パサージュ−  20                      

 

細長い茶色の道を自転車に乗って進んでいく。

僕の背中には暖かな体温があり,小さな手が腰からおなかに巻かれている。

ペダルが重い。風も強い。小さな腕に力が入る。

いや昨夜から入り続けているのだ。きりきりと食い込んでくる。

 

柔らかな頬とゆっくりとした息。

寝ている。

 

夕方の田舎道は鳥が多く,低く飛んできては舞い上がり,ふわふわと赤い羽根が自転車の周りを舞っている。

 

息苦しさが急に重く襲う。ハンドルが取られた。

 

この道はどこに通じているのだろう。

道は少しずつ登っている。この先には広い原っぱがあったはずだ。

そこで48年前23人が焼身自殺をした。今そこには何体ものお地蔵様が並んでいると聞いた。

 

この子は誰だろう。いつから僕の腰に抱きついているのだろう。どんな顔をしてるのだろう。男の子だろうか,女子のだろうか。

 

大人や子供や年寄りが手を振っている。みんな笑っている.

僕は少し腰を上げペダルに体重をかける。汗が吹き出る。

 

細い腕が腹に食い込み痛い。

 

ふっと舞っている赤い羽根がぼくの鼻と口に当たった。取れない。苦しい。

いい香りがする。

 

みんな殺してやる。誰も殺せなかった.

 

背中の子が起きた。

小さな額を僕の背中に押し付ける。

ふっと離すと額で背中をたたき始めた。ゆっくり何回も叩く.

息が熱い。

僕は全身に力を入れ自転車を前へと進める.

自転車は左右に大きく揺れる.道の小さな石を踏むプチっという音が聞こえる.

 

血だ.血の匂いだ.

今度こそみんな殺してやる。

背中の子が背中を押す。

今度こそ殺せる。

                                                    

                                                              2001.4.22