳥の鳴き声,通り過ぎる子供たちの声,犬の息,全てがクリアーだ. ぼくは食いちぎられた魚の頭となり,砂浜の10cm四方の片隅で,まだ砂に立ったままの姿をさらしている. 微かに開いた口からは無念の腐臭が漂っている. 僕は誰かに蹴られる事を,誰かにくわえられ引きちぎられる事を,誰かに拾われ捨てられる事を,願っている. 風が臭い.
2001.4.30 |