青い金魚.そしてくり抜かれた体.  −3

 

ぼくは幸一と小3から同じ小学校、同じスイミングクラブ、同じ塾に通った。小3になる春、新興の住宅地に引っ越してきて、おなじ形の一戸建ての家の隣同士となったのだ。

 3年、4年と幸一はいつものんきにのんびりしていた。友達にちょっかいを出されてもニコニコしていた。ぼくは幸一のそんなところに苛ついていたが、幸一のお母さんからリュウちゃんよろしくね、と言われていたので、いつも幸一を見ていた。

幸一は物事の始まりと終わりが特にだらしなかった。学校でも塾でもクラブでも遊びでも、始めと終わりの区別ができなかった。

授業が始まっても教科書は出さず窓の外を見ていたり、それまでしていたこと、ノートに絵を書いていたらその事を、かまわず続けていた。学校の先生も最初は注意していたがそのうち諦め、ぼくは言われた通り自分が幸一を見なくてはならないと思い、いつも教科書とノートを出し、落書きは引き出しに入れ、鉛筆と消しゴムを出し、幸一がぼんやり考え事をはじめたときは鉛筆で横っ腹をつついた。

そんな時幸一は体をくねらせてうれしそうに笑ってぼくを見た。ぼくも笑い返したが、苛ついてもいた。そして不思議なことにぼくと幸一は卒業するまで同じクラス、席は隣同士だった。

 

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学校からの帰り道、幸一が春は蝶を追い、夏はせみをじっと見つめた。

 

 

暖かな6年の春の日、ひらひらと舞う蝶と同じように幸一は体を揺らしながら、うっとりとした顔をし、平気で道路を突っ切っていく。

蝶はまるで幸一をどこかに連れてでも行くかのように、2度3度と舞い戻りながら公園の花壇へと向かっていく。

アスファルトに蝶と幸一の影が薄く大きくなったり小さくなったりしながら動いていく。

ぼくは耳を澄ます。

蝶の羽音が聞こえる。

幸一の心臓の鼓動が聞こえる。