パサージュ−1

 

 待ち合わせの時間を思い出せない。しかし場所はここで間違いない。

右手に鉄パイプで組まれた小さなステージがあり、青いスポットの中、素足の長い髪の少女が顔を上げ遠くをじっと見つめて動かない。

その横の青い池を、仰向けに浮いた髪の短い同じ年頃の少女が笑みを浮かべながら、ゆっくりとターンを繰り返している。

 すでにここで20分待ちつづけている。この周囲には2人の少女と私しかいない。

私は近くの小高い丘に場所を移すことにした。あそこからここはよく見えしかもこの木の陰に身をおけば周囲からは見えない。

 

どちらなのだ。

今日もまた1人殺される。阻止しなくてはならない。

子供殺しの狙撃手をさがし、殺す。それが私の使命だ.

 

「お待ちになりましたか?」

 

男が丘の反対から笑いながら姿を見せた。

 

「たぶんここだと思いました。下は目立ちますからね。結局はここになる。」

 

男は犠牲者のリストを私に渡した。

 

「この子です。」

 

男のわずかな笑いがそののっぺりした顔に長く残った。

この顔にこそ殺人はふさわしい。

 

だが私の顔はどんな顔なのだろう。

 

「ナイフですか?銃ですか?それとも絞め殺しますか?」

 

私はケースから銃を取り出した。暑い日差しの中、銃はいつまでたっても冷たいままだ。

いつものように頬を銃に当て目を閉じる。ひんやりした感触が血の温度を下げ、一瞬ほんのわずかだが眠くなる。私の癖だ。

 

 ゆっくりと目を開ける。

真剣なまなざしの長い髪の少女。

私の顔はどんな顔だったろう。

引き金に手をかけた。

 

その時私は思い出す。私が阻止すべきその狙撃手だ。

 

引き金を引くと同時に左手で銃身を跳ね上げた。思いがけないショックに頬の骨がきしむ。

銃声に素足の長い髪の少女が、わずかに眉を寄せ、首を傾げ、ゆっくりと首を回す。

私は銃身をくわえ、引き金を一気に引く。

 

男はこんな時にも笑っている。