8.28.国立.ノゲイラvsサップ 死力を尽した二人に感動!! この試合には感動した.特にサップにだ. 8.28.一番の試合だった. どう攻めていいのか、どう守っていいのかが全くわからないまま戦い続けなくてはならないという究極の状況の中での試合だった. サップは凶暴な野獣を自己演出し、相手を威嚇し、一気に勝負を決めるつもりでいた. もちろん相手はプライド王者、打撃もでき、投げ技、組み技、極め技は超一流. 当たり前にはいかない. だから組んですぐにノゲイラの心を折ろうとした. 下から三角締めを狙ったノゲイラを一気に持ち上げ、パワーボム、叩きつけた. これで極めるという事ではなく、この事で自分は当たり前に関節技は効かない、規格外のパワーと体をしているということをまずノゲイラの体にはっきりとわからせるつもりだったのだろう. この時サップは全身全霊でノゲイラを持ち上げ、叩きつけたはずだ. 以後サップは無理やり体重を押し付け、左右の豪腕パンチを連打する. だがノゲイラは実に微妙にサップの重心を崩し体重をかわし、振り下ろす腕をガードし体をひねり、パンチを当てさせない. このときサップは迷ったはずだ. 何で自分の下にいて動きが止まらない. 何で自分のこの凶暴な両腕の連打が効かない. これまでの試合ではもう終わっているはずだ. ブーイングの中で誇らしげに憎らしげにガッツポーズをとっているはずだ. しかしまだこいつは体に絡み付いてくる. なんだこいつは? ノゲイラにしても同じだ. いかに巨体でも関節を逆に取れば動けない. 人間の体はそうなっている.しっかりとポイントを押さえればいいのだ. 技は力に勝つ. だが何だこの体は. 固めても動きが止まらない.力でふりほどく. ありえない事だ. なんだこいつは? ここからは二人とも不安と恐怖の中へと追い込まれていく. サップはいつ自分のスタミナが切れるか. ノゲイラはいつパンチをまともに入れられるか. 2人とも攻め手がない. だが相手は向かってくる.どうすればいい? 少しずつ心が砕け始める. しかし2人とも攻める事をやめないのだ. サップはよれよれになりながら、ぶつかり、持ち上げ、殴りつける. ノゲイラは大蛇のような腕を足を追いかける. だがともに効果は無い. だが諦めないのだ. 自分の体が覚えているもの、自分の心が培ってきたものを信じ続ける. それを捨ててしまえば楽にはなれるが、プライドは地にまみれ、負け犬となる. 二人とも重い鉄の塊となった自分の体を引きずり、萎えそうになる心を奮い立たせる. どうすれば勝てるかが全くわからなくなったままで半端じゃない相手と闘うことは、とてつもない恐怖だろう. ノゲイラは1度寝技を諦めた. 関節を極められない以上、ヒットアンドアウェイで細かくパンチを当てていくしか攻め手は無い.それは試合に勝つための作戦だ. しかしそれは屈辱でしかなかったはずだ やはりノゲイラは関節を極め巨体サップからタップを奪いたかったに違いない.それがプライド王者のプライドだからだ. 2人とも呆然としながらも戦いを止めない. 2人とも泣き出しそうな顔で戦い続ける. サップのスタミナがついに切れた. あの巨体でノゲイラ相手に動きつづける為のスタミナはやはりあそこで限界だったのだろう. あっという間にサップの動きが鈍くなる. 勝機が見えた. サップのロックをはずしにいく時、ノゲイラは心の底から嬉しかったはずだ. ともにホッとしたに違いない. サップでさえも終わった事を頭の片隅で良かったと思ったことだろう. だが次の瞬間悔しさで胸が張り裂ける思いになったに違いない. 彼は元々凶暴な筋肉お化け、ではない. インタヴューの端々に、自分をアピールする為の最良の方法として強暴な野獣を演出する事がベストであると考えているのがわかる. 頭のいい人なのだ. それが一番良くわかったのは、試合開始のゴングをコーナーで待つ時の不安に満ちた目だった. これからの試合がこれまでのような簡単な試合でないことを十分に理解していた目だ. 彼はモーリス・スミスの指導でノゲイラの関節技への対処法を学んだ. だがいきなりノゲイラだ. しのぎ方しか学ぶ事ができなかったはずだ. それに元々アメフトの選手だ. 投げたり組んだりのトレーニングはした事はないはずだ. もしせめて力任せではない投げ技の一つでも持っていたら. あれば絶対に役に立ち、なければ絶対に不利になるものが自分にあるという事がわかる. 自分はそれを今持っていない. 自分に欠けているものに心から悔しい思いをしたはずだ. コーナーに顔をうずめ、サップはこれからのことを思ったに違いない. 投げ技や組み技、締め技のトレーニングを始めるか. それともやはり…… これを機にサップが総合のトレーニングを始めたら. ものすごい格闘マシーンが出来上がることだろう.何しろ真面目な人だ. 彼はそれをやるか. それともやはり武藤の全日に参戦してプロレスに染まるか. 染まる事への誘惑を断ち切ってほしいとぼくは心から思う. 2002.9.1 |