パサージュ-19

 

町が消えた。

中学の3年の2学期まで住んでいた町だ。

電車から降りてプラットホームから改札を抜け階段を降り顔を上げた時,そこには小さな森とそこに続く長い階段しか見えなかった。石の階段だ。所々欠けている。

 

森は深々としていた。風に大きく揺れていた。何かの鳴き声が小さく低く響いていた。

森の緑の両側には青い空が広がっている。白い鳥が視界の端をゆっくりと移動していく。

 

僕は階段を目指した。

階段の先は森の中へと続いている。階段の両側に何本もの木が生い茂りその先は暗く小さな丸い穴になっている。

 

行くのだ。登っていくのだ。

 

風が体にまといつき,石段へとぼくを引き摺り上げる。そこには何かの意志が働いてる。と思おうとしたが,何も感じられない。ただ僕は引き摺られていた。

 

ぐぅっと引き上げられる。

階段の上にゆっくりと左右に動く強大な生き物を感じた。

食われるのだ。

ゆっくりと咀嚼され,飲み下される。

そしてしばらく経って,排泄された。

 

ほんの少しべたついたカスはすぐに風に乾き,小さなちりとなって飛んでいった。

飛んでいく白い鳥はそんなちりには目もくれない。

 

僕が育った町は消え,ぼくは排泄されちりとなり,たった一つの思い出を思い出そうと,歯を食いしばった。

でももうそんな意志は青い空へと消えてなくなる。

 

小さな森はゆっくり左右に揺れる。その揺れ方はとても心落ち着くものだ。

 

                                       

                                                         2001.4.8.