創作

パサージュ―1

 

ぼくのすぐ後ろをおじいちゃんが歩いている。両手を腰に当てて歩く影が、左足を引きずりながら、ぼくの前に出たり後ろになったりする。

ぼくはそっとおじいちゃんの細い首をふんづけてみる。

細い首は何事もなかったように、ゆれながらのびたりちぢんだりしているが、僕の足の裏から出ている悪魔の光線は、確実におじいちゃんの命を縮めている。

 僕は太陽の光を体の中に入れるために、不自然にならないように両手を広げる。

背中がぽっと温かくなるのが気持ちいい。ぼくの影の色が濃くなり、マンホールはぼくの影で消えてなくなってしまう。

 朝のお散歩は、楽しい。

はちきれたごみ袋があちこちに転がっていて、ごそごそと野良犬が顔の半分を突っ込んでいる姿は、とても可愛く、細く針金みたいなしっぽは、おじいちゃんの手の指みたいで、ぽきんと折れそうで、触ってみたくなる。

 曲がり角の、めくれてぼろぼろの木の電柱は、足元を鉄の鉄板で守っている。あと2週間で木の電柱は鉄の足元だけを残して、折れてしまう。ぼくがいつもそっと触っているから、喜んで満月の夜遅くに、頭を地面にこすりつけるのだ。

道に張り出している木の枝には、小さなつぼみが数え切れないほどついている。

ぼくが顔を上げるとみんなは体を震わせながら、早く大きくなりたいと口々に叫ぶけど、ぼくはピンクに透ける小さな手を木の枝に向け、落ち着くようにと、何度も繰り返す。

 おじいちゃんが少し遅れたので、ぼくは振り返り手を差し出す。しわだらけの顔が笑う。おじいちゃんの頭をふみ、首をふみ、胸とおなかをふむ。

 玄関から中学生が出てきて、しゃがみこむとくつのひもを結び始めた。

ぼくは丸まった濃い影をいつもより強く力をこめて踏みつけようと、歩幅を合わせる。