夢日記. 2002.2.12.28

 

21.金曜日.

 

ぼくたちはつかまった.僕たち3人は警察につかまり、尋問を受けている.僕は安心していた.何も証拠は無い.いつも細心の注意をしてきた.見つからない.ほかの誰かが捕まっても僕は大丈夫だ.それだけの犠牲を払ってきたのだ.

 

テレビにビデオが挿入され、再生された.

 

カメラが動く.

僕はドキッとした.

僕が自分の殺人を撮影した画面に似ていたからだ.

気付かれぬよう注視した.

ゆっくりとカメラが左から右へとパンし、止まる.

血だらけの3人の男たちが映る.

全員ぐったりとうなだれ、既に死んでいる.

 

だがそれは僕が映したものではない.

僕はホッとする.

となりの友だちがわっと泣き叫ぶ.

こいつは捕まって死刑だ.

僕はうまくすり抜けた.

これで解放だ.

 

遠く上のほうでバタバタと音が聞こえる.ヘリだ.

いやな予感がする.

見上げるとはるか彼方に小さくヘリが見え、白い雲の中から機体を現し、また雲の中に入っていく.

そこから声が聞こえる.

「次のビデオを流せ」

 

画面が変わった.

さっきと同じように左から右へとカメラがパンする.

その移動の早さには覚えがある.ぼくが撮ったビデオだ.

 

全身がぞっと鳥肌立った.

ぐっと心臓がわしづかみになった.

体中から血がひいた.

息ができなくなった.

 

 

僕が撮ったビデオだ.

ばれていたのだ.

終わりだ.

 

ここで終わったのだ.ここで終わるのだ.

苦しい.息苦しい.

でも僕は悪いことはしていない.

絶対にわかってはくれないだろうが、僕は悪いことはしていない.

僕はいつも正しいことを、正しいことだけをやってきたのだ.

 

誰もわかってくれないだろうが.

 

27.木曜日.             

クリアーな映像だ.

 

細い道、昔ながらの塀に土の道.水原弘のアースの看板が並び、木の電柱が立っている.

木造の家、中が見える.6畳一間に、奥に台所だ.

僕は途中であった顔なじみの子供とその家の戸を開けた.戸の開く音に台所で食器を洗っていた女の人が振り向いた.

大きな5角形の眼鏡をかけていて最初はわからなかったが、ちょっと前まで一緒に働き、リストラで退職させられた同僚の女の人だった.

 

僕は部屋に上がった.

何もない部屋だ.

正面の壁には土壁を塗る際にわざと土を波打たせ、荒波を航海するいっそうの船がそこから浮き出ている.

全体がブルーに濡れている.

 

「2階見ていい?」

「2階ないよ.

いつもの、男のようにさっぱりとした口調で彼女が言った.

 

「階段あるじゃん」

僕は戸を開け階段を上った.

登っていくと海が見えた.しかしすぐに階段が途切れ、僕は階段を下りた.

 

外に出て家を見ると確かに2階はない.

 

隣の家には広い庭がありそこには犬が放されていた.

 

連れの子供が犬に手を伸ばした.

犬が子供の手をかみそうになったので、犬の顎を下から掴み、喉をくすぐった.

すぐに犬は笑い顔になり、僕たちは家に帰ることにした.

 

ぼくは自分の家がわからなかったが、この古い通りを歩いていればそのうちにつくと思い、人ごみを掻き分けながら歩きつづけた.

 

古い通りが終わり、高層マンションのある広場についた.

エレベータが見える.

それに乗れば自分の家につくのかもしれなかった.

 

だが何階で降りればいいのか.ぼくは思い出せず、そのまま広場を通り過ぎた.どこに行けばいいのか思いつかなかった.

 

212.火曜日.

広々とした雨上がりの運動場.

ぬかるんでいる.

その左隅にプレハブの小さな建物がある.

6畳一間の大きさで、半分に区切られ、真中に擦りガラスがある.

 

生徒の母親(中3の親.今回うまく推薦で合格.子供も喜んでいる.)がそこで男に聞かれている.

「昨日の夜です.誰か来ませんでしたか.

 この部屋に入ったと思うんですが.

 

母親は首をかしげている.

 

だが僕は知っていたのだ.

昨日の夜中だ男がきて、何か書類を捜し出て行った.

擦りガラスの向こうにその姿が見えた.

母親はそれを見ていた.

僕と一緒に見ていたのだ.

 

母親は本当に知らないように見える.

僕はその演技に感心するが、もしかしたら本当は誰も来なかったのかもしれない.

 

では僕は何を見たのだろうか.

僕は混乱し、外に出る.運動場はぬかるんでいる.僕はヒョイッと水溜りを飛び越えて歩いていく.

 

219日。水曜日。

小さな校庭。

男子校だ。中学生の男しか見えない。みんな校庭でうろうろしたり走り回ったりしている。騒がしい。

 

そこでサッカーの試合をしなければならない。僕は校庭に出るとすぐに味方を探した。

まだ11人そろっていない。僕は味方の一人を見つけると相手の点取り屋のマンツーマンとゴール死守の二人を除いて、とにかくパスなど通らないのだからボールに群がってボールをゴールまで運んでいこうと話す。

何回かセンタリングやシュートをするが決まらない。

 

校庭と校舎の境のまでの濡れた薄いピンクのカーテンが下がっていて、それを北朝鮮の若い兵士が、故郷の花の色にそっくりだとにこにこ笑いながら僕に言う。

実際その薄い赤は息をしているようにつやつやと美しい。

兵士の目は細く笑い顔がとても穏やかだ。

僕はそのカーテンを抱きしめたくなる。

 

階段に犬がお座りをしている。

そのあごを下からそっと持ち、目を近づける。

犬は喜んで尻尾を振る。

僕は犬の鼻にふざけて息をふ〜っと吹き入れる。

犬はびっくりして喜んで、立ち上がりふーっと息を吹き入れられたまま、トントンと足踏みをする。

鼻の穴がじわっと濡れていて、目をまん丸にして、尻尾を振る。

 

可愛くて可愛くて。

 

223日。土曜日。

田舎の道を歩いている。太陽の光は強く、道は薄い茶色に輝いて見える。僕の前にはスーツ姿の男が5人歩いている。生徒の勧誘に営業で歩いているのだ。

 

垣根の向こうに平屋の家があり、中が見える。エプロンをした母親と34年の男の子。

僕たちはぞろぞろとその家に入っていった。

 

さっそくその子供に割り算の計算が解けるかどうかを、診断することにした。

僕はまずいと思った。

計算は302×25.

0が入っている。

0はまずい。

0の概念がこの二人にはない。

なぜなら彼らはこの星の人間ではないからだ。

 

僕はまずいと心の中で繰り返す。

このことで彼らの素性がばれる。そのことはとても危険なことのように思われる。

男の子はまるで計算ができない。

 

帰り道。

 

来る時に僕は覚えていたので、その道に入り込む寸前で男達を止めることができた。だが体半分ほど違う次元の中に入り込み、風景が半分男達の周りでずれていくのを僕は見た。

 

別の日、今度は一人で例の男の子の家に行くことになった。

あの道に来た。

僕はなぜかその道に入った。

白い石段の道が降りているのが見えたからだ。

そしてそのそばで若い男女が抱き合っていて、それを避けることでその階段を自然と下りていくことができると思ったからだ。

 

また風景が変わっていく。

 

校庭でみんなかがキャッチボールをしている。

僕は彼らに向かって大声でフ〜ア〜ユ〜と叫ぶ。

彼らは同じようにキャッチボールを続けるだけだ。

 

225日。月曜日。

 

母親と面談をしている。

ぼくは生徒の資料を見ながら一通り話すと、話し好きの母親にうんざりしながら、しかし微笑を絶やさず話し続ける。

しかし次第にストレスがたまり始め、言葉の調子が強くなっていく。

 

生徒はとにかく自分の事も、人の事も、世間の事も何もわかっていない、いい加減な奴で、調子がよく、他人をなめている。

ぼくの一番嫌いなタイプの生徒だ。

 

だがそんな事はおくびにも出さない。

だが腹の奥底ではいらいらし始めていて、言葉に敵意がこもり始め、ぼくはこのままでは爆発して、腹の底の全てをぶちまけてしまいそうな衝動に駆られ始める。

 

そのとき隣の女の子がゆっくりと資料をぼくに差し出した。

女の子は会社の同僚だ。

少し気になっている子だ。

ぼくは差し出された書類の白さに落ち着きを取り戻し始め、またゆっくりと話し始める。

目の前の母親は、思っていたより小さく、サルに似た顔を醜く縮こませている。

 

ぼくは可愛そうになり、言葉を選ぼうと思う。

 

226日。火曜日。

 

風呂に入っている。大きな風呂だ。ぼくはゆっくりとしている。良い気分だ。

お湯は緑で揺れている。

ぼくは目を閉じ大きく息をつく。

 

目を開けた。

えらくお湯の量が増えている。

それはどんどん増えている。

溢れ出た後もそのまま増えつづけ、天井にまで緑のお湯の層が届くのではないか。そしてぼくはそのお湯の中で溺れ死ぬのではないか。ぞっと体が震える。

 

ぼくは急いで風呂場を出る。

出たすぐの所で灰色の作業着の男が飛び出てきたぼくに目丸くして驚き、じっとぼくを見つめる。

 

ぼくは仕事を邪魔したと思い、裸のままの自分をどう言えばいいのかと迷ってしまう。