パサージュ2

 

このエスカレーターに終わりがないことに気がついたのは、40年程前だったと思う

当時私は学生で、大学に行く途中だった。

寝不足で立ったままうつらうつらしそうになリ、はっとして体を硬くしたが、まだ上には着いていず、壁のポスターを見るともなく、見ていた。

 ふと前にいたはずの、甲高い声を響かせていた小学生の姉弟がいないことに気付き、かわりにミニスカートに長い髪の女と、がっしりとした体格の若い男とが笑い合っていた。

振り返ってみると、さっき重い荷物を持ってあげた中年の女の人の頭は、えらく白くなり、にこっと笑う顔は皺に埋もれていた。

それから体がなんだか重くぐったりとなり、体から息が抜け、前のめりになった。必死で体を起こし顔を上げるとそこには中年の男女がいて、黙りこくっていた。

 振りかえると、小さな骸骨が、ぼくを見上げて2度3度と頷き、前の二人は腰を曲げ、前のめりに崩れると、体が消え、白い骨が起き上がってきた。

後ろから赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。

 ぼくだけが同じ姿で手摺りに手をのせている。

ゆっくりしたエスカレーターはどこまでも上っていく。

華やいだ声、枯れた風、死の匂い、誕生の響き、密やかな囁き、押し殺したうめき声、号泣、ぼくの周囲を渦が巻き、ぼくはその真ん中で、手摺りに手をのせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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