パサージュ−15

 

小さな島だ。

砂浜は狭く、すぐに小高い山がきれいな円錐を作り空を目指す。

深い森のみどりが海の透明な薄い青と溶け合っている。山はしかし、その頂上付近を水平に切り取られ、近づくと円錐ではなく、円錐台であることに気づかされる。その頂上には、森をうめる木々とは種類の違う木々が茂っている。

 

 潮の香りも確かにした。だがそれ以上に何か甘い、濃密な大気が林を覆っている。木はどれも低かった。ぼくの身長より少し高いぐらいで、幹も細く、どこか頼りなげだ。だがどの枝も大きな実を垂らし、その数は多く、枝はしなり、遠くから滴のように見える。そしてそうした滴が全部で14あった。

 幹も枝も、実も、雲や海鳥の声も、木々の遠近や空の青もみなくっきりと明瞭で、目に迫ってくる。だが目に見える印象にどこかちぐはくな違和感があった。

 

 やがてぼくはそれは木の枝の幾つもの実にあることに気がついた。

実の中には霧が流れ、胎児がいた。

人、犬、ふな、くじら、アナグマ、杉、菊、きつね、カブトムシ、たぬき、蝶、百合、かたつむり、カラス、モグラ、玄武岩、象、かまきり、バッタ、へび、、1本の木に様々な胎児が目を固く閉じている。

 霧は厚く渦巻き、胎児はゆっくりと小さな収縮を繰り返している。生々しく、なまめかしく、じっとりと濡れ、身の回りの輪郭をぬらぬらと揺らしている。

ぼくは息苦しく、首を振った。

 

 足元を異なった空気が走った。

振り向くと赤い目と舌の白い大蛇が波のようにうねりながら木々へと近づいている。

胎児たちがいっせいに身を引き締めた。白蛇は木々の間をゆっくりと進み、時々を首を上げ、止まり、また進む。やがて1つの実の下で止まった。

赤い舌がさっと伸びる。その先端が実に触れる。実が振動しゆっくりと枝を離れ、開けた大蛇の口へと落ちていく。

へびは大きく首を反らし、戻し、もと来た道を戻り始めた。目が白くなっている。

胎児たちから緊張が消えた。

 

 

 1つの実がぐっと重みを増し、ぶるぶるっと震えると枝から落ち、地面に触れる直前にふっと掻き消えた。

受胎したのだ。

 

 

 

 

命が待っている。命が待っているのだ。