小川vsガファリ 2002.8.8 何とも情ない試合だった。 たかが1発鼻に入っただけで、敵に後ろを見せマットにうずくまるようなクズ野郎としか試合ができなかった小川。 だがその不幸を小川自身が招いたことを小川は自覚する必要がある。 もともとこの試合はまったく急ごしらえのものだった。 小川の相手はなかなか決まらなかった。 あと1ヶ月。 この間で相手を決める基準はやはり小川の勝てる相手でなければならない。 だがこの半年、小川は本来彼が持っている総合格闘技家としての試合をしていない。 プレデタ−とのチェーンデスマッチなど茶番でしかない。 「迷走、小川」 「暴走王」ではなくそれが小川の枕詞となっていた。 あらゆる格闘技の集大成、最強の格闘技、それがプロレス。 猪木がぶち上げた定義を小川は受け継ぐ。 それはいい。 プロレスは観客の望むもの、いや観客もまだ知らぬ意識化に潜むあるもの、それを観客に具体的に差し出す者、それがプロ。 それもいい。 見せる真剣勝負。 それをこそ小川は望んだはずだ。 それはまた猪木がプロレスという名のもとに示し、示そうとし続けたものだ。 観客に見せようという意志のない、マニアにしか届かない真剣勝負。 暗黙の了解を守ったままの痛みは確かに理解できるが、本来は一瞬の油断で決まるはずの格闘技の緊張感を持たないいわゆるプロレス。 この二つに分かれていく現状を猪木とそのあとを継ごうする小川は憂い、一瞬の隙をつく真剣勝負でありながら、なおかつそれを見る者に見せようという意志を持ち行う。その不可能をこそ小川はプロレスという名のもとに実現しようとしていたはずだ。 ところでそこで何よりも必要なものは勇気だ。 敵は目の前のリングの中の相手とリングを取り巻く観客の二つ。 その両者を相手に闘うには何よりも勇気が必要だ。 一体当事者でありながら第三者でもあるような不利な立場に身を置きながら、誰が本気で殴りあったり蹴りあったり絞め合ったりできるだろう。 身を捨てる覚悟と勇気がなければできない技だ。 小川はことさらに総合とプロレスとに分かれていく現状に口をはさもうとはしなかった。プロレスは総合も当然含むものだからだ。 だが周囲は小川をプロレスラーとは見ていない。 柔道を基礎とし、その後パンチとキックを修行した総合格闘技家。 それが小川だ。 だが彼は自分をプロレスラーと定義する。 もちろん格闘技の集大成としてのプロレスラーだが、彼はプロレスという言葉の中の観客の意識化に望むものを見せるという部分に引っかかり、金網チェーンデスマッチなどという勘違いへと流れていく。 自分の本質が総合格闘技家である自負と自信があるが故の勘違いだ。 そしてこの1年彼の試合はプロレスでも総合でも格闘技でもない迷走状態へと流れていった。 そして8.8. そんな小川が勝てる相手とは。 もちろん実力は世界レベル。 だが世界トップ級では小川は勝てない。 現在の彼にトップ級の真剣勝負はできない。 その流れに彼が長い間いなかったからだ。 そこで見つけ出されたのがガファリ。 実力はトップ級。カレリンと互角に戦った。過去の実績は小川に匹敵する。 ただ今その力はない。 大体あの腹は何だ? 戦う人間の腹ではない。実際実戦からは引退している。トレーニングをしていない40歳。 ちょうどいい相手だ。 もともとこの試合は小川がローキックを何発か決め、倒れたところをスリーパーでも逆十字でも簡単に決まる試合だった。 あとはそれをせずどう観客を喜ばすか。小川のさじ加減1つで決まる試合だった。 ローは最後まで打たない、ガファリの攻めをどこまで受けて盛り上げるか。 それがテーマだ。 とにかく蹴りもパンチも経験のない相手だ。 しかもスタミナもない。 攻めさせて、盛り上げて、後半蹴りかパンチで形勢を入れ替え、払い越しで巨体を何度かマットにバウンドさせ、ラストはスリーパー、STOとどうとてもなる試合だった。 それがまあ、小川のミスで一発入れてしまった。 きちんと試合をしていればあのパンチは後半にまでとっておくパンチだったのだ。 小川がきちんと総合格闘技家としての自負と自信を持った試合を続けていたならば、あのようなクソ野郎を今回当てられることはなかった。 今もタイツからぶら下がったあの腹には吐き気がする。 猪木は言った。 日本から格闘技を発信する。 小川はいらぬことは考えずに総合格闘技家としての自分を遠慮せずに示していけばいい。 プロレスだの総合だの定義づけゴッコを狭い日本のマット界で行う必要などない。 闘う相手がいない。それが小川を悩ませ続けてきた。 いいのだ。 世界を相手にすればいいのだ。 ヒクソンから始めて、これからは無名の選手がいくらでもでてくるはずだ。K1の選手でもいい。いやまずK1から始めるべきだろう。 さらに今回タイソンまで猪木が動かしていたことが明らかになった。 世界相手でいい。 いよいよ小川が小川であることを証明する段階にやってきたのだ。 今回のこのクソ試合で彼はそのことをしっかりと自覚してほしい、と思うのだ。 2002.8.8 |