12歳の殺人。彼は自分の心がずたずたになっていることにも気付けない。

 

12歳少年、子供殺し。

酒鬼薔薇聖斗、佐賀バスジャック、家族殺し、幾らでも少年犯罪は続いている、これからも続く。そして年齢は下がる。

当たり前だ。親の資格のない親にいかにも親ですという顔をされ束縛されながら何年も息苦しく生きているのだ。どの子も着実に着火点に近づいている。

尊敬すべき、真似をしたくなる大人のいないこの国では、子供は自分の闇を照らす事ができない。

 

この国では既に親になる覚悟も思いもなく、その為の教育も何もないままに親になった世代が2つ続いている。今の子供には両親も祖父母もいない。従うべき価値も、自分で考えたり感じたりする力もない。

そんなことは教えてもらってはいないのだ。

本能の壊れている人間が、生き方や考え方を教えられないまま生きている。

 

何も描かれていない地図を渡されたのだ。

渡す方は素晴らしい地図だと自信満々だ。

捨てるのも悪いので(優しいのだ)、見る振りをする。

地図は真っ白だ。その地図を真剣に見、役に立ったと喜ぶ振りをする。

地図には何も描かれていないのだから先に進みようがない。周りを見る。みんなの行く方に行く。みんなも同じだ。地図を見る振りをしながらみんなの足元を互いに盗み見ながら、それに従って歩く。

 

ある時みんな一斉に思う。何て馬鹿馬鹿しい事をしているのだ。

だがそれを口にするまでには時間がかかる(彼らは優しいのだ)。

それはそれで意味もなく未来もなく満足も喜びもないが、みんなもそうなのだから我慢もできる。

 

みんないっしょに滅んでいける。

そんな自分たちは愚かで、くだらなく、無価値だ。だがそれもみんながそうだ。ガマンできる。

だが悲しい事にそんな愚行に何年も耐える事はできない。大人は愚行を絶えられる。だが命が育ちつつある子供にはそれができない。

それが悲劇だ。

彼らはある日もうよそうよ、と思う。

この地図には何も書いていない。

何の意味も価値もない。

そしてそんな地図に従う振りをしてきた自分にも価値がない。

他のみんなだって同じだ。

ぼくたちは価値がなく、無力で、意味のない存在ということで共通点があるだけの、クズの集まりだ。

そして何よりもクズである理由は、だからといって地図を破り捨てる事もできず、周りの連中と連絡を取り合うこともせず、ただ立ちすくむ事しかできないという事だ。

 

だがやがて立ちすくむことに飽き、自分のクズに飽き、自分を処罰する衝動に駆られる。もう終わりにしよう。

だが彼らの肉体は悲しい事に生きることに没頭している。命は成長しつつある。血はますます音を立て体を流れる。骨もきしみながら伸びていく。

髭が生え始め、胸もふくらんでくる。

背は伸び、体重は増えていく。

命は理不尽に生きることを強制する。

 

だが意識は死を望んでいる。クズの自分を処分したく思っている。

だが自分を殺す事はできない。命はそれを拒否する。意味もなく拒否する。

だが彼らはもう立っていられない。自分のクズに耐えられない。

自分を処罰する。この世から消し去りたい。こんな意味も価値のない存在には耐えられない。

そして彼らは彼らが心より望んできた、純粋で美しく、だから弱くギリギリ守ろうとしてきたものを殺すことで自分を処罰しようとする。

 

酒鬼薔薇も長崎の12歳少年も自分より小さく純なものを殺した。

一番大事にしたい大切なものを壊した。

そうする事で痛みを自分に課した。痛切な痛みを経験したかった。

それだけが自分だけの、確かなものになるはずだと感じた。

 

純粋さへの憧れと自分への嫌悪。憎悪。

自殺衝動と生きることへの無意識の欲求。

 

引き裂かれた少年はもうどうしようもなかったはずだ。

酒鬼薔薇はその引き裂かれた状況をまだ言葉にする事ができた。自分なりの儀式も行えた。

だが今回の長崎12歳少年にはそれが感じられない。

もう言葉による内省は不可能になっている。

ただ彼の胸の中を理解できない千の刃物の感情のうねりが飛び回っていたはずだ。

真に悲惨な事はそうした自分の心を彼が感じ取れていなかっただろうということだ。

死にたいと生きたいの狭間で、ただ真っ黒な感情の波に訳もわからず引き回され、胸を詰まらせていたはずだ。

 

 

少年法改正の前にそうした悲惨きわまる彼の心を想像するべきだと思う。

そして彼らに時代の悲惨な代表者として、自分自身を表現させるべきだと思う。治療ではない。我々の知らない病にかかった者としてその状況を語ってもらうのだ。

行った事の重大な意味を牢獄の中でしっかりと見つめ、自覚し、言葉に置き換える努力を何年、何十年とかけてすべきだと思う。罰や抑止ということでなく、その為にこそ刑法は改正されるべきだと思う。